太陽と月・前編
【含TF(人間→ポケモン)】
中学までの正規の通学路は、常に多くの自動車が行き交う大通りなのだが、信号も多く人も多いので、多くの生徒はこっちではなく、 少しぐらい遠回りでも近くを流れる川の河川敷を歩いて通っていた。
高石メイもその1人。川を通り抜ける涼しげな風と、その風が運んでくる草や花や木の緑の匂いが好きなのだ。 その気持ちよさに思わず時間を忘れて入り浸ってしまうので、家はいつも少し早く出るようにしている。
その日は1学期最後の登校日、つまり終業式であり、まるで夏休みの始まりを祝うかのようなさわやかな太陽の輝きのせいか、 ここを歩くことがいつにも増して気持ちがいい。
「おっはよっ!」
「おはよう!」
友人たちが声をかけて横を通っていった。
「メイものんびりしてると、遅刻するよ!」
「うん、わかってるよ、大丈夫!」
「じゃあ、また後、学校でね!」
彼女たちは1,2回大きく手を振ると、学校の方に駆けていった。
この陽気、そして夏休み。流石に浮かれるのはメイだけではないようだ。
「遊んで過ごせる、最後の夏休みだもんね」
メイは小さく呟いた。
今彼女たちは中学2年。来年の夏休みは受験のため有って無い様な物だ。
だからこそ今年を精一杯楽しむことに決めていた。
メイは、うーんと、1回大きく伸びをして歩き出そうとした。その時。
「・・・?」
メイは草むらで何かが一瞬光ったのに気がついた。
身体を左右に傾けて見てみる。やはり何かがあるようだ。
それが何なのか気になって、近くに有った階段を駆け下りて、草むらにあるはずの光る何かを探した。
3分ぐらい探しただろうか、それはまるでずっと前からそこにあるような存在感で、 しかしどう見ても輝きや汚れの状態を見ると最近置かれた物のようだった。
「・・・石?」
そう、それは一見何の変哲も無い石の様に見えた。しかし、まるで宝石のように透き通っており、 角度によっては太陽の光を受けて輝くそれは、見れば見るほどただの石とは思えなくなってきた。大きさは親指と人差し指でつまめる程度、 1円玉ぐらいの、いや、ほぼ球状のものなのでビー玉といった方がイメージしやすいだろうか。特に大きなものではなかったのだが、 普通の石とは明らかに違う何かがあるように思えた。
「本当に宝石かな・・・?」
メイはしばらくその石に見とれていた。何か不思議な力に引き寄せられるような、風を身体に感じるのとはまた違う、 内側から湧き上がる不思議な気持ちよさを感じていた。
「高石?何してるんだそんなところで?」
不意に上のほうから声が聞こえた。
「あ、三國くん・・・え!?もうそんな時間!?」
メイは慌てて時計を見る。そして手に持っていた石をポケットに入れて、階段を駆け上がる。
「三國くんが、時間に正確なのもたまには役に立つね!」
「なんだよ、人を時計扱いして」
コウは不機嫌そうな顔をするが、
「ゴメンゴメン、でもほら早く学校行かなきゃ!」
メイに急かされてコウもわかったわかったと、彼女の後を走った。
「まぁ、終業式ぐらい遅刻しないで行ってもいいか。授業もないし」
「そうそう、夏休みだしね!」
2人は駆け足で学校に向かっていった。
メイはポケットに入れた石のことなどすっかり忘れていた。
終業式は、それはもうあっという間に終わった。全校集会は20分程度教師の話を聞くだけであり、 その後HRで夏休み中の注意を受けて終了である。
通知表と、宿題の量に一喜一憂しながらも生徒たちは明日からの夏休みに思いをはせていた。
「それじゃあ、また2学期元気な姿で登校して来る様に!じゃあ日直、挨拶を」
「起立!礼!」
そうして教室から生徒たちが飛び出していった。生徒たちの弾んだ声が校舎中から聞こえてくる。
「あれ?高石たちは帰らないのか?」
「あ、三國くん」
