2007年03月01日

ラベンダーフォックス 第11話

ラベンダーフォックス 第11話「神話伝承!司るものと青藤大地!」

【人間→獣人】

 

神社の裏手の小さな小屋の中に、響き渡るキータイピングの音。奏でるのは松原太一、19歳。父さんが代表を務めている(らしい)組織、 九重ノ司の副代表で、パソコンのスペシャリストで・・・変な人だ。しばらく黙ってパソコンを打っていたけど、 やがておもむろに私のほうを振り返り声をかけてきた。

 

「この町には、一つの物語がある。キツネの神様の神話が」

『・・・リョッコ様の話?』

「聞いたことある?」

『ううん、ユキからリョッコ様の名前は度々聞いたけど、神話の事はさっぱり・・・』

「そか。・・・まぁ、リョッコ様の武勇伝もあるんだけど、この際そういった話はどうでもいいんだ」

 

松原さんはそう言って再びパソコンの方に振り返り、再びキーボードを打ち始める。と同時に、言葉を続けた。

 

「・・・昔からこの地には小さな小競り合いみたいなのがあってね。・・・言ってしまえば宗教戦争だね。規模はとてもミニマムだけど」

『宗教戦争・・・?』

「この地には元々神様が1ついた。だけど、人々の信仰の違いから神様はいつしか2つ祀られるようになっていき、 互いを敵対するようになっていったんだ」

 

すると、松原さんの操作するパソコンの画面に、一つの地図が表示された。それは私たちが住む町がある、この半島の地図だった。 そして松原さんは画面のある点を指差した。

 

「今、俺達がいる神社はここ。そして・・・」

 

画面上の地図を松原さんがなぞり、さっきから大分離れた小さな街を指差した。

 

「ここにもう一つ神社がある」

『・・・その2つが・・・対立を?』

「そういうこと。・・・その戦いはもう随分続いている。多分、この地に先住民族が住んでた頃からの話だと思う」

 

つまり、程度や内容に違いがあるにせよ、私がこの町に来るはるか前から、こんな戦いはずっと起きていたということらしい。 ディスプレイを眺めながらそんな途方も無い戦いに巻き込まれたことをぼんやり考えていると、画面がまた切り替わった。 なにかのアニメーションのようだ。紫色の光の球の周りにカラフルな8色の球が回りめぐっている。

 

「これが何だか想像つく?」

 

松原さんはディスプレイ上の光を見つめたまま問いかけてきた。・・・大体想像はつく。再三私の力のことを、周りは紫の力と呼び、 私自身も私の中の紫は強く感じている。それにユキはさっき、私を「司るもの」と呼び、リョッコ様の力は9つあるといっていた。 それで整理がつく。

 

『紫は私・・・ううん、ラベンダーフォックスで・・・他の8つは紫・・・生命力以外にリョッコ様が司る力。・・・だと思います』

「本当に回転速いね。説明が楽でいいよ」

 

松原さんの口元は笑っていたけど、表情自体は笑顔ではなかった。むしろ険しい視線でディスプレイを見つめ続けている。

 

「・・・本来この9つの力はリョッコ様が元々持っていたもの。だけど、この土地の守り神であるリョッコ様には、 その力を戦いのために行使することが出来なかった。・・・そもそも神様だから、やたらに人間と干渉するわけにもいかなかった。・・・ だからリョッコ様は遥か昔に、自らの力を9つにわけ、1人の人間に譲り渡した。それがラベンダーフォックスの始まり」

『・・・1人の人間に?9人じゃなく?』

 

松原さんの言葉に引っ掛かりを覚えた私は、ニ、三歩歩み出て、松原さんの方を見直した。

 

「・・・本来は9つの力はラベンダーフォックス1人の力なんだ。だけど、与えられる力があまりにも大きかったのは事実。 それでは戦い抜くことは難しいとリョッコ様はラベンダーフォックスの力を分散させたんだ。・・・ある一人の人間の助言でね」

『・・・ひょっとして、父さん?』

「ご名答。代表は・・・10年ぐらい前って言ってたっけかな?・・・初めてこの町にやってきて、この戦いのことを知った。 そしてラベンダーフォックスのことも。・・・そして気付いたんだ」

 

松原さんはディスプレイから目をそらし、私のほうに視線を落として、一息ついて言葉を続けた。

 

「自分の娘が・・・ラベンダーフォックスだということに」

『っ・・・!』

「当時は当時のラベンダーフォックスがいた。・・・ラベンダーフォックスは大体常に誰か彼かいて、 その力を次々受け継いでいく慣わしなんだ。・・・だけど、代表は悩んだらしい。娘にこの戦いを継がせるべきなのか。・・・いや、 そんな私的なこと以上に、たった1人の少女がこの地の平和のために命をすり減らす・・・それが本当に神のすべき事なのかと、 代表は自らリョッコ様に問いただした」

『父さんが・・・直接リョッコ様に?』

「・・・君も知っての通り、ラベンダーフォックスとして戦うことは、君自身にも負担をかけている。当時はそれだけじゃなく、 他の8つの力まで背負って戦っていたんだ。・・・だけどそれでは代表の言う通り、効率が悪かった。だから、 代表の申し出を聞き入れたリョッコ様は、ラベンダーフォックスの力を9つにわけ、他の人間や、与える人間がいない力は別に祀ったりなどした」

 

