2008年04月30日

ラベンダーフォックス 第17話

ラベンダーフォックス 第17話「仰天変身!雪の防狐の正体!?」

【人間→獣人】

 

静かだった。何もかもが。ひしゃげた天井から、時々落ちてくる雨の雫ももう殆ど無くなっていた。雨上がりだけど、寒くはなかった。 それでも、私の身体と唇が震えていたのは、私の心が震えていたからかもしれない。

 

「何時まで父親に守られているつもりだ?ラベンダーフォックス」

「・・・トルネードオウル・・・さん」

「この姿に、さん付けはしなくていい。気味も語呂も悪い」

 

鋭いフクロウの眼光は、父さんにかばわれる様にしてうずくまっていた私を見下ろしていた。その視線は軽蔑や失望とは違っていたが、 それを受けていると、私は胸がぐっと握り締められるような苦しさを感じていた。

 

「・・・今日で何回目だ?」

「え・・・?」

「ラベンダーフォックスとして戦うのが、何回目だと聞いている」

 

トルネードオウルは語気を強めて問い直した。私は慌てて頭の中で今までの戦いを思い出す。

 

初めて変身して蜘蛛の怪物との戦い、ヴィスタディアが操っていた植物の怪物との戦い、 雑居ビルでイノシシ獣人に変身した井筒刑事との戦い・・・。

 

「・・・これで、4回目・・・」

「今まで3度勝てたから、今度も勝てると思ったか?」

「違っ・・・そんな驕りのつもりは・・・!」

「じゃあお前は、強くなるために何かしたのか?体を鍛えるなり、武道を身につけるなり、或いはラベンダーフォックスやこの町の事、 神々の事、ラベンダーフォックスとして求められることをこなすために、お前は何をした?何かしたのか?」

「ッ・・・!」

 

何も言い返せなかった。トルネードオウルの言う通り、私はラベンダーフォックスになってから一度も、そういうことはしてこなかった。 ただ目の前の事実を受け入れて、ただ言われるがままに戦ってきただけ。戦う決意と、行為が、 伴っていなかったことを今の言葉で痛感させられた。

 

「気持ちだけで戦えるなら、誰だって勇者になれてしまう。そうじゃないから、守る側と守られる側が存在する。・・・分かるか? ただ守られていただけのお前に、戦うことの意味が・・・守る側の意思が」

「・・・」

「返す言葉も無いか。・・・口だけは一丁前と思ってたが・・・」

「ほらほら、睦美ちゃんもそんなにいじめないの」

 

うな垂れる私を見かねてか、松原さんがトルネードオウルの肩をぽんと叩きながら、穏やかな表情で言った。 トルネードオウルは振り返って、しばらくじっと松原さんのことを睨みつけるように見ていたけど、やがて一つため息をついて、 翼になっている自分の腕で、松原さんの手を払い除けた。

 

「いじめているわけじゃない。戦う者として、当たり前のことを言ったまでだ」

「少しは妥協とか、協調とかさ、考えてよね?睦美ちゃんだって、光音ちゃんだって、九重ノ司として一緒に戦って組んだからさ。 仲良く仲良く」

「・・・ふん」

 

トルネードオウルは私に背を向けると数歩進み、小さな声で唱えた。

 

「・・・精霊憑解」

 

睦美さんの声にあわせて、トルネードオウルの身体が俄かに黄緑色の光で包まれたかと思うと、彼女の輪郭がおぼろげになる。

 

そこからは、さっき見た睦美さんからトルネードオウルへの変身を逆再生したようなものだった。広げた翼を初め、 全身の羽毛が黄緑色の光となってふわっと弾けるように消え、代わりに人の身体が姿を現す。トルネードオウルが着ていた巫女服は、 変身前睦美さんが着ていたものへと戻り、光が鎮まった時にはその姿はすっかりもとの睦美さんに戻っていた。 同時に彼女の身体から小さな黄緑色の光が飛び出し、ぐるっと睦美さんの周りを一周した後、すっと伸ばした睦美さんの手の甲の上に止まった。 するとその姿は、一羽のツバメの姿へと変わる。

