2007年03月22日

ラベンダーフォックス 第12話

ラベンダーフォックス 第12話「風雲急変!それぞれの思惑と・・・そして・・・!?」

【人間→獣人】

 

全ては動き出し始めた。私の知っているところでも、私の知らないところでも。一人一人の思いは大きな運命のうねりを生んで、 私たちを飲み込んでいく。抗う暇も与えずに。

 

 

 

「・・・ぅっ・・・」

 

とても暗く、湿った、寒い小さい部屋の真ん中で、一人の男がうめき声を上げ、その狭い部屋に響いた。男は静かに目を覚まし、 ゆっくりと瞳を開く。次第に目が慣れてきて辺りを見渡すが、男はその部屋に見覚えが無かった。男は慌てて立ち上がろうとするが、 その瞬間に全身に激痛が走って、その場に倒れこんでしまう。見れば着ていた服はボロボロで、体中に生々しい傷跡が残っている。・・・しかし、 男にはその傷に関する記憶が無い。・・・いや、この部屋に来るまでの、長い間の記憶が残っていないのだ。一体何故、 自分はこんなところに居るのか。そう考えていた時、部屋のドアが開き外からの灯りが差し込むと同時に人影がその光を遮った。 人影は男を見るなり、小さく呟いた。

 

「・・・目覚めたか」

 

低く響いたのは、男の声だった。陰になっていても分かるほど、その男の背丈は大きかった。 大男はうずくまっている男に向かって数歩歩み寄り、しゃがんで彼の顔を見ながら問いかけた。

 

「意識はハッキリしているか?・・・名前と職業は言えるか・・・?」

「・・・井筒・・・井筒司郎・・・刑事だ・・・お前は・・・?」

「・・・アソウ・・・麻生士朗だ。・・・奇遇だな、同じ名とは」

 

自ら麻生と名乗った大男は、表情を変えずに淡々と井筒刑事に向かって話しかけた。 井筒刑事はいまいち飲み込めない奇妙な現状に疑問を浮かべつつ、麻生に問いかけた。

 

「ここは・・・どこだ・・・?俺は・・・何を・・・?」

「・・・覚えていないのは無理も無い・・・覚醒して間もないのだ・・・」

「・・・覚醒・・・?」

 

井筒には何のことだかまるで分からなかった。自分が何故ここにいるのか記憶を辿ってみても、いっこうに思い出すことが出来ず、 何かもやがかかったようにはっきりしないのだ。

 

「・・・まぁ、まどろっこしい説明などしても無意味だろう・・・身体で分かってもらわねば・・・」

「待て、何の話だ?・・・麻生と言ったな?お前は・・・一体・・・?」

「・・・少し黙っていろ。・・・すぐに全てを分からせてやる・・・」

 

麻生はそう言ってすっと立ち上がり、ドアの近くまで戻ると、部屋の明かりのスイッチを押した。途端にまぶしい光が部屋中に溢れる。 しかも、そのまぶしさが尋常じゃない。井筒は目を凝らしながら周りを見渡す。まぶしいのは当たり前だった。部屋の四方、 全ての壁が鏡張りになっていたのだ。やがて目が慣れてきた井筒は改めて麻生の方を振り返った。

 

「・・・何だ・・・この部屋は・・・?」

「我々が・・・同志を迎えるときに、まず訪れてもらう部屋だ。・・・自分のことを理解してもらうためにな・・・」

「同志・・・?」

「そう・・・同志だ。お前は・・・我々と同じ存在になったのだ・・・」

 

今だ状況が飲み込めない井筒は、麻生の言葉に頭を抱えるしかなかった。何の話をされているかまるで分からない。同志、同じ存在、覚醒、 身体で理解する・・・麻生の言った言葉を順に並べるが、やはりつながりが見えてこない。そして結局、何故自分はこんなところに・・・ という問を繰り返してしまう。釈然としない井筒は、視点の定まらないままあちらこちらと色々見渡していたが、ふとその時、 麻生の様子に異変を感じた。よくよく耳を済ませれば、彼の呼吸が荒いのだ。