私はしばらく黙って、松原さんの話に耳を傾けていた。今まで分からなかった父さんの話。 北海道で仕事をしているという話しか私は知らなくて、実際に父さんが何をしてきたのかを知り、少し驚いている。父さん、 とんでもないことしてる。神様に直訴して伝統を変えてしまっていたなんて・・・普通じゃ考えられない。

 

「そしてその9つの力を管理するのが九重ノ司、その力を受け継いだ人間が司るものなんだ」

『・・・じゃあ、松原さんも何かリョッコ様の力を?』

「そう。今、九重ノ司で司るものは俺と睦美ちゃんと・・・あと一応もう1人かな?」

『え?・・・たった3人なんですか?』

 

私は又驚いた表情で、口を大きく開いて松原さんに問いかけた。

 

「そう。今ウチで能力を使えるのはたった3つ。・・・光音ちゃんの紫を入れて4つだね。だけど、 半数以上はまだウチで管理し切れていない。・・・彌麓様たちの狙いはそこにあるはずだ」

 

松原さんは再び画面を見ながら何かを操作する。

 

「彌麓様の真の目的は分からない。だけど、9つ有るリョッコ様の力が1つでも欠ければ、リョッコ様は本来の力を取り戻せない」

『・・・リョッコ様に勝つために、力を手に入れようとする・・・可能性があるってこと?』

 

松原さんは小さく無言で頷いた。・・・これで筋が通る。何故ウォルブレインたちが、邪魔者である私に止めを刺すことをせずに、 牽制や挑発しかしてこないのか。ウォルブレインが言っていた真の力とは何なのか。

 

つまりは、私が本来引き継ぐはずだった9つの力。 それを手に入れることでリョッコ様を超えた存在になろうとしている可能性が考えられるという事だ。だとすれば、 その力の中心である私を倒してしまっては意味が無いのだろう。しかも、今九重ノ司側にある力が4つ。もし万が一、 残り5つが全てヴィスタディアに渡ってしまえば戦力的に圧倒的に不利になる。

 

「例の金融会社・・・もし彌麓様やウォルブレイン、或いはその仲間が襲うなら、あそこに司るもののような力の持ち主や、 力そのものがあるはずだ。だけど、そんな様子はあの金融会社からは感じられない」

『・・・だとすれば、何故井筒刑事は変身を・・・何であそこを襲ったり・・・』

「さぁね。それ以上のことは俺にも分からない。・・・ただ」

 

松原さんは再び画面を地図に切り替えた。そしてゆっくりと画面をなぞった。

 

「・・・俺達の戦いに誰かが割り込もうとしている。その可能性は高い」

『じゃあ、僕たちの戦いも、これから激しくなるかもしれないね』

 

不意にそれまで黙っていたユキが、松原さんの言葉に反応するように答えた。・・・そうだ、 戦う相手がウォルブレインたちだけでないとすれば、戦う相手が増える事になるかもしれない。そうなれば、 今まで以上に戦う回数が増える可能性も考えられる。華核を手にして戦闘力は向上したものの、これから先はますます強い敵が出るかもしれない。 やはり、もう泣き言なんていってはいられないようだ。

 

『・・・大丈夫。私、頑張るから』

『光音・・・』

『ラベンダーフォックスとして・・・誰が相手でも私、戦い抜いて見せるよ』

「・・・ありがとう、光音ちゃん」

 

こうして私達3人・・・正確には1人と2匹は互いに顔を無言で見つめあいながら、瞳の奥に燃える互いの決意を確かめ合っていた。 戦いは、まさにここから始まろうとしていた。

 

 

 

「・・・やっぱり、載っていない・・・」

 

景輔はそう小さく呟いて、手にしていたプリントを机の上に放り投げた。ここは景輔の自宅。つまり、青藤宅だ。結局景輔は謎の生徒、 出雲の助言には従わずに、神社へ向かうことなく自宅へと帰ってきた。そして彼が真っ先に取った行動は、 姉である光音のクラスメイトの確認である。出雲は自ら光音と同じクラスと名乗っていた。 せめて彼の情報が分かればと思い姉のクラスの名簿を確認したのだが、出雲という名は載っていなかった。偽名なのだろうか。

 

(でも、力の事を知っていた・・・しかも、只者じゃない・・・)

 

あれから少し時間が経過した今でも、出雲の事を思い出すと背筋が震えた。・・・あれ程までにはっきりとした威圧感を感じたのは、 景輔にとって生まれて初めてだった。だからこそ、彼が何者なのか、手の内を考えるために知る必要があった。・・・既に相手は、 景輔や光音のことを知っており、十分な下調べもしている様子だった。 このままこちらにだけ切るカードが無いというのはどう考えても不利だった。だとすれば、こちらもカードを準備するしかないだろう。

 

(・・・あまり気は進まないけど・・・)

 

そう思いながら景輔は自分の携帯を手にしてどこかに電話をかける。しばらくコールが続いた後、景輔は出てきた相手に声をかけた。

 

「・・・父さん?今、時間取れる?」

 

電話の相手は景輔の、そして光音の父である青藤大地だった。連絡の取れないはずの彼に景輔は容易く連絡をつけることが出来たのだ。 そして景輔は静かにこれまでのことを話し始める。そうしている間にも、自分と姉が大きな運命のうねりの中に巻き込まれていることも、 今はまだ気付かずに。

 

 

ラベンダーフォックス 第11話「神話伝承!司るものと青藤大地!」 完

第12話に続く

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