 

「ご苦労だった」

「まったく、本当に精霊使いが荒いんだから」

 

ツバメはあからさまに疲れたという表情を作りながら、睦美さんの声に答えた。

 

「・・・お前も何時までその姿でいるつもりだ?」

「え・・・」

「忘れたのか?その姿の維持にはお前の生命力を費やす。・・・黙ってても、お前の身体は蝕まれていくんだぞ」

「あっ・・・」

 

そう言われ、私は慌てて立ち上がろうとする。よろける私を父さんが支えてくれて、何とか自分の力で立ち上がると、 私は華核に触れながら小さな声で唱えた。

 

「霊狐・・・憑解・・・」

 

その声に反応して、私の指先から紫色の光があふれ出す。その光が私を包み込むと、 私が着ていた巫女服が光の粒になってパァっとはじけた。代わりに私の身体を、元々私が着ていた服が包み込む。 そして私の身体もキツネの輪郭が揺らいでいき、あっという間に人の姿へと戻った。唯一つ、変身前と違うとすれば・・・私の表情だけ。

 

「・・・悔しいか?」

 

睦美さんが私に背を向けたままそう言った。私の表情が見えていなくても、私の呼吸や気配で、何となく分かるのかもしれない。

 

「・・・質問・・・ばかりですね」

「・・・お前に、答えなど期待していない」

 

睦美さんはそのまま壊れた玄関の方へと向かい、結界の外に出ようとした。しかし直前で足を止め、しばらく無言で立ち尽くした後、 ふと私の方を振り返り声をかけてきた。

 

「あの時・・・」

「・・・?」

「あのサルが、無数のナイフを操って私を攻撃しようとした時・・・お前の声がなければ、もう少し私は不利だったかもしれない」

 

睦美さんはそう告げ腕に力を入れると、その身体を淡い緑色の光が包み込み、彼女の身体は宙へと浮かび上がった。 そしてそのまま結界を越えて、あっという間に何処かへ飛んでいってしまった。

 

「・・・『ありがとう』・・・ってことだろうね」

「え?」

「睦美ちゃんなりに、お礼を言ったんだろうね。全く素直じゃない。・・・でもそういうところがまた心くすぐられるんだけどね!」

 

松原さんはどこか嬉々とした表情で睦美さんが飛び去った空のかなたを見つめていた。

 

「・・・太一くん」

「え?あぁ、はい」

 

不意に父さんが松原さんに声をかけた。少し驚いた表情で私と父さんの方を振り返った松原さんは、数歩コチラに歩み寄りながら答えた。

 

「とりあえず、今日はわざわざ来てくれてありがとう」

「いえ、その前に光音ちゃんをここに送りに来てましたし」

「・・・睦美ちゃんにも、お礼を言っておきたかったんだけどね」

「まぁ・・・彼女には必要ないでしょうね。そういうの煙たがって『ふん』なんて言って終わるのがオチでしょうし」

 

2人はさっきまでの戦闘の緊張を感じさせないほど、穏やかな表情で談笑を始めた。

 

・・・でも、こうして客観的に2人が並んでいる姿を見ると・・・何となくこの2人って似てるなって気がしてきた。 顔とかは全然似てないけど、なんて言うか・・・空気感と言うか。時々突拍子も無くテンションが上がったり、女の子に優しかったり・・・あと、 眼鏡とか・・・眼鏡の奥に光る、優しさと厳しさを併せ持った瞳とか。類は友をなんちゃらってやつだろうか。

 

「・・・じゃあ、今日のところは帰ります。帰って・・・デュオデック・・・でしたっけ?あいつ等の調査と対策もしなきゃいけないし」

「うん、そのあたり、任せてもいいかな?」

「ええ。・・・デュオデックの件は、俺がやるべきでしょうし」

 