 

「お前・・・どうしたんだ、急に・・・!?」

「・・・黙って見ていろ・・・」

 

とっさに駆け寄ろうとした井筒を制止するように、麻生は右腕を突き出した。井筒はそれを見て足を止めるが、 その突き出された麻生の右腕の異変に気付いたとき、井筒は思わず声を上げていた。

 

「な・・・何だ・・・それは・・・!?」

 

井筒は、刑事としてまだ若いが、十分な場数を踏んでいるから、少しの事で動揺などする人間ではなかった。しかし、 今まで目にしたことの無いその異様な光景は、彼にとってある種の恐怖を伴っていた。目の前で麻生が・・・ 人間が人間でなくなっていく様を始めて目の当たりにするのだから。

 

突き出された麻生の右腕には、まるで獣のような黒く硬い毛がびっしりと生えていたのだ。さっき見たときまでは、 普通の人の腕だったはずだ。しかも、それは確実にまだ伸びていた。まるで彼の身体を侵食するように。 そして凍りついたように静かな部屋の中で麻生のうめき声だけが時折響く。そのたびに彼の身体の変化が進んでいく。

 

顔にも腕と同様に黒い毛が覆い始めたかと思うと、その輪郭が大きく歪み始め、人の形を失っていく。鼻先が大きくなり、 顔の前に突き出し始め、耳も大きくなり横へ尖った。頭の上からは大きな角が生え始める。力強くも洗練されたその顔は、 完全に雄牛の顔そのものだった。顔だけじゃない。全身が肥大し、耐え切れなくなった服は容易に破れたが、 そこから露出する彼の身体も完全にウシの黒い毛で覆われていた。手は人の時と同じ5本指のままだが、やはり毛で覆われており、 足にいたっては完全に指は無くなり、ウシの蹄と化していた。身体の後ろでは細い尻尾がゆっくりと揺れていた。麻生・・・いや、 麻生だったウシの獣人は自らの変化が終わったのを確認すると、大きく身を反らし、天に向かって吠えるように大きく鳴き声を上げた。

 

「グムゥォォォォーッ!!」

 

その鳴き声に共鳴するかのように、鏡張りの部屋はビリビリと悲鳴を上げながら小さな振動を起こした。屈強な身体を持つ半人半牛の姿。

 

「・・・ミノタウロス・・・だとでも言うのか・・・!?」

 

井筒は思わず、記憶にあった伝説上の怪物の名を口にした。まさにそう呼ばれるに相応しい姿となった麻生は、 鋭い眼光で井筒の方を睨みつける。井筒は目の前で起きた常識外れの異常にも、冷静でいようと心がけてはいたが、 流石に完全に落ち着くことは出来なかった。それどころか、彼の変身を目の当たりにしてから、何故か気分が落ち着かない。 自分の中で何かが暴れているかのような、奇妙な圧迫感を心に感じていた。

 

「これが・・・我等の力・・・デュオデックが生み出した・・・新たなる力だ・・・!」

「デュオデック・・・!?」

「そう・・・古来から伝わる秘術に・・・現代の科学技術を費やして生み出した・・・新たな力・・・メガノコックス・・・! それを司るのが・・・我等12の戦士、デュオデックなのだ・・・!」

「・・・待て・・・何の話だ・・・!?・・・それに我々・・・と言う事は・・・お前のほかにまだいるというのか!?」

「・・・あぁ・・・いるさ・・・目の前にな・・・」

 

麻生はその牛の顔で不敵な笑みを浮かべる。麻生の目の前にいるのは・・・井筒ただ一人。井筒はすぐにはその意味を理解できなかったが、 目の前にいる牛獣人の威圧感に気圧されて後ろに退こうとした瞬間、自分の身体に異変を感じた。・・・体が・・・熱を持ち始めている。 自分の身に急に訪れた異変に井筒は戸惑っていたが、熱がどんどん上がるにつれてめまいを感じ、ついに立っていられなくなり膝をつき、 両手を地面につけた。・・・その時、視界に飛び込んできた自分の手を見て、井筒は言葉を失った。

