2007年04月28日

ラベンダーフォックス 第13話

ラベンダーフォックス 第13話「思惑交錯!父と娘と息子と鈍色の空!」

【人間→獣人】

 

「いやー、光音ちゃんの入れるコーヒー、久々に飲んだけどやっぱり美味しいなぁ。心が落ち着くよ」

「・・・そりゃあ、どうも・・・」

 

私は不機嫌そうに肘をつきながら、テーブルの向かいで私が入れたコーヒーを口に運ぶ父さんをじっと見詰めていた。

 

・・・本当に突然の帰宅だった。直前に「戦っていれば、きっと父さんも帰ってくるはず、だから戦おう」と決意したのに・・・ あの瞬間の勇気を返して欲しい。こんなに平然と、普通に帰ってこられると何だか今まで気にしていたこっちがバカみたいだ。・・・ 睦美さんもユキも可哀想だ、こんな人のことを一生懸命になって探してきたかと思うと・・・。

 

「・・・不服そうな顔してるね?」

「・・・別に?・・・そういえば景輔は?」

 

私はふと、家の中に景輔の気配が無い事に気付いた。初めは2階にいるのかと思ったが、どうやらそうでも無さそうだ。 まだ帰ってきていないのだろうか?

 

「あぁ、景輔君にはちょっと出かけてもらっているよ。・・・その方が、光音ちゃんも僕に聞きたい事聞けるでしょ?」

「・・・そう・・・ね。聞きたい事は山ほどある・・・けど」

 

私は一つため息をつきながら、肘をテーブルの上から下ろした。・・・そう、父さんには聞きたい事だらけだった。

 

「父さんは今まで何してたの!?なんで私がラベンダーフォックスなの!?ウォルブレインって何者!?私を襲ったイノシシ獣人の正体は! ?今日の晩御飯は何がいい!?」

「今までしてたのは各地の神々への応援要請!光音がラベンダーフォックスになったのは、素質があったのと僕が推薦したから! ウォルブレインは謎の狼獣人!光音ちゃんがイノシシ獣人に襲われたことは初耳!晩御飯はカレーがいいな!」

「・・・」

「・・・満足?」

「そんなわけないでしょ・・・!」

 

私は両手で頭を抱えながら大きくため息を吐いた。・・・嫌でも親子。リズムは合ってしまう。・・・とりあえず、状況整理。

 

「・・・神々の応援要請って?」

「彌麓様を説得してもらうためだよ。・・・もっとも、彌麓様がそれに応じるとも思えないけどね」

「・・・ヴィスタディアは・・・何が目的なの・・・?」

「・・・あの方の考えている事は把握できないけど・・・リョッコ様は、人間と自然との融和を長く保ち大切にしてきた。 それに異を唱えるのは・・・つまりそういうことだ」

「人間と神々・・・いえ、自然との隔離・・・?」

「予想の域は出ないけど、近からず遠からず、そうだと思う」

 

・・・人々と神々の調和。それがリョッコ様の意思であり、それが理由でリョッコ様の下を離れたヴィスタディア。・・・確かに以前、 ヴィスタディアはユキに対して「あの方のやり方では・・・この地は守れぬ」「あのお方のお考えを盲目的に信じすぎている」と言っていた。・・ ・目指すべき理想が、この地の守り方に対する考えが違えたのだろう。・・・どちらも、この地を守る神である事には違いないはずなのに。 同じ理想と目標を描いていたはずなのに。それが今戦いあっている。

 

「・・・愚かしいと思うかい?」

「え?」

「そういう顔してる」

「・・・」

 

・・・何とも言えない。別に愚かとは思わないけど・・・だけど同じ理想を持つ神同士が対立している構図は、やはり釈然としない。

 

「・・・じゃあウォルブレインは何者なの?」

「だから、謎の・・・」

「・・・とぼけなくていいよ。本当のことを教えて・・・知らないとは言わせない」

「・・・どうしてそう思うの?」

「私が戦いに関わる前から、ユキとウォルブレインは互いに知った顔だったみたいだし・・・松原さんも、 敵にしてはウォルブレインの性格をよく把握しすぎていた。・・・まるで、かつて味方だったヴィスタディアと同等に」

「・・・その鋭さと観察力が、僕が娘ながら光音ちゃんにラベンダーフォックスを任せた理由なんだけどね」

「いいから、答えて・・・!」

 

私は父さんに詰め寄るように、静かだけど強い口調で改めて問いかけた。父さんは、表情一つ崩さず、 かすかな笑みを浮かべながらゆっくりとコーヒーをすすり、ふぅと一つため息をつくと、私から視線をそらし窓の方を見た。

 

「・・・僕でも話せることは限られている」

「・・・どうしてよ・・・?」

「じゃあ光音ちゃんは、誰かにラベンダーフォックスの秘密を聞かれて、根掘り葉掘り包み隠さず全部話せる?」

「・・・それは・・・!」

 

・・・確かに、全部を説明するのは難しいかもしれない。例えば私の秘密を・・・梅本さんや知子に知られた時・・・私はどうするだろう? きちんと説明できるだろうか・・・?