松原さんはそう言うと、結界の外へと出て行った。すぐに車のエンジン音が聞こえ、その音が遠ざかっていった。

 

「・・・さて・・・と」

 

父さんは少し参ったという表情で、改めて家のほうを見た。・・・改めて確認すると、本当にボロボロだ。窓ガラスは粉々、 天井は開いている。どう考えても住める状態じゃない。

 

「・・・どうするの?」

「まぁ・・・直すより立て直した方が早い気がするなぁ・・・」

 

苦笑いしながら、父さんは腰に手を当てて少し考え込んだ。

 

「・・・ガス管の爆発・・・いや・・・隕石の方が自然かな・・・?」

「・・・ひょっとして、壊れた理由考えているの?」

「だってそうだろ?『サルとイノシシとウサギの獣人に襲われて、キツネの獣人とフクロウの鳥人が応戦する中で、 色々壊れてしまいました』とは説明出来ないでしょ?」

「あぁ、いや、まぁ・・・うん、それはそうだけど・・・」

 

確かに、いきなり家がこんな風になってしまっては、周りの人だって不思議に思うだろう。まして、今は父さんの結界の力で、 結界の外の人達はこの家の異変に気付いていない。だからなお更、結界を解いた後突然家がこうなっていれば、 やっぱりおかしいと誰だって気付く。

 

「・・・まぁ、いいや」

「まぁ、いいの!?・・・そんな簡単な問題じゃないと思うけど」

「それよりも、今晩泊まる所の心配しなくていいのかい?」

「あぁ、いや、まぁ・・・うん、それもそうだけど・・・」

「・・・特に希望が無ければさ。・・・ちょっと光音ちゃんに、会って欲しい人がいるんだけど」

「え?」

 

私は父さんの顔を見上げて聞き返した。

 

「こんな遅い時間から?」

「うん。泊まるところも兼ねて、その人の家に行こうと思うんだ」

「急に押しかけて、迷惑にならない?」

「大丈夫大丈夫。多分」

 

なんて、安心感の無い「大丈夫」だろうか。なんだか、逆に心配になってきた。そんな私の不安をよそに、 父さんは結界の外へ出ようとする。

 

「・・・いいの?外に出て。結界・・・どうなるの?」

「界離?解いてもいいでしょ。何時までも張ってると、僕の体力が持たないし」

 

私は静かに頷き、父さんの後を追うように駆け足で結界の外へと出た。そして改めて自分の家を振り返る。

 

・・・なるほど、と思った。外から結界の中の家を見ようとすると・・・なんていうんだろう。 映っている映像は壊れかけた家そのものなんだけど、何故かそれが異常な姿だと感じない。・・・と言うよりも、 そもそもここが私の家であるという感覚が麻痺してくるような、そんな感じ。

 

「今、界離の中と外では空間が違っているからね。中の出来事は外では認知出来ないようになってる」

「そう・・・なんだ?」

 

何だか、分かるような分からないような・・・兎に角、さっきまでこの家で起きていた戦いのことは、 周りの人は認識すらしていなかったということは確かだ。

 

「・・・そこって、歩いていくの?」

「そうだよ。そんなに遠くないし」

 

私は父さんの後をぴったりとつけるように付いていく。

 

・・・正直、さっきの戦いの疲れは無いわけじゃなかったけど、弱音は吐けない。私は、あの戦いで何も出来なかった。 そんな私が弱音を吐く資格なんて無かった。

 

私はラベンダーフォックスとして弱かった。決して自分を強いと思っていたわけじゃなかった。力に自惚れてもいなかった。でも、 睦美さんの言う通り、私は今までラベンダーフォックスとして強くなるために、何か努力をしてきたのかと聞かれれば、何もしていない。・・・ 結局、私はラベンダーフォックスとして戦うための準備が何も出来ていないことを思い知らされた。

 

