しかし、それにしても今日は暑い。絶好の海水浴日和とでも言おうか、兎に角強い日差しが降り注いでいた。しかし、 その日差しは海水浴なら気持ちが良くても、ただ歩いているだけの達哉にとっては体力を奪う強敵でしかなかった。 列車で海まで直行のつもりだったから、服も軽装で日差しを遮るものもろくに持ち合わせておらず余計にしんどい。 美奈を捕まえるためにさっき走ったことも、体力の消費に繋がっていた。
「美奈…悪い、少し休憩させて…」
「ミャアウ」
すでにケージの中に戻されていた美奈だったが、自分のためにここまで必死になってくれている達哉の願いを断る理由は彼女には無かった。 急ぐ気持ちもあったが、達哉が倒れでもしたら大変な事になってしまう。ケージの中に入ったままじゃ助けを呼べないし、仮に出られたとしても、 人にその危機を伝えるのは一苦労だ。今日は流石にあの五十音が書かれた紙は持ってきていない。
達哉は適当な日陰になる橋の下に入り、美奈を入れたケージを安全な場所へ置き、中から美奈を出した。 再び外に出た美奈の目に映った達哉はかなり汗ばんでいた。疲れが手に取るように判る。
「ふぅ…歩いただけでしんどいなんて、反則だ…」
達哉はコンクリートで出来た段の上に大の字になった。少し呼吸が荒い。美奈は心配そうに達哉を見つめていた。
「大丈夫…少し休んだら、またすぐ行くから…」
達哉は既に、さっきの駅から目的地まで三分の二位といったところまで来ていた。後数十分、それぐらいで着く距離だ。 普段の達哉ならなんとも無い距離だけど、今日は流石に体力の消費が激しいようだ。
「ミャァ…」
美奈が心配そうに鳴くと、達哉は彼女の頭の上に手を乗せ、いつものようにそっと身体を撫でた。しかし、その手が力なく落ちると、 静かに寝息を立て始める。やはり相当疲れていたようだ。美奈は達哉の顔の傍まで近寄り彼の顔を覗き込んだ。特に彼の唇を。
…この唇に、自分の唇が奪われたのか…と思うと、何だか不思議な感じだった。幼馴染としてずっと過ごしてきた関係が突然、 飼い主と飼い猫という関係になり、そして昨日のキスの瞬間また何か変わり始めた、美奈はそんな予感を感じていた。
達哉はすっかり眠っている。…仕返しするなら今するしかない…突然何を思い立ったか、美奈は自分から達哉の唇に顔を近づけ始める。 そして、丁度美奈の小さな猫の唇が達哉の唇に付き添うになった瞬間、急に美奈は首筋に昨日感じたのと同じ暖かさを感じる。
「ミャウ…!?」
急なことで驚いた美奈は、すぐに顔を達哉から放し、辺りを見渡す。すると、川の下流を見た時にその暖かさの強さ… とでも言えばいいだろうか、それが強く感じられた。美奈には判る。ミリィが呼んでいるんだ。早く、砂浜まで来てと、達哉ではなく、 美奈自身を呼んでいるんだ。
「ミャァ…」
美奈は達哉のほうを振り返る。まだ眠りに入ったばかり。ちょっと休憩する程度だろうから、深い眠りには入っておらず、 すぐ起きるだろうけど…。
しかし美奈は達哉に背を向けて急に川の下流に向かって走り始めた。目覚めた時に自分がいなければきっと達哉は慌ててしまうだろう。 でも、美奈にはミリィの呼びかけに応えることを優先した方が、自分にとっても達哉にとっても最善策だろうと考えた。 しかし美奈はこの時点でもまだ、ミリィがいなくなった理由を達哉から聞いてはいなかった。 だから自分が取った行動が達哉にとって何を意味するのか、理解していなかった。ただ、 自分を呼んでいるミリィに導かれるがままに走るだけだった。
美奈がそこからいなくなってしばらくすると、ほんの十数分程度でもグッと眠ることで体の疲れが取れたのか、達哉が目を覚ました。
「寝ちまったか…ゴメンな、美奈」
達哉はそういいながら辺りを見渡す。しかし、いるはずの猫が見当たらない。
「…美奈…?」
達哉はすっと立ち上がり近くを探し始める。しかし、いくら探しても美奈の姿は見当たらなかった。ふと、 達哉の脳裏を駆け巡ったのは夏休み初日。あの時もまた、ほんの僅か目を放した隙にミリィを見失い、そのまま取り戻す事が出来なかった。
