2005年11月18日

μの軌跡・逆襲編 第6話

μの軌跡・逆襲編 第6話「放たれる蒼」

【人間→ポケモン】

ポケモン達の周りの空気が張り詰める。さっきまでざわめいていた森がまるで手のひらを反したように、怖いほど静けさを保っている。 ジュテイとエリザはセイカを守るように彼女の前に立つ。そんな彼女たちをポケモンと人間が取り囲む。

 

「しかし、全てといっても4匹しか持っていないのか」

「おっさん、少数精鋭って言葉知ってる?俺のポケモン達はつまりそれさ」

「・・・そこまで言うなら、求められる成果は決まってくるぞ?」

「何のためにソウジュさんが俺を呼んだか、ゼンジのオッサンなら分かるだろ?」

 

ロウトはポケモンの方を鋭い目つきで見つめながらゼンジに問い返す。かなりの自信だが、 しかし彼と彼のポケモンに隙がないのは確かだった。先にエリザと戦ったカイリキーのイル、ハガネールのガルガ、 そして先に針を飛ばしてきた蜂型のポケモンであるスピアー、 そして赤と黄色で炎を連想させる身体に鳥のようなくちばしを持つ人型ポケモンのブーバー。

 

『・・・虫と炎・・・嫌な組み合わせだね』

『心配するな、スピアーとブーバーは自分が引き受けよう』

『え?じゃあ私は・・・』

『リベンジはしたくないのか?』

 

そういうとジュテイはカイリキーのイルを見つめる。イルはその視線でジュテイの意図に気付いたのか、 半歩前に出てエリザに向かい合った。

 

『メス相手だから、手加減したのが甘かったのかもな・・・今度は止めをさすぞ?』

『私だって、何度も同じ相手に負けたりしないよ!』

 

エリザは前足に力を入れ激しく威嚇をする。その後ろでセイカが彼女を心配そうな目で見つめる。

 

『エリザ・・・やっぱり、私も・・・!』

『・・・セイカ、大丈夫だよ。セイカが怖い思いする必要なんか、私がいる限りないから!』

 

エリザはセイカの方を振り向き笑顔で力強く答える。しかし、セイカの表情は晴れなかった。今、 目の前にいるポケモンと人間はセイカのことを狙って襲ってきたのだ。自分のせいで、この森が巻き込まれてしまっている。 セイカの小さな身体と心は見えない重圧で押しつぶされそうだった。エリザが彼女に優しい言葉をかければかけるほど。

 

(私に・・・戦う力があれば・・・!)

 

セイカはその小さな手で悔しさや無力感を握りつぶすかのように強く拳を握る。しかし、分かっている。 エリザとジュテイは彼女を守るために戦うのだと。ここで自分が戦ったり、捕まったりしては意味がないのだ。そう自分に言い聞かせる。今は、 助けてもらうしかない。もしまた危機に陥ったそのときにはまた空を飛んで逃げることも出来る。 今は、守られるしかない。

 

『エリザ・・・?』

 

ハガネールのガルガは、ミュウがチコリータのことをエリザの名で呼んだことを聞き逃さなかった。

 

『・・・まさか・・・しかし・・・それにミュウ・・・』

『何ぼさっとしているんだ、ガルガ!』

 

ハガネールのガルガはじっとセイカとエリザの方を見つめ続け動こうとしなかった。 見た目の強靭さとは裏腹に普段から大人しいガルガであったが、いつも以上に物静かで様子がおかしかった。

 

『あ、あぁ・・・いや・・・すまないが俺は戦わないぞ』

『はぁ!?いきなり何言ってるんだ!?』

 

イルはガルガの突然の言葉に声が裏返りそうになった。この任務のためにここに呼ばれたのに、 それを今更やらないと言い切られた仲間の動揺は想像に容易い。

 

「どうしたんだ、ガルガ?」

 

その様子を見ていたロウトがガルガに声をかけてくる。

 

『・・・出来れば、ロウトとミュウの遭遇は避けたかったのだがな・・・』

「・・・お前らしくない表情だな・・・?」

 

ロウトにポケモンの言葉は分からない。が、その仕草、呼吸、鳴き声、表情から大体何を考えているかは想像できる。 理由は分からないがガルガに戦意は無い。

 

「・・・ガルガ、サポートに回れ。今のお前は、戦えないようだ」

『すまない、ロウト』

 