私は、ラベンダーフォックスとして強くならなきゃいけない。強くなって戦わなきゃいけない。・・・ その思いがますます強くなっていった。だって、今までと事情が違う。デュオデックは、私の命を狙っているのだから。私自身が強くならないと、 解決しない問題になってしまったのだから。

 

「・・・ねぇ」

 

私は前を歩く父さんに声をかける。父さんは少し振り返りながら答える。

 

「どうしたの?」

「・・・さっき、私が戦う強さを望むなら・・・手助けできるかもしれないって言ってたでしょ?・・・あれってどういう意味?」

「あぁ・・・そうだね、じゃあそれも行ってから話すよ」

 

父さんは笑顔でそう答えると再び前を見て歩き始める。・・・行ってから話すってことは、 これから会う人ってそういう話をしてもいい人って事なのかな?私がまだ知らない、九重ノ司のメンバーがいるのだろうか。

 

そうこうしている間に、私と父さんは一軒の割と大きなマンションへとたどり着く。 割と古いマンションのようでオートロックなどは無いようだ。私たちはそのままマンションに入り階段を昇っていく。 そしてある階にたどり着くと父さんは廊下へと出て、そのままある部屋の前で止まった。

 

「・・・ここ?」

 

父さんは小さく頷くと、早速インターホンを押した。しばらくするとドアの向こうから歩いてくる音が聞こえ、鍵を解く音が鳴り、 ようやくドアが開く。

 

「はい」

 

ドアが開くと共に聴こえてきたその返事は、まだ何処か幼さを残す、高めの少年の声。・・・なんだけど・・・ どうもどこかで聞いた声があるような気がしてならない。

 

「や、久しぶりー」

「だ、大地!?どうして急に!?っていうか、何でここに!?」

「うん、まぁー色々と事情があってね。・・・と言うわけでっ」

 

すると、父さんは不意に両手で私の肩をがしっと掴むと、強引に私を自分の前に連れ出し、部屋の中にいる少年と向かい合わせた。

 

・・・やっぱりさっき聞いた声、私の記憶に間違いなかった。だって、部屋の中にいたその少年は。

 

「病弱工事現場男!?」

「呼び名が悪化してる!?何だよそれ!」

 

透き通るような白く綺麗な肌。妙に印象づくその姿。そして、無駄なテンションの突っ込み。間違いなくあの、日高悠里その人だった。

 

・・・って、日高くんと父さんが知り合いってこと!?どういうことなの!?

 

「な・・・なんで光音を連れて来るんだよ!僕はまだ光音に何も・・・!」

 

日高くんも狼狽している様子だった。凄い慌てた表情で父さんに食って掛かろうかといわんばかりに問い詰める。過去2回見てきた、 落ち着いた様子の彼からは想像出来ない姿だった。

 

でも・・・ちょっと待って。何だか違和感を感じる。

 

「・・・ねぇ、日高くん?」

「あっ・・・うん、何のようだよ、青藤」

 

日高くんは、やや上ずった声で私に視線を落としながら答えた。・・・よほどうろたえていたんだろう。 思いがけない形で墓穴も掘ってくれた。私は、一つ息を飲み込み、呼吸を整えながら彼に問いかけた。

 

「・・・一体何時から、日高くんは私のこと”光音”って呼ぶようになったの?」

「え?・・・あぁ・・・最初からじゃなかったっけ?僕、基本的に人の名前はほら、名前で呼ぶし。大地のこともホラ、ね?」

「でも、今さっきは”青藤”って呼んだよね?」

「え?あ、あーホラ、光音じゃ悪いかなって。ね?ほら、ね?」

「・・・ていうか、なれなれしすぎない?昨日や今朝とは、随分態度が違うみたいだけど」

「それはッ・・・!」

「はい、尋問はそこまでー」

 