コウは教室から出る様子のないメイたちを見つけて声をかけた。
「残念なことに、うちら部活でさ、折角早く帰れるってのに勿体無いって感じでね」
返事をしたのはメイの親友のアキだった。
「夏休み中に市の合唱発表会があるの・・・。それで・・・何を歌うか決めるの・・・」
次いで小さな声で説明をしてきたのは同じくメイの親友であるハナだ。
「私はソプラノの、アキちゃんはアルトのパートリーダーだし、ハナちゃんは部長だからね」
「あれ、合唱部って部長小久保なのか?3年は?」
「文科系だから秋の中文連まで勤めるはずだったんだけどね、今学期で部長さんが急に引っ越すことになっちゃって。 急遽ハナちゃんが引き継いだの」
「そうか、なんか大変だな」
コウはメイたちの話を聞いていた。コウ自身も最近部活で忙しくて他の部の状況などがよく分かっていなかったし、 メイたちと話す機会も普段あまりないのでしばらく聞いていたが、そのうちに他のクラスメイトに呼ばれて一緒に帰っていった。
「じゃあな、また2学期に」
「うん、じゃあね!」
教室を出て行くコウたちの後姿を3人で見送った。
「・・・ハァ・・・」
彼らの姿が見えなくなったのを確認するとメイは深くため息をついた。
「どうした?ため息なんてメイらしくない」
アキはメイの顔を覗き込みながら言った。
「ううん・・・別に・・・」
メイは静かに首を振った。
「ふぅん、そう言うなら、別に気にしないけど」
そう言ってアキは立ち上がった。
「でもさ、もし悩んでいるんだったら、自分に正直になった方がいいよ」
「え?」
「三國がどうかなんて考えすぎないで、自分の感情に従った方がいいって事」
「!」
メイはうっすらと顔を赤らめて様子が落ち着かなくなった。そんな分かりやすい反応を見てアキは小さく笑った。
「ほら、音楽室行くよ」
アキはそういって教室から出て行った。
「アキちゃんはね・・・メイちゃんを心配しているの・・・」
2人のやり取りを横で聞いていたハナが口を開いた。
「ずっとね、気にしてたの・・・メイちゃん最近元気ないって・・・」
「そうか・・・な・・・」
「うん・・・私もアキちゃんもね・・・メイちゃんが元気になって欲しいって思っているから・・・アキちゃんなりの励ましなんだと思う・ ・・だから・・・ね・・・?」
小さな声で、でもしっかりとメイの目を見て言った。
「・・・ありがとう。そうだね、ため息ついたって仕方がないよね!」
「うん・・・メイちゃんは・・・元気がいいほうが似合っているよ」
「うん!」
メイは笑顔で答えてすっと立ち上がり、アキを追って2人で音楽室に向かった。
そうは言っても、メイの心の中に芽生えている、奇妙なモヤモヤがすぐに晴れるわけではなかった。
コウのことを意識している。それは間違いない。自分でも分かっている。
でも、その思いをコウに伝えるのが怖かった。
今朝のように、メイとコウは自然に会話が出来る。まえはそれだけで十分メイにとっては満足だと思っていた。
でもコウは男女分け隔てなく付き合うことの出来る人間で、同姓異性問わず友人が多くいた。
彼と親しくなり、彼が他の誰かが親しくなっていくにつれて、自分が友人の一人に埋もれてしまうのが怖かった。
いっそ世界に2人きりだけだったらいいのに、とさえ思っていた。
しかし、告白をすれば好転しても悪化しても、今のような関係と距離感で接することが出来なくなってしまうのも、また怖かった。
進むことも引くことも出来ないもどかしさが、メイの中で葛藤し晴れないもやもやを生み出していく。
「・・・はぁ・・・」
モヤモヤを吐き出すかのように、また大きいため息を一つついた。
曲を決めるだけのつもりだったが、ミーティングが終わった後無駄話が始まり、学校を出た頃は既に2時を過ぎていた。