そう言うと、ハガネールの巨体が他の3匹のポケモンの後ろに回りこんだ。

 

『一体・・・何だってんだよ・・・』

『すまんな・・・お前らも、ミュウには手出ししない方がいい』

『手出しするな・・・って、それが任務だろうが!』

『いや、勿論捕まえるさ。しかし、不要な直接攻撃はすべきではない・・・周りのポケモンさえ倒せばいいということだ』

『・・・』

 

後ろでたたずむガルガに、イルは不信感を感じたがこれ以上の追求は無駄だと思い口を閉じた。 何にせよ戦う意思が無ければ戦わない方がいい。

 

『これで実質2対3か・・・』

 

ジュテイは相手のポケモン達の様子を見て呟いた。ガルガが戦闘に加わらないのはジュテイたちにとって好都合だったが、 それでもジュテイは苦手な虫タイプのスピアーと炎タイプのブーバーを同時に相手にしなければならない。どちらか1体にでも隙を与えれば、 その瞬間セイカが攻撃の対象になる。それだけは避けなければならない。

 

『いい・・・やってやるさ』

 

そしてジュテイは身構える。全身の筋肉に力を入れ、ツルを振るわせる。

 

「・・・行け!」

 

ロウトがそう叫ぶとスピアーとブービーが同時にジュテイに襲い掛かる。

 

『ジュテイ!』

『よそ見している暇は無いぞ?』

 

エリザがジュテイに意識を向けたのとほぼ同時にイルはその拳をエリザめがけて振りかぶった。 すぐにそのことに気付いた彼女はとっさに飛び跳ねて攻撃を避ける。イルの拳はそのまま激しく地面をえぐった。

 

『・・・相変わらず逃げ足は速いな?』

『そんな大振りの攻撃、当たるわけ無いでしょ!』

『確かに、この攻撃なら当たらないだろうが・・・だったらこういう攻撃はどうだ?』

 

イルがそう言い終るかどうかという瞬間、エリザの頬に衝撃が当たる。

 

『・・・!?』

 

決して強力な一撃でこそ無いものの小さく軽いエリザの身体は容易に宙を舞った。 エリザは空中で必死に姿勢を整え何とか四足でしっかりと地面に着地し、そしてイルのほうを見る。

 

(今・・・攻撃されたの・・・!?)

『格闘タイプがパワーだけだと思ったら間違いだ』

 

エリザがはっと気付いた瞬間、イルは再びエリザとの間合いを詰め、直後に再び衝撃を喰らってしまう。

 

(ぐ・・・早い・・・パンチ・・・!?)

『人間の格闘技の一つ、ボクシングって言うのにはジャブという攻撃方法があってな・・・力は弱くてもその拳を連続して繰り返すことで、 相手に隙を与えない戦法もある』

『・・・それを貴方が真似てるってことね・・・?』

『あぁ・・・だが、腕の本数が人間の倍なら、繰り出せる攻撃数も倍だ。攻撃力も違う・・・俺だから出来る技だ』

 

イルはそういうと、さらに攻撃のスピードを上げる。エリザは飛び跳ねたりツルで拳をはたいたりなどしてかわそうとするが、 その攻撃のスピードにとても対処し切れなかった。

 

『ッ・・・!』

 

元々威力の小さいパンチの連打、ダメージもまた少ないがこちらが攻撃の態勢さえ取れない以上、 最終的にこっちの体力が尽きて負けてしまうのは確実だった。

 

(その前に何とかしないと・・・!)

『余所見は禁物だ!』

『く・・・!』

 

さっきのイルの言葉どおり、この前と違い彼の攻撃には容赦が無い。勝負に勝つ戦い方ではなく、相手を倒すための戦い方をしている。 防戦一方のエリザは兎に角この展開を覆す一手を投じるしかない。

 

『そっちがスピードなら・・・こっちだってスピードで勝負!』

『・・・!?』

 

エリザはそう叫ぶとイルの連打を上回る速さで細かく走り回り、かく乱を始めた。

 

『ぐ・・・ちょこまかと!』

 

イルは叫び拳を影の見えるほうに何度も振るうが、宙を舞い地面を削るだけで手ごたえを得られなかった。 完全にエリザを見失った彼にエリザの次の一手は既に読めていなかった。

 

『どこだ・・・どこだ!?』

『余所見は禁物でしょ?・・・後ろががら空きだよ!』

『な・・・!?』

 