 

「・・・そんな・・・俺の・・・俺まで・・・手が・・・!?」

 

ようやく絞り出せた声は上ずっていた。それぐらいの衝撃だったのだ。自分の手の甲から、茶色く硬い獣の毛が生え始めていたのだから。

 

「・・・俺に・・・何を・・・した・・・!?」

「力を与えたのだ。・・・お前に相応しい力を・・・同志としてな・・・」

 

麻生は少しくぐもった声で、井筒の問に答えた。そのやり取りの間にも井筒の変化は進んでいた。 手を覆っていた茶色い毛は徐々に全身を覆っていき、それに呼応するように彼の身体は徐々に肥大していく。 鼻は大きく前へ突き出しながら形を逆三角形へと変え、耳は三角形に尖りながら大きく頭の上に立ち、口の横からは鋭い牙が姿を見せる。 それはもう完全に人のものではなくなっていた。下半身も同じような茶色い毛で覆われており、足は麻生と同じように、蹄と化してしまっていた。

 

「う・・・嘘だ・・・俺が・・・!?」

「認めるんだ・・・自分の姿を・・・そのための部屋なのだからな・・・」

 

牛獣人はうずくまりながら必死で何かに抗うかのように苦悶の表情を浮かべる井筒に対してそう言葉を投げかけ、彼の左腕を持ち上げ、 肩を貸すように彼を立ち上がらせた。・・・そうすれば、嫌でも井筒の目に飛び込んでくるのは、鏡に映った自分の姿。・・・ 人ではなくなってしまった、異形の姿。身体つきこそ人そのものだが、全身を茶色い毛で覆われ、足と頭は人のものとはかけ離れた獣の・・・ イノシシのものとなっている奇妙な姿。牛の獣人に肩を借りるようにして、力なくたたずむそれは、紛れも無く井筒自身なのだ。

 

「どういうことだ・・・!?俺は、俺が・・・このイノシシ・・・!?」

 

井筒は目に見えるものを否定するかのように視線をずらそうとするが、四方を鏡張りになっているこの部屋では、 どちらを向いても自分のすがたが目に飛び込んできてしまう。その度に、受け入れがたい事実を、自分の身に起きた異変を認めざるをえないのだ。

 

「やめろ、元に・・・元の姿に戻せ・・・!」

「言われずとも、元の姿には戻すつもりだ。・・・条件を飲めばな」

「・・・条件・・・?」

「殺して欲しい奴がいる」

「な・・・!?」

 

イノシシはその瞳に大きく驚きと怒りの光を宿して、ウシのほうをにらみつけた。しかしウシは顔色一つ変えず、 むしろ冷めた表情でイノシシを見つめ返していた。

 

「・・・俺が・・・刑事だと・・・知った上でか・・・!?」

「当然だ。・・・刑事なら、人一人がいなくなる事件など・・・容易に作れよう・・・」

「・・・断れば・・・?」

「さぁ・・・お前はその姿のまま。ターゲットは・・・誰か別の奴にでも殺してもらえばいい・・・」

「・・・選択肢を与えるつもりなど、無いという事か・・・!」

 

井筒はその刹那、心底この麻生という男を憎んだ。自分をイノシシに変えたことや、人殺しを強要されたことに対してではない。こういう、 策士を気取り、人の運命を弄ぶような人間性そのものが許せなかった。・・・だが、だからこそ、井筒にはどうしようもなかった。 この姿でいることは、人として終わったも同然。・・・ならば、終わらせるのは刑事の職務だけで良い。

 

「・・・止むをえまい・・・誰を・・・殺せばいい・・・」

「・・・この娘だ」

 

麻生はそういうと、黒い毛で覆われたその手で、一枚の写真を差し出した。そこには制服姿の少女が映っていた。

 

「こんな・・・子供をか・・・!?」

「名は青藤光音・・・あなどるなよ、その娘も・・・我々と同じ、獣の姿に変ずるものだ」

「っ・・・!」

 