達哉は今、自分があの時と同じ過ちを繰り返してしまったのではないかという不安にかられていた。
「美奈…美奈ぁっ!」
達哉はそう叫び始めると同時に走り出していた。方向は下流。もし美奈が一人で何処かへ行くなら川を辿り海岸を目指すだろうし、 ミリィが見つかったのも川下だったことから、達哉の身体は自然とそっちの方をむいていった。
炎天下の中を、回復しきっていない身体で達哉は川沿いを走り続ける。もし…もし万が一美奈に何かあったら、 ミリィだけじゃなく美奈までいなくなってしまったら…。
焦り。不安。恐怖。悔恨。色々な感情が達哉の中を渦巻いていた。もう失いたくない。もうあの苦しみを味わいたくない。ミリィを失い、 美奈まで失ったら、それこそ立ち直れない事を達哉は分かっていた。ミリィを失い、生きる希望を失いかけていた達哉を救ったのは、 間違いなく美奈なのだ。
「美奈ァァー!」
達哉はありったけの声を絞り出すように叫んだ。頼む、返事をしてくれ、心の中ではそう願うばかりだった。
そしてとうとう達哉は海岸にたどり着く。しかし、ここまでで美奈を見つけることが出来なかった。ひょっとして、 見当違いのほうへ美奈は逃げたのか…或いはさらわれでもして…様々な不安が達哉の胸をかきむしる。ここまで来て見つからないのなら、 戻って探すしかない…そう思って来た道を振り返った、その時だった。
「ミャァウ」
達哉は慌てて振り返る。聞き覚えのある声。探していた、その姿。小さなアメリカンショートヘアーが達哉を見上げていた。
「美奈!」
達哉はその猫の名を叫んだ。そしてその猫の傍まで駆け寄ると、そのまま彼女を抱き上げた。
「よかった…美奈、よかった…!」
「…ミャァウ」
美奈は達哉の腕の中で、小さく鳴いた。まさかあの達哉が取り乱すほど自分のことを心配しているとは思わなかったから、 少し複雑な気分ではあったけど、やっぱり嬉しかった。しかし、美奈はそんな彼の腕から抜け出すと、また何処かへ歩き出してしまう。
「美奈、待てって!」
達哉は慌てて追いかけた。すると美奈は少し先の砂浜で足を止め、何か小刻みに身体を動かしている。 達哉はしばらく不思議そうにその様子を見ていたが、しばらくすると美奈は不意に振り返った。その口には何かがくわえられている。
「…それは…!」
美奈はそれを咥えづらそうに、そして重そうにしながらもゆっくりとそれを達哉の下へと運んでいく。黄色く丸いそれは、 少しばかり砂で汚れていたものの、半月という時間の経過を感じさせないほど、あの時のままだった。
「ミリィのボール…」
達哉はそれ以上言葉が出てこなかった。ミリィが自分をここに導いた理由。このボールの事を伝えたかったんだ。 ミリィと達哉との間を繋いでいた確かなものが、このボールだったから。
達哉は美奈からボールを受け取るとそれをぎゅっと握り締め、崩れ落ちるようにうな垂れた。
「ミャァウ…」
「…ミリィ…ッ…!」
達哉は、再び美奈のことを抱き上げた。ずっと、あの日からずっと言いたかった言葉。
「ごめん…ミリィ…ごめんな…!」
「…ミャォウ」
猫は静かに応えた。その時、達哉の腕の中にはミリィがいた。少なくても、達哉にとって今の彼女はミリィだった。 猫は少し複雑な気持ちになりながらも、彼の体温と、頬からこぼれ落ちる涙を感じていた。
「ただいま」
「ミャォン」
達哉と美奈は、誰もいない部屋に向かって言葉を投げる。ボールを見つけた後、しばらく海で休憩した彼等は、日が傾き始めたのを合図に、 復旧した列車に乗り帰路に着いた。勿論、途中で放置してきたケージを回収して。
達哉は一つ大きく息を吸い込み、少しの間の後吐き出す。ほんの一日、日帰りのはずなのに、随分長く旅をしてきたような気がした。 きっと、まさに長い旅から帰ってきたものが手元にあるからだろう。達哉はその黄色いボールを見つめながら小さく呟いた。
「ミリィ…おかえり」
達哉はそのボールをしばらく眺めていたが、その様子を見た美奈が彼の足にしがみ付き、何かを催促する。
「…このボールか?」
「ミャァウ」
「わかったよ、ほら」