エリザの声はイルの後ろから聞こえてきた。イルが後ろを振り向くとそこには木の枝にツルでつかまって宙吊りになっているエリザがいた。 彼女はそのままの状態で身体を前後に揺らしており、イルが振り向いた瞬間、一度後ろに勢いをつけると、 ブランコの要領で思い切り身体を揺らしツルを放すとイルめがけて飛び掛ってきた。

 

『しま・・・!』

『えぇい!』

 

どんな高速な打撃を連続して出来たとしても、きちんとした姿勢でなければ繰り出すことは出来ない。 後ろ向きで不安定な姿勢だったイルはかわすタイミングも失いエリザの身体をそのまま身体で受けてしまった。

 

『ぐ・・・!』

『どうだ!エリザちゃんハンマー!』

 

エリザはイルの身体に直撃した後、彼の身体を蹴り飛び跳ねるとそのまま地面に着地し、誇らしげに決めている。体の軽いエリザだが、 ツルを使った振り子運動が生み出す遠心力によって生み出される力は、かなりの衝撃となってイルを襲った。単純だが、 だからこそ質量攻撃は確かなダメージを相手に与えることが出来る。

 

『く・・・』

 

イルは、まだまだ十分な体力は残っているようだが、流石に今のは効いたらしくすぐに動くことは出来なさそうだ。 エリザはすぐにでも猛攻をかけるべきだろうが、 しかしジュテイのことが気になったためイルへの攻撃は仕掛けずジュテイが戦っている方を振り向いた。が、しかし。

 

『・・・あれ?』

『どうした、エリザ?』

『・・・私の取り越し苦労か・・・』

 

エリザが見たのは、身体に少しの傷を受けたジュテイと、ダウン寸前のスピアーとブーバーの姿だった。

 

『何だ、負けるとでも思っていたのか?』

『いや、負けはしなくても苦労してるかもって・・・』

『伊達にジュテイとは呼ばれていないさ・・・お前の方こそ、だいぶ傷だらけだが?』

『こんなの、何でもないよ!』

 

エリザとジュテイはそれぞれの無事を確認しあった。だがジュテイはその瞬間に、致命的なミスを犯したことに気がついた。この瞬間に、 自分にも、エリザにも隙が生まれている。それはつまり。

 

「チェックメイトだ」

 

エリザとジュテイは慌ててその声の方を見る。そこにはロウトと共にいた男、ゼンジがセイカを腕に捕らえている姿があった。

 

『セイカァッ!』

『エリザ・・・ごめん・・・!』

 

セイカの目にはまた涙が溜まっていた。アレだけ気をつけていたのに。アレだけ自分に言い聞かせていたのに。 エリザとジュテイの心配をしている隙を突かれ後ろから迫っていたゼンジに気付くことが出来なかった。そんな自分が情けなくて悔しかった。 ジュテイとエリザの戦いを結局無駄にしてしまうことになってしまったのだ。

 

『ポケモンと我々を戦わせたのは、あくまで注意をミュウの子から注意をそらさせるためか・・・!』

 

ジュテイは自分の甘さにその表情をゆがめた。分かっていたはずなのに、戦いで気を配ることが出来なかった自分の未熟さを責めた。

 

「さすが元隠密部隊長。鮮やかな手つきだね」

「お前が余計なゲームにこだわらなければもっと早くに仕事は片付いていた。第一お前のポケモンは負けているじゃないか」

「さっき言っただろ?仕事を落とさなきゃいいって。俺のポケモンの勝ち負けは関係ないさ・・・戻っていいぞ」

 

ロウトはそういってポケモン達を下がらせる。既に決まった勝負をこれ以上続ける意味は無かった。そしてゼンジは、 懐からモンスターボールを取り出した。それを見た瞬間セイカの顔が驚きと恐怖で染まった。今のセイカは、 例え元々人間だったとしてもポケモンに他ならない。それはモンスターボールで捕獲されてしまうこともありえるということだった。 人間だった自分が、今こうしてポケモンとしてつかまってしまう。セイカの心は動揺でパニックを起こし、涙があふれ出てきたが、 ゼンジがそれを気に留めることは無かった。

 

「悪いが捕獲させてもらうぞ」

 

そういってゼンジはモンスターボールのボタンを押し、セイカに押し当てた。その瞬間セイカの身体は赤い光で包まれ、 見る見るうちにモンスターボールの中に吸い込まれ彼女の体が完全に消えてしまった。

 

『セイカァァーー!!』

 