 

「・・・誰だって、互いに出会う前にそれ相応の生活や歴史を持っている。・・・勿論、どんなに親しくったって言えないこともあるのさ」

「・・・わかる・・・けど・・・!」

「そうだね・・・僕から言えるのは・・・光音ちゃんが疑っている通り、ウォルブレインとは初め敵対していなかった。・・・だけど、 その頃から正体が良く分かっていないのは事実だ。・・・そして、ウォルブレインが半ば焚き付ける様な形で、 彌麓様をリョッコ様から引き離したから・・・特に彌麓様を慕っていた雪の防狐からは憎まれているんだ」

「ウォルブレインが・・・ヴィスタディアを・・・?」

 

・・・そう説明されると、思わず納得しそうになったけど・・・不思議とは私は何か腑に落ちない変なモヤモヤ感にさいなまれた。・・・ 父さんの今の説明に、どこか違和感を感じるのだった。それが何なのか・・・皆目見当もつかなくて、 しかも父さんに言えることはこれだけと釘を打たれている以上、それより聞くことは出来なかった。それより・・・まだ聞きたい事はある。

 

「・・・この前、イノシシの獣人に襲われたの。松原さんの調べで・・・井筒って言う刑事が変身した可能性があるの。・・・ 何か知らない?」

「そうだね・・・直接関係無いかもしれないけど・・・今から5年ぐらい前だったかな?・・・ 光音ちゃんの一つ前のラベンダーフォックスが戦っていたのは、人間を獣人に変えて戦わせていた組織だったはずだよ」

「私の・・・前のラベンダーフォックス・・・」

「そう・・・もしかすると、そいつ等が関係しているのかもしれない。組織は壊滅したはずだが・・・残党は当然残っているだろうし」

 

・・・そうだ、私の前にもラベンダーフォックスは代々受け継がれてきたと言われていた。つまり、 私がラベンダーフォックスになる前にも当然誰かがラベンダーフォックスをやっていた事になる。その彼女は敵の組織と戦い、 壊滅までさせたんだ。・・・果たして私にそこまでできるだろうか・・・?

 

「・・・その、前のラベンダーフォックスだった人は・・・今は何を?」

「辞めた後のことは詳しくないなぁ・・・そのまま行けば、年齢的に大学生だけどね」

「そう・・・」

 

・・・どうも父さんの言う事は信用できない。まさかまるっきり嘘を喋ってるなんてことは当然無いだろうけど・・・戦いのためとはいえ、 目的も告げずに長く家を空け、私達家族や九重ノ司の仲間達に迷惑を掛けるような人だ。・・・こうしていくつか話してくれたけど・・・一体、 父さんが知ってる事のうち、どれだけを話してくれたんだろう?色々話してくれたようでいて・・・核心には何一つ触れていない。・・・ ラベンダーフォックスである私から遠ざけなければならない情報か何かがあるのだろうか?

 

「・・・じゃあ、晩御飯はカレーにするね。・・・一応、質問には答えてもらったし」

「ありがとう、楽しみにしているよ」

 

父さんは嬉しそうにそう答えた。私は、また頭を一つかきながら立ち上がって台所へと向かった。

 

 

 

雨が降りしきる夜の街を、景輔は傘もささずに一人歩いていた。中学生が歩くには、もう随分遅い時間だし身体も冷えてきた。 彼もそう長くいるつもりは無い。ただ、今は彼の父親と姉が何か大切の話をしているはずだった。・・・多分姉の力に関する話だろう。

 

(・・・姉さんは・・・何に巻き込まれているんだ・・・?)

 

北海道に来てから姉の様子がおかしいのは確か。そして・・・恐らく何かに巻き込まれている。力に関する何かに。・・・ 自分たちを北海道に呼んだのは父だったから、彼に直接問いただそうと呼んだはずだったが、父は景輔に余り語らず、二、 三やり取りをしたらすぐに、光音と話がしたいと言われ景輔は追い出される形になってしまった。

 

「まさか、君が青藤大地との連絡手段を持っているとは思わなかったよ」

 

不意に後から声が聞こえてきた。・・・軽い印象を受けるが、にもかかわらず強い威圧感を感じさせるその声に聞き覚えがあった。・・・ ほんの数時間前に聞いたばかりの声だ。忘れるはずが無い。景輔はチラッと後を後を振り返った。 そこには学生服を着た少年が自分の後をついてきている姿が見えた。

 

「・・・出雲・・・!」

「あ、覚えてくれたんだ。嬉しいね」

「・・・何の用だ」

 

景輔は前を振り返り、そのままゆっくりと歩き出しながら小さな声で後の出雲に声をかけた。

 