イノシシは不器用そうにその写真を受け取り、その少女の姿を目に焼き付けた。そして写真を手にしたまま、じっと考えにふけっていた。・ ・・この少女を手にかけるわけにはいかない・・・しかし、この麻生という男の言うことを聞かなければ、自分は元の姿に戻れない・・・。 これまで経験した事が無いほどの葛藤にさいなまれていた。その時、部屋の入口から麻生とは違う人間の気配を感じ、 思わずそちらの方を振り向いた。するとその声が話しかけてきた。

 

「お、そのイノシシはアレかい?新しい仲間かい?」

「・・・更科(さらしな)・・・来ていたのか」

「来ていたのか・・・ってそいつは酷くないかい?呼んだのはアンタじゃなかったのかい?」

「・・・そうだったな」

 

麻生のその言葉を聞くか聞かないかのタイミングで、更科と呼ばれたその男は部屋の中に入ってきた。・・・だが、この男も、 よく見ればその姿は人ならざるものだった。麻生や井筒のような姿とは違い、一見普通の人間にも見える。しかし、 その身体はやはり茶色の毛で覆われていた。顔も人そのものだが、その輪郭を深い毛で覆われている。 その姿は猿人とでも形容すればいいだろうか、まさにサルの獣人だった。・・・鏡張りの部屋に、 人の体躯を持ったウシとイノシシとサルが一堂に会するその光景は、鳥獣戯画のようで非常に奇妙なものだった。更科は含み笑いを浮かべながら、 井筒のことを見上げた。

 

「なるほどねぇ・・・アレかい?またパワー系が増えたわけかい?」

「全てを力押しで乗り切れるとは思わんが・・・しかし力は必要だ。・・・制御するものもな」

 

牛獣人はそう言うと、その黒い手をぽんと猿獣人の肩に置いた。

 

「・・・それはアレかい?このイノシシの面倒は俺が見ろってことかい?」

「まだ・・・力に目覚めて間もない。人間の姿に戻る方法も得ていない。・・・世話をし、任務の手助けをする優秀な者が必要だ」

「つまり、その優秀なものって言うのは、俺のことかい?」

「そう聞こえなかったか?」

 

麻生は相変わらず無表情な牛の顔で、淡々と答えた。更科は少し呆れた表情を浮かべながらも、戸惑いと苦悶の表情を浮かべるイノシシ、 井筒に対して声をかけた。

 

「ということらしいから、今日から仲良くしてくれるかい?同志なんだしさ」

「同志・・・」

 

井筒は、その言葉を否定しそうになるのをぐっとこらえて、小さく頷いた。今は兎に角、この男たちに従うしか生きる術は残されていない。 不本意ながらも、彼等と共に行動することを決意した。鏡で乱反射する光も、決意の前にはたいした障害ではなかった。

 

 

 

「あ・・・雨だよ、ヴィスタディア」

 

四方を木で囲まれた深い森の中で、黒い毛を持つ狼の獣人は、自らと同じような色の空を見上げながら、 遠吠えをするような嬉しそうな声で、近くにいた鹿の獣人に声をかけた。

 

「・・・天が泣いているのか・・・」

「・・・ヴィスタディアは神様なのに、詩人だね」

「詩を興じたつもりは無いが」

「考え方が詩的っていう意味さ。・・・雨がそんな気分にさせてくれるのかもね」

 

狼ははしゃぐように飛び跳ねながら、言葉を続けた。

 

「・・・嬉しそうだな」

「僕ね・・・雨が好きなんだ」

「・・・好き?雨がか?」

「うん。・・・太陽はまぶしすぎるよ。必ず光と陰を生み出すし。・・・だけど、雨は全てを洗い流してくれる。 雲は全てを覆い隠してくれえる。・・・全てをね」

「・・・お前の方がよほど詩人だな、ウォルブレイン。だが・・・雲も好きだと言い張れるのか?」

「太陽よりはマシさ。雲が無ければ、雨は生まれないしね」

 