達哉は軽くボールを部屋の奥へと投げ込んだ。美奈はボールを追いかけ、抱きかかえるようにして遊び始める。
「じゃあ、飯にでもするか」
「ミャアウ」
達哉の問いかけに美奈はすぐに元気よく返事をした。そしてまた、始まるいつもの時間。ご飯を食べて、テレビを見て、風呂に入って。 何事も無かったように普段どおりのサイクルをこなす。そして、就寝。
「じゃあ美奈、おやすみ」
「ミャオゥ」
美奈はボールをまた抱えながら瞳を閉じた。達哉はその姿をしっかりと目に焼き付けていた。こうしているとますますミリィそのものだ。 ボールが帰ってきて、まるでミリィまで帰ってきたような錯覚を感じているのかもしれない。戻ってきたのはあくまでもボール。 当初の目的だった美奈を人間に戻すヒントも見つからなかった。けれど、達哉も美奈も不思議と心は充実していた。 心のどこかに引っ掛かっていた何かが、すぅっと取れた気がした。
達哉は気持ちよさそうに寝息を立てる美奈の横で自分も静かに瞳を閉じた。残り少なくなり始めた夏休み。 また明日から美奈を戻すための調査にもどらなければならない。しっかり体力をつけて臨むために、まずは適度な休息が必要だった。
その日達哉は夢を見た。それが夢だと判る夢。上も下も無い不思議な空間に達哉は浮かんでいた。
「…何だ…ここは…?」
達哉はそれが夢だと分かりながらも、あまりに不思議な世界観に戸惑いながら辺りを見渡していた。 その時視線の先に急に光の筋が光ったかと思うとその光の中に何か小さな影が見えた。見慣れた猫の姿。 その姿だけでは本来どちらなのか判別できないはずなのに、達哉はその姿を見た瞬間に確信を持って叫んでいた。
「ミリィ!」
分かっている。これは夢だと分かっている。でも、そこにミリィがいる。今日まで夢でも見ることが出来なかったミリィに、 夢とはいえ再び出会うことが出来た。それだけで達哉の心は熱くなっていく。
しかしその猫の影はその達哉の様子を見てまるで微笑んだような表情を見せると光に包まれてゆっくりと消えていく。 達哉は慌ててその光の筋へ駆け寄った。
「待ってくれ、ミリィ!」
しかし、走っても走っても光の筋にたどり着くことが出来ない。自分の夢のはずなのに、 自分の思い通りにならない歯痒さをかみ締めつつも達哉は必死に走った。その時達哉が猫の姿を再び見上げた瞬間、猫の口がゆっくりと開く。と、 同時に聞こえる声。
「…大丈夫」
「ぇ…?」
達哉は思わず足を止める。声の主は目の前の猫に違いなかった。
「ミリィ…」
「大丈夫だよ…達哉…私はずっと見守っている…あなたの傍にずっといる…」
「でも…ミリィ…!」
「それに…達哉を見守り、傍にいてくれるのは私だけじゃないから」
「…!」
ミリィのほかに達哉を見守り、傍にいてくれる存在。分かっている。ミリィがだれのことを言っているのか。
「その人は貴方を大切に思ってる…私と同じように…だから達哉を守ろうとする」
「ミリィ…俺は…!」
「達哉も…大切な人を守って」
「ミリィ…!」
「私の分まで…その人を守ってあげて…」
徐々に声と光が小さくなっていく。既に猫の姿はいつの間にか見えなくなっていた。達哉は広がる静寂と闇の中で、 自分自身の胸に手を当てる。ミリィが伝えたかった言葉。ミリィの思い。それをしっかりと自分の胸に焼き付ける。その時、 かすかに最後の声が聞こえた。
「達哉…ありがとう…」
「ありがとう…ミリィ…そして…さよならだ…」
そして光と声は完全に消えた。完全な暗闇と化した夢の中で達哉は流れ出る涙を止められなかった。ようやく言えた感謝の言葉、
そして別れの言葉。嬉しく、悲しく、切なかった。たとえミリィがずっと自分の傍に居てくれても、
ミリィには二度と会えないことを自分の心に認めさせたのだから。暗く静かな夢の中で達哉が涙を枯らし、目を覚ますにはそれから少し、
時間が必要だった。
その日美奈が目覚めたのは、身体に感じた違和感のせいだった。猫になってここで生活するようになってから、
布団をかけて寝たことが無かったのに、今日は身体が布団に包まっていたのだ。そもそも寝る前にかけた覚えも無い。