「用ってほどじゃないさ。・・・ただ、君が僕の予想の上をいく行動が面白くてね」

「・・・予想?」

「あぁ、君が青藤光音を追わなかったこと。青藤大地を呼んだこと。どれも予想していなかった。・・・想定していた、最悪のパターンさ」

「最悪・・・という表情には見えないけど?」

 

景輔は彼の表情も見ずにそう切り替えした。・・・さっきチラッと見えた表情で十分だ。 とても最悪の事態に直面したような表情じゃなかった。口元は笑みがこぼれ、声の口調も明るい。・・・最悪という状況に対する感情よりも、 景輔に対する面白いという感情の方が強いのかもしれない。

 

「まぁ、青藤大地が自ら動くとも思ってなかったけどね」

「あんたのことは話していない。・・・約束は守っている」

「あぁ、僕のことを口外しないってことね。その点は利口だと思うよ?・・・もっとも、彼なら僕の存在なんてすぐ見抜くだろうしね」

「・・・」

 

無言のまま景輔はポケットから携帯電話を取り出して、画面を一瞬見てすぐポケットに戻した。

 

「誰かからか連絡かい?」

「いや、時計を見ただけ。・・・腕時計、持たない主義だから」

「そう。・・・ところで聞きたいんだけどさ?」

「・・・」

「・・・君の力は何処に置いてきたんだい?」

「・・・何のことだ?」

「屋上で感じられた君の力が・・・今は感じられないよ?」

 

景輔は後を振り返ることもなく、無言のまま歩き続けた。出雲はその後で、 笑顔を浮かべたままだがさっきよりも少し目を大きく見開いて小さな声で、しかし力強く一言更に問いかけた。

 

「・・・大地の仕業か?」

「・・・答える必要が有るか?」

「青藤大地は君たちが思っているような男じゃないよ。父親としても・・・他の面でも」

「父さんの事を・・・どれだけ知っているんだ?」

「君たちよりかは詳しい自信が有る」

 

景輔はようやく出雲の方を振り返って、無言で彼をにらみつけた。しばらく2人の間に言葉は浮かばず、 ただ雨の音だけがあたりに響いていた。

 

「・・・雨は、全てを流してくれる・・・」

「・・・何の話だ・・・?」

「そして雲は・・・光を遮り、影を作る。・・・人も同じ。光る人間がいれば、その影になる人間がいる」

「・・・」

「大地も・・・酷い人間だと思わないか?・・・”光”が生まれ、その後に”景(かげ)”が生まれる。・・・安直なネーミングだ」

「そう・・・だな。俺は姉さんの影かもしれない。・・・なら、あんたはどっちだ?」

 

出雲を睨みつけたまま、景輔はそう問い返した。出雲はまた小さく笑みを浮かべながらその問に答える。

 

「影さ。勿論」

「・・・誰の影だ?」

「・・・影は必ず、元になったものと似た形を取る。光の強さで角度や大きさなんかが違ったとしても・・・ね」

「そう・・・か」

 

そう答えて、景輔は再び振り返り雨の道を歩き始めた。だが、その後から追いかけてくる出雲の足音が聞こえなかった。 景輔はすぐに立ち止まり、出雲の方は振り返らずにそのまま問いかけた。

 

「・・・追ってこないのか?」

「追ってきて欲しいのかい?」

「・・・いや」

「僕が君の前に現れたのはただの忠告。・・・青藤大地に気をつけるべきだという、忠告さ。・・・ 子供は自分が思ってるよりも父親の事を知らないもんさ」

「・・・父親も、自分が思ってるよりも子供のことを知らないもんだろう?」

 

景輔の答えを聞くと、出雲は小さく笑い声を上げ、そしてゆっくりと気配を消した。景輔は一つため息をついて空を見上げた。 雲で覆い隠された空から、雨が光線のように降り注いでくる。聞こえる音は再び雨音だけ。時折遠くから車のエンジン音が聞こえる程度。

 

「・・・俺は・・・俺の力は・・・何のためにあるんだ・・・?」

 

景輔は遥かな空に向かって小さく問いかけた。勿論答えが返ってくるはずもなく、虚しい鈍色が果てしなく続くばかりだった。

 

 

ラベンダーフォックス 第13話「思惑交錯!!父と娘と息子と鈍色の空!」 完

第14話へ続く

この記事へのコメント
晩御飯はカレーがいいな!

って場所で思わず吹き出してしまいましたw。まさかあんなストレートに答えるとは・・・w。

出雲はなんか怪しい雰囲気かもし出してますね。これからの行動が気になります。

これからも更新がんばってください!では失礼しましたOTZ。

★宮尾レス
コメント有難う御座います。
父、大地は今のところ割と子供っぽいところと大人っぽいところが混じった、捕らえどころのないキャラと言った感じですね。なので、カレー大好きですw
出雲は徐々にその正体が明かされていきます。意味深な事ばかり喋る彼の目的とは?

今後の展開をどうぞお楽しみに!
Posted by 人間100年 at 2007年05月01日 22:29
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