エリザは精一杯彼女の名を叫んだが、既にセイカには聞こえていなかった。

 

 

 

次の瞬間にセイカが気付いた時、そこは小さな空間だった。決して広くも狭くも無く、丁度いい広さに丁度いい明るさ、 丁度いい湿度と温度。そういえばモンスターボールの中は自然とそのポケモンに適した環境になると聞いたことがあった。つまりここは、 モンスターボールの中ということだ。

 

『・・・私・・・とうとう・・・モンスターボールに入っちゃったんだ・・・』

 

モンスターボールによって捕獲されること。それはポケモンであることの証拠ともいえた。 今のセイカは完全に生物学的にもポケモンとして認識されてしまっているということだった。 それは同時に人間であったセイカを完全に否定されたのと同じことだった。

 

『どうして・・・こうなっちゃったんだろう・・・!?』

 

思えばあの日はただ幸せな家族旅行をしていただけなのだ。しかしそれが突然の襲撃で人の姿を失い、ポケモンとして生きるしかなくなり、 いつか人間に戻れる日が来るはずと信じていた。しかし、徐々にポケモンの体が慣れ始め、能力にも目覚め、とうとうモンスターボールである。 確実に、身も心も完全なポケモンになりつつある自分に恐怖を感じる。もしかしてこのまま、人間に戻れないかもしれない・・・?

 

『嫌だ・・・嫌だ!私は・・・人間に戻りたい・・・!』

 

たとえ何があっても彼女が人間である事実に変わりは無かった。しかし、このままモンスターボールに閉じ込められてしまえば、 本当に人間に戻れなくなってしまう。モンスターボールに入っていると心が落ち着くため、 まるで心の奥底までポケモンとしての自分が染み入るようだった。まだ人に戻りたいという感情があるうちに逃げ出さなくては。そのための、 力が欲しい。セイカは強く願った。

 

『貸してあげる・・・』

『・・・え・・・!?』

 

その時、何処からか声が聞こえた。声の主を探すが姿は見えない。しかし、その声に聞き覚えがあった。確か今朝の夢で・・・。

 

『ミュウ・・・?』

『君に力を・・・貸してあげる・・・』

 

ミュウのその声が聞こえたかと思うと、彼女の体が、初めて空を飛んだ時のように青く光り始める。しかし、 その輝きは今までのものとは比べ物にならないほど激しく輝く。そして内側から信じられないような力が湧いてくる。

 

『・・・この・・・力は・・・!?』

『大丈夫・・・僕がついているから・・・』

『ッッーーー!?』

 

セイカはミュウに聞きたいことは沢山あったが、既に彼女の言葉は溢れる力のせいで声にならなかった。 やがて光は空間全てに広がっていった。

 

 

 

「何だ・・・この光は・・・!?」

 

ゼンジは手に持っていた、セイカの入ったモンスターボールが青白く発光し始めたことに気付いた。その光は徐々に強くなっていき、 ゼンジは焦りと驚きから思わず手からモンスターボールを落としてしまった。

 

「・・・!?」

 

その瞬間モンスターボールが開き、中からさらに強烈な光と共に、まるで台風か竜巻かと思うような強烈な突風がそこから生じ始める。

 

「ぐ・・・なんだ・・・これは!?」

『セイカ・・・?・・・セイカァ!?』

 

エリザはその光を見て直感でセイカだと感じた。 その光がセイカが始めて空を飛んだ時に彼女を取り囲んでいたのと同じ光だったと気付いたからだった。しかし、 その光から生まれる突風に彼女の軽い身体はその風で宙を舞ってしまい、とっさにツルで木の枝を掴み何とか持ちこたえるので必死だった。 そのほかのポケモンや人間、石や砂、木などが風によって皆舞い上げられていく。どれぐらい長く続いただろうか、 やがて光と風は徐々に収まっていき、完全に静けさを取り戻した時にはその中心にはやはり、セイカがいた。

 

『これが・・・ミュウの力か・・・』

 

その重量で風に舞い上げられるのを何とか耐えたガルガは、力を使い果たし疲れてしまったのか気を失っているセイカを見つめて呟く。 そしてその未知の力の大きさに脅威を感じずにはいられなかった。

 

 

 

μの軌跡・逆襲編 第6話「放たれる蒼」 完

第7話に続く

posted by 宮尾 at 03:48| Comment(0) | μの軌跡(ポケモン・→) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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