メイ、アキ、ハナは3人とも帰り道が異なり、時間も時間なため朝は登校する生徒たちでにぎやかだった河川敷もすっかり静かで、 少しはなれたところを通る幹線道路を走る自動車の音や散歩している犬の鳴き声がかすかに風と川の音に混じってくるだけである。
その風は優しくメイの横を通り過ぎていき、まるで自分のモヤモヤを取り払ってくれるような、そんな感じがした。
「悩んでいても仕方ないよね・・・」
メイは静かに独り言を呟いた。
そして自分の中に新鮮な空気を取り入れるかの様に、めいっぱい大きく息を吸い込み腕を上に伸ばし、そして勢いよく吐き出す。
少し胸がスッとしたところで、あげていた腕を下に下ろした時、スカートのポケットに妙な感覚を覚えた。
「あ、」
メイは石のことを思い出しポケットから取り出した。
ポケットから出した瞬間、僅かに西に傾いた7月の太陽が放つ光を受け、 止まっていた時がまた動き出したかのようにあの不思議な輝きを再び放ち始めた。
「本当に不思議な石・・・」
メイはその輝きにまるで取り付かれるかのように石をずっと見つめていた。
そしてまるで自然に、導かれるかのように石を右手で持ち太陽の方に向ける。
石はいっそう輝きを増し、その光がメイを包み込むような感覚を覚えた。
「綺麗・・・」
メイの口から漏れたのは感嘆の言葉だった。
しばらくメイは、石の放つ暖かな光に包まれながらまるで時を忘れるかのようにずっと見つめていた。
が。
ふとした瞬間、我に返ったメイは自身に妙な違和感を感じた。
なんというか、体中にモゾモゾというか、感じたことのない奇妙な感覚で覆われているのだ。
「え、何?」
そう思った瞬間、メイは石を手放してしまい、落としてしまった。
いや、違う。手放したのではなく、持てなくなってしまっていたのだ。
「嘘!何これ!?」
メイは自分の目を疑った。今まで石を持っていた右手から右腕にかけて、びっしりと少し薄紫色の毛で覆われていたのだ。
そして石を持っていた手は、既に物を持つには不利な、四足獣の前足のようになっていたのだ。
メイは慌てて左腕を見た。左手は変化が起きておらず、人間の手のままだった。
メイは少しほっとしたが、その安堵は一瞬にして砕かれた。
左手の甲の辺りからにわかに右手と同じような毛が生え始めたのだ。
腕だけじゃない、体中に感じていた妙な感覚は毛が生えたことによって感じていた違和感だったのだ。
「誰か・・・ッ!」
メイは大声で助けを呼ぼうとした。
しかし、すぐに声をしぼめてしまった。
仮に助けに来てくれた誰かが、この状況を見て自分に何をしてくれるだろうか。
きっと、ただただその異様な光景を見つめることしか出来ないだろう。
メイはそう考えると、徐々に怖くなって、その場所から、現実から逃げるように走り出した。
(あの石・・・何故か分からないけど、あの石には本当に変な力があったんだ!)
メイは少しでも石から離れようと一心で走っていった。
しかし、走っている間にも身体の変化は止まらなかった。
まず感じたのは視点の変化だった。自分の視点が徐々に低くなっていることに気がついた。
いや、身体そのものが小さくなり始めていたのだ。
やがて制服のスカートがずり落ちそうになり、必死で押さえるが既に左手も、手ではなく前足と化してしまい、 力も上手く入れることが出来ずとうとうスカートが落ちてしまい、それが足に絡まり転倒してしまった。
「うぅ・・・」
メイは痛みにこらえて立ち上がろうとしたが、足に力を入れようとした瞬間、何故か上手くバランスを保てず今度は後ろに倒れてしまった。
(何で!?)
そう思って自分の足を見た。正確に言えばそれはもう後足と呼ぶべき形状だった。前足と同じように、それは四足歩行に適した、 小さな獣の足となってしまっていた。
その後ろ側には細長いものが見え隠れする。尻尾だ。
(これじゃまるで猫・・・私、猫になっちゃうの?)