ウォルブレインと呼ばれた狼の獣人は、両腕を大きく左右に広げ、胸を天に突き出すかのように上体を反らし、空を見上げ、 全身で雨を浴びた。まるで自分の中の何かを洗い流すかのように。

 

「・・・何を洗い流してもらうつもりだ?・・・情か?憎しみか?・・・或いは・・・」

「言っただろ?全てさ」

 

ウォルブレインは雨で濡れた全身の毛を身震いで大きく振るわせた。そしてヴィスタディアのほうを振り向いて言葉を続けた。

 

「僕の中の全てを・・・ウォルブレインという僕を、無にしてもらったんだ。・・・じゃなきゃ、僕はラベンダーフォックスと戦えない。・ ・・あの子は強いから」

 

黒い毛で覆われた顔の中心に二つ、青く光る瞳には決意が宿っていた。流石のヴィスタディアも、 その強い意志のこもった眼に少しばかり言葉を忘れたが、やがて再び天を仰ぎながら小さく呟いた。

 

「・・・そうだな・・・全てを・・・洗い流す時が来たのだな・・・」

「うん。だから僕は・・・後悔しない。・・・全てを壊す。人間の代表として、神の名の下に」

 

全てを覆う雲と、全てを洗い流す雨が、森を包み込む。雨が奏でる雨音は、愁いを伴って森中に響いていた。

 

 

 

「・・・すみません、わざわざ車で送ってもらってしまって」

 

車の窓から見える雨の様子を助手席から眺めながら、私は運転席の松原さんに話しかけた。

 

「いいっていいって。これからウチで頑張ってもらうお姫さまだもの。俺がばっちしエスコートしちゃうよ。だから俺と一晩・・・」

「あ、次を右に曲がってください」

「・・・了解っ」

 

松原さんは私に答えるようにウインカーを上げた。・・・松原さんに力のことを教えてもらい、 神社から帰ろうとしたら雨に降られるなんてついてない。仕方が無いから人間の姿に戻って、松原さんに車で送ってもらうことにしたけど・・・ この人と2人きりって・・・ひょっとして危険な気が・・・。

 

「・・・光音ちゃんはさ、雪の奴の事・・・どう思う?」

「え?」

 

松原さんの突然の問いかけに、私は思わず声を上げた。

 

「どう思うって・・・どういう意味でですか?」

「・・・いや、これまで1週間・・・とちょっとかな?一緒に戦ったりもしたと思うけど・・・何か感じるところは無い?」

「感じるところ・・・?」

 

私はそう言われて下を俯いて考え込む。・・・感じるところ、と聞かれても・・・。

 

「・・・頼りにはしてますが・・・」

「・・・あいつはさ、必死で光音ちゃんのことを守ろうとするからさ。・・・それで無茶しないように光音ちゃんもあいつの事、 守ってやってくれないか?」

「え?・・・それは勿論」

 

私は松原さんの方を見て小さく頷いた。それを横目で見た松原さんは安心したような笑顔を浮かべた。

 

「・・・あいつさ、色々事情あって、余り君に戦いの事は話したくないみたいでさ」

「・・・色々?」

「うん、まぁ・・・色々は、色々さ」

 

そう言いながら松原さんはゆっくりとハンドルを切る。私は、ユキが残っている神社の方を振り返った。 もう大分小さくなって見えなくなっている。・・・だけど、きっとこれからは何度も足を運ぶ事になるだろう。私も・・・ 九重ノ司の一人として戦うことになった以上、決意を改めなきゃいけない。それに・・・戦い続ければきっと、父さんが帰ってくる気がするし。

 

「ねぇ、こっから先どう行ったらいい?」

 

決意にふける私の横から、松原さんが問いかけてきた。どうやら家の近くの細い路地に入ったようだ。 私は辺りの様子を確認するために窓の外を見たが、いつの間にか雨が止んでいるようだ。・・・家もすぐ近くの歩いていける距離まで来ているし・ ・・。

 