私が更に日高くんのことを追及しようとしたとき、父さんが私の肩をぽんと叩きながらそう言って私の言葉を止めた。私は、 言おうとした言葉をぐっと喉の奥のほうへと押し込んで、父さんのことを見上げた。日高くんは、相変わらず戸惑った表情を浮かべながらも、 改めて父さんの方を見上げながら問いかけた。

 

「どういうつもりだよ・・・今まで散々姿隠してきたと思ったら、急に現れて・・・その・・・光音を・・・連れてきて・・・」

「もうね、僕も悠里くんもコソコソする必要、無さそうで・・・っていうか、そんなことしてる場合じゃないって言った方が適切かな?」

「え?」

 

日高くんは眉をひそめながら聞き返そうとした。しかしその時、父さんがすっと長い腕を日高くんの目の前に伸ばし、 手の平を広げながら呟いた。

 

「でもその姿じゃアレだから・・・ね?」

「ね?ってちょっ・・・!」

「問答無用ッ!」

 

父さんは、日高くんの目の前で広げた手をぎゅっと瞑ると、ぱちんと一つ指を鳴らした。・・・すると、 その直後に突然日高くんがその場にうずくまり始めた。

 

「え?何・・・何をしたの・・・?」

「見てれば分かるって。ほら」

 

そう言われ私は目の前で苦しそうにする日高くんを見た。・・・そして、彼の身体を見た瞬間、背筋が震えた。・・・ 怖いという意味じゃない。・・・いや、違う意味で恐ろしいものを見た気がする。彼の身体には、白い毛が生えていたのだから。

 

・・・雪のように白い、美しい毛。それを持つ獣に・・・心当たりがあるわけで。

 

そうこうしている間に、目の前の日高くんの姿はどんどん変わっていく。着ていたシャツの袖から伸びていた彼の腕は徐々に短くなり、 毛で覆われながら、獣の前足と化していく。身体がどんどん小さくなり、鼻先は黒ずんで先へと尖り、耳は頭の上にピンと立つ。 そしてシャツとズボンの間からはフサフサの尻尾が飛び出す。

 

・・・そう、そこにいるのはもう、日高悠里という名の少年じゃなかった。いるのは、一匹のキツネ。しかも真っ白な。でもって、 凄い気まずそうな表情の。

 

これじゃあもう、名前を呼ぶしかない。

 

「・・・ユキ・・・!?」

「・・・キュー・・・」

 

・・・明らかに、わざと普通のキツネのような声を上げているのが分かる。 どう考えたってしらをきることが出来ない状況だと理解出来ないはずは無いのに。私は勢いよく彼に問い詰めようとしたが、 その時突然目の前を何かに遮られる。それは父さんの手だった。

 

「じゃ、光音ちゃんもついでに、ね?」

「え?」

 

すると、私の目の前で父さんが指をぱちんと鳴らした。その瞬間、私は全身の力が抜けたように、かくんと地面に膝をつき、 両手も地べたにつけてしまう。・・・今目の前で、何がおきるのか見た直後だし、この身体の感覚には覚えがある。

 

・・・そう、私も変身し始めていたのだ。地面に付いた手は獣の毛がぶわっと生えてきて、 指は短くなりあっという間に獣の前足になってしまう。着ていた服は徐々にぶかぶかになり重くなっていく。その服の中で、 私の身体は変化を続け、全身に明るい茶色の毛が覆い、身体も2本足よりも4本足で立つのが適した身体つきへと変化していき、 身体のバランスをとるかのようにフサフサした尻尾が伸びてくる。顔にも毛が覆うと、唇を引っ張るようにして鼻先が前へと突き出していく。 口元には牙が生え、鼻の横からはピンとひげが伸びる。耳もぐっと持ち上がり、頭の上に移動しピンと三角形に立つ。

 

変化は、いつもよりもあっという間だった。今まで私がいたところには、私が着ていた服に埋もれている一匹のキツネがいた。

 

「キャゥゥ・・・」

 

突然のことに、私は思わず弱弱しい鳴き声を上げてしまう。その様子を見た目の前の白キツネが、恐る恐る私に声をかけてきた。

 