メイはどうしようもない恐怖から泣き出しそうになってしまう。メイ自身では気付かないことだが、 いまだ人間としての形状を保っていた顔だったが、身体が小さくなったことにより顔もやや小さくなり、幼い顔つきになっていたため、 周りから見たら妙な格好をした幼児としか見えないかもしれない。
しかしとうとうその顔も、変化が訪れた。
顔にも毛が覆い始め、鼻先が僅かに尖る。劇的な変化を見せたのは耳だった。鼻同様尖り始めたが、 ただ尖るのではなく明らかにそれは大きくなり外側に向けて広がり、その内側から束になった毛が垂れていた。
身体の変化も終盤を迎えていた。足だけではなく全体の骨格が二足よりも四足に向いた形になり、身体が縮んでいくのもほぼ収まった。
唯一彼女の人間だった名残である制服の上着もサイズがとうとう合わなくなり、彼女はその中に覆いかぶさってしまった。 何とか制服の下から抜け出した彼女だったが、自分が自然に四足で器用に這い出ることが出来たことに、 改めて自分の身体に起きた異変を確認しようとした。
急いで近くの川の、流れが穏やかなところに駆けていく。勿論四足で。
自分が四本の足で走れることにもはや疑問を感じてはいなかった。感じている余裕がないだけかもしれない。
そしてメイは恐る恐る自分の身体を川に映した。
そこに映ったのが、もし猫だったなら・・・まだよかったかもしれない。
川に映った自分の姿を見てメイは愕然とした。
確かに猫には似ている。似ているが、明らかに別の生物だった。耳が猫よりも大きいだけではない。
まず一番に目に飛び込んできたのは自分の額だった。
本来の猫にはあるはずのない、赤く丸い宝石のようなものが埋め込まれているのだ。
そして猫とのもう一つの大きな違いは、さっき見た時は気付かなかったが、尻尾の先が2本に分かれていることだった。
(何これ!?)
メイはそう叫ぼうとしたつもりだった。しかし実際に耳に聞こえた声は
「フィ、フィー!?」
猫とも明らかに異なる動物の声だった。
メイはとっさに手で、いや前足で自分の口を押さえた。
間違いない。
その生物は、以前テレビアニメや、漫画雑誌で見たことがあった。
彼女の今の姿はまさに、ポケモンのエーフィそのものだった。
(何で・・・こうなっちゃったの・・・?)
「フィ・・・エフィー・・・?」
自分の思いが口から漏れる度聞こえる自分の鳴き声に、メイは気がおかしくなってしまいそうだった。
後編に続く
なんて言うか、未熟です(汗)。
中盤の恋愛パートがベタベタで完全に浮いてしまってますね。泣きたいです。
TFパートもどう書いたらいいか分からずに結構苦戦しました。
公開スピードはかなり遅いかと思いますが、ゆっくり後半を書いていこうと思います。これからも宜しく御願いします。
レベルは高いと思います。
強いて言えば、改行するべき所でしていなかったり、改行しなくてもいい所でしていたり、改行がやたら多かったり・・・そこを改善したら読みやすくなると思います。
これからも頑張ってください。
ご指摘の改行ですが、宮尾は自分が長い文章を読み書きするのが苦手で、メールや仕事でも普段からどうも改行を多用する癖がついてしまっております(汗
自分としてはこれが見やすいのですが、他の方がそうとは限らないということが分かりました。これからもう少し改行については気をつけて生きたいと思います。これからも宜しく御願いします。
ポケモンTF。いいですね。
文章や表現力もかなりすごいです。TFシーンはかなりのめり込ませていただきました。正直初めて小説書かれたとは思えないです。
1文ずつ改行しているのは、読みやすくていいと思います。ただ乱入人さまのおっしゃるとおり、改行のタイミングに明確な基準を設けるのがいいと思います。
前編…ということは後編(その続きも?)あるということですよね。現実世界でエーフィになった主人公がこれからどうなっていくのか、とても楽しみです。
小説を書くのは本当に初めてです。普通の小説も書いたことが無かったですし正直な所、実は読むのもあまり得意ではなかったり。しかしいろいろなところでTF作品に触れて自分でも書いてみたいと思うようになりました。
改行はやはり気になる点ですね。読みやすい書き方がどういうものなのか、もう少し勉強をしたいと思います。
後半は現在鋭意執筆中で、明日か明後日には公開できるのではないかと思います。ご期待下さい。・・・といえるほどの出来にならなさそうですが。汗
狼の眉の掲示板よりこちらに参りまして早速拝読させて頂きましたが、中々の小説ですね。
全体的に丁寧でどこかノンビリとした調子であるのに加え、変化描写も詳細かつ丁寧・・・読んでいるだけで情景を脳裏に思い浮かべる事が出来ました。
初めての小説としましては中々のレベルであると思いますね。他の方も改行について指摘されておりますが、こればかりは意識すると共に書けば書くほど要領を得るものですから続編の方も頑張って下さい。期待しております。
それでは、また。
まだまだ未熟者ですが、これからも小説を書いて行きたいと思いますのでこれからも宜しく御願いします。
寧ろイラストをつけてほしいぐらいです