「あ、ここまでで結構です。あとは歩いていけますから」

「そう?じゃあ、気をつけてね」

「はい!ありがとうございました!」

 

私は車から降りて、松原さんに深々とお辞儀をした。それを見届けた松原さんは、十字路を利用してスイッチバックをし、 来た道を戻っていった。私はもう一度頭を下げると、家のほうへ向かって歩き始める。この一歩一歩が、自分の未来に繋がっている。 これから始まる戦いへのステップになるんだ。そして私は高まる気分を押さえながらゆっくりと玄関の前に立った。 ゆっくりとドアノブを手に取り、反対の手で鍵を開ける。そしてドアを静かに開いた。・・・いつも通りの、我が家の匂いがする。

 

「ただいま」

 

私は誰もいない玄関に向かってそう声をかけた。・・・景輔は、まだ帰っていないのか、それとも2階にいて気付かないのか、返事が無い。 私はそのまま身をかがめて靴を脱ぐ。その時だった。

 

「やぁ、光音ちゃん。おかえりなさい。遅かったんだね」

「え、うん・・・ちょっと寄る所があって・・・」

 

私は、問いかけてきた父さんの声にそう答えた。

 

・・・。

 

・・・え?

 

・・・ちょっと待って。私、今、誰の声に答えたの?

 

・・・。

 

・・・って・・・!?

 

「・・・と、父さん!?」

 

私は慌てて頭を上げて玄関先を見上げた。そこにいたのは、紛れも無い。実年齢よりもずっと若く見える、童顔で華奢で、色白で、 メガネをかけた・・・父さんの姿。

 

「お久しぶり、光音ちゃん。元気そうで何よりだよ」

 

唖然とする私に対して、いつもと変わらぬ笑顔で父さんは私に微笑みかけてきた。・・・ アレだけ所在が分かってなかった父さんが突然家に帰ってきたことで、私は頭の整理が追いついてこなかった。ただ、突然現れた父さんに対して、 驚きと呆れる感情ばかりが先走って、聞きたかった事もすぐに聞き出すことなんて出来なかった。

 

だけど、運命は私を飲み込み始めている。父さんが帰ってきた理由も、父さんを呼んだのが景輔だったということも、 まだ知らなかった私は、自分が置かれている立場の本当の意味になんて気付くはずも無かった。

 

 

ラベンダーフォックス 第12話「風雲急変!それぞれの思惑と・・・そして・・・!?」 完

第13話へ続く

この記事へのコメント
はじめまして。ラベンダーフォックスここまで読ませてもらいました。いやぁとっても面白いです話です。続きが早く読みたいですw。

獣人というのは自分も好きですが、敵も味方も獣人というのはとてもハマリますw(敵では特にヴィスタディアと牛獣人さんが気に入ってますw)。

ラベンダーフォックス更新がんばってください!自分も応援します!

★宮尾レス
はじめまして。コメント有難う御座います。
ラベンダーフォックスは、1年近く定期更新が滞っていない、宮尾作品としては非常に安定した執筆が出来ている作品なので、それが気に入っていただけたのは光栄ですw

ウォルブレインは個人的にも好きなキャラなので、今後も活躍していく予定です。

人間100年様も獣人の小説を書いているのですね。長い作品のようなので、時間のある時に拝読させていただきたいと思います。

そこで、もしよければWWPからリンクさせてもらってもよろしいでしょうか?BEAST SOLDIERの今後の執筆、楽しみにしています。
Posted by 人間100年 at 2007年03月29日 20:21
ご返事ありがとうございます^^。まだまだ未熟な(高校生なので現実的にも未熟な)自分の作品を拝読してもらえるなんて光栄ですw。

リンクについてはWWPからしてもらって構いません。この辺は自分全く気にしない性質なのでw。

こちらもBEAST SOLDIERの更新がんばりたいと思います!それでは長々と失礼致しましたOTZ。

★宮尾レス
お返事有難う御座います。
早速リンクさせていただきます。今後とも執筆頑張ってくださいね、応援していますので☆
Posted by 人間100年 at 2007年03月30日 19:54
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