『えーっと・・・お、御疲れ・・・さまー。・・・なんて・・・ね』

『・・・ユキ・・・だよね?』

『・・・うん』

『で・・・日高くん・・・だよね?』

『・・・うん・・・』

『色々・・・』

『え?』

『・・・色々としゃべってもらうわよ!どういうことなのか!』

『ちょ、待ってよ!僕よりも前に聞かなきゃいけない人がいるでしょ!?』

 

白キツネになった日高くん・・・いや、ユキはそう言い放って、自分の前足をピッと上げて父さんの事を指した。

 

「・・・光音ちゃんにも悠里くんにも、ちょっと色々話さなきゃいけなくなっちゃったからね」

 

父さんは、さっきまでの穏やかな表情とはうって変わって、少し真面目な表情で私たちを見下ろし、 私たち2匹のキツネはそれぞれ複雑な表情で父さんのことを見上げていた。

 

 

ラベンダーフォックス 第17話「仰天変身!雪の防狐の正体!?」 完

第18話へ続く

この記事へのコメント
お久しぶりです!といった感じにこんばんわw。17話がアップされていたのに気づき、早速読みに来ました。

いやぁこれは・・・「ユキ、ちょっとこい^w^」と言わんばかりな展開w。お前だったのKA!と思わず呟いてしまいましたw。まさかすぐ身近にいた悠里君だったとは・・・正直驚きです(☆w☆;)。

いやぁラベンダーフォックスだけでなく、いろいろなお話を書いている宮尾さんに圧倒されまくりな自分がここにいます(ぁ。とにもかくにもwこれからも頑張ってくださいませm(_ _)m。

それでは、失礼します〜( ☆w☆)ノシ

★宮尾レス
レスが遅くなってすみません;
コメント有難う御座います!

ユキが実は人間、の構想は割と初期の頃からあって、本当は中盤ぐらいでもっとシリアスな展開でカミングアウトするつもりだったのですが、色々と予定が変わって、早い段階でのばらしとなりましたw

人間100年様の小説もちょくちょく見に行ってます☆
コメントできなくて、申し訳ないんですがw
これからも、作品楽しみにしてますよ!
Posted by 人間100年 at 2008年05月01日 22:50
 久々の感想です。
 戦士ものの業と言うか無力に悔やむ光音…とは言え戦士である事に取り込まれてしまうのもまた危うい訳ですし、まさにこれからなのでしょうね。
 そして少しずつ明かされる展開、これもかなり長丁場だけにどうなってゆくのか。

 じわじわとながらの展開、楽しみにしています。

★宮尾レス
コメント有難う御座います!
レスが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。。。
光音も少しずつ、戦うことがどういうことなのか、
実感を覚えてきて、徐々に戦わされているという感情が、
戦わなきゃと言うものに変化している感じです。

そして、秘密が少しずつ明らかになってきているので、今後からがまた書くのが難しいところなのかなって思いますw
Posted by カギヤッコ at 2008年07月21日 08:42
 あなただったのですね。日高君。全くもって、その発想は思いつきませんでした。感服します。
 そして、もう一人。『あの人』が誰であるのか。
 もう少し早く、気付いているべきでした。

(挨拶を欠かして申し訳ございません。いつか、たわいも無い質問をして、そのまま消えていった者にございます。
 今もしっかりと、この目で作品を読み続けております。これからも、沈黙しながら、見ていきたいと存じます。
 それでは、失礼致します。)

★宮尾レス
エリック・キィ様コメント有難う御座います!
登場人物の秘密も少しずつあらわになってきて、
いよいよ話も中盤に差し掛かってきた感じです!
これから果たしてどんな展開があるのか、
楽しんでいただけるよう話を造ってまいりたいと思いますので、
今後とも宜しくお願いいたします☆
Posted by エリック・キィ at 2008年08月19日 00:22
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