美奈はそれを手で払い除けぼうっとした頭を抱えながら一息つく。
「…手…?」
ふと、自分の身体が寝る前と違う事に気づく。健康的な肌色の皮膚、すっと長い腕、その先に長く伸びる指。毛で覆われていないし、 肉球も無い。間違いなくそれは人の手。その手で慌てて自分の顔を触る。弾力ある皮膚に、毛は覆われていない。耳も横にある。 首輪もついていない。
「戻ってる…!?」
その事に気づいた瞬間、美奈は慌てて身体の前をそばにあった布団で隠した。達哉に見られでもしたら…と思い周りを見渡すが、 達哉の姿が見当たらない。先に起きているのだろうか?美奈は身体を隠しながら恐る恐る立ち上がる。 ここに来た時猫に変身する前まで着ていた服を、達哉がこの部屋にしまっておいた事を思い出し、隅のカラーボックスの中を探す。 すぐに服は見つかり、それを慣れた手つきで着こんでいく。
しかし、しばらくぶりに着た服はなんとも奇妙なものだった。猫になっている間服を着ていないことが当たり前だったから、 人間だった時に当たり前に着ていた服も、どうも着ていると落ち着かなかった。美奈は一つため息を吐き出すと、 部屋のドアを開けリビングへと出た。
「あ、美奈。起きたんだ」
「達哉…いたの…?」
「俺の部屋なんだから、いて当然だろ?」
達哉は笑いながらそう言って、何か棚のようなものを設置していた。
「何してるの?」
「ミリィのもの、ここに置こうかと思って。必要ないから処分、も考えたけど、やっぱり出来ないし」
「ふぅん…」
そう言って美奈は達哉が物を置いていくその様子を見ていた。ミリィが使っていた玩具や皿。美奈が見つけたあの黄色いボール。そして、 美奈がつけていたはずのミリィの首輪。
「それ…私がつけていた首輪?」
「うん、元々ミリィのものだから、これもここに飾るよ」
「…それって、私の裸を見たってこと!?」
「元々、猫だったときはずっと裸だったろ?」
「違う!私、人間に戻ってるでしょ!?」
「大した差じゃないんじゃないか?」
「ちょ、そんな言い方…!?」
美奈が反論しようとした瞬間、自分の視界を達哉の身体で奪われた事に気づく。達哉の腕が、美奈の身体を優しく包んだ。
「冗談。戻れてよかったよ、本当に」
「達哉…」
「大丈夫。俺だって気ぐらい使うさ…なるべく見ないように気をつけたさ」
「え…うん…」
達哉の鼓動がはっきり聞こえる。それだけじゃない。美奈自身の鼓動も早くなっている。美奈は少しの間そのままじっとしていたが、 急に達哉から少し離れたかと思うと、また急に体を近づけ、少し背伸びをして達哉の首元に手を回し、 そのまま顔を近づけて達哉の唇を自分の唇に重ね合わせた。
達哉は一瞬のことに動揺したが、すぐにその柔らかな唇を受け入れると、彼女の身体を再び抱き寄せた。ようやく唇を離し、 達哉は小さな声で美奈に問いかける。
「…何のつもり?」
「一昨日の仕返し。からかった罰なんだから」
美奈は笑いながらそう答えた。達哉もまた微笑み返しながら、ふとあのミリィのボールを手に取り、急に真剣な表情で言葉を切り出す。
「…夢を見たんだ」
「夢…?」
「そう夢。…夢でミリィに会ってさ」
「ミリィに…?」
「…お前の事、大切にしろって言われたよ」
「え…」
達哉にそう言われ、美奈は自分の顔が徐々に熱を帯びていく事に気がついた。達哉を見ていると、余計にそれが加速するから、 わざと目線を反らして呟く。
「…勝手な想像なんだけどさ…」
「…ん…?」
「私が猫に…ミリィの姿になった理由。それって、ボールを私に見つけてほしかったから…だけじゃないような気がして」
「…というと?」
達哉は首を傾けて美奈に聞き返す。
「多分…ミリィの魂はずっとあのボールで待っていたんだと思う。…そして、ミリィの代わりに達哉を支えられる人を、選んだんだと… そんな気がして。…自分に都合のいい解釈だけどさ」
美奈は再び笑いながらそう答えた。達哉はそんな彼女を見て、再び手を彼女の首元へ回すと、今度は達哉のほうから唇を重ね合わせた。 優しく、柔らかく、暖かい時間が二人の間に流れる。 幼馴染という壁に阻まれて見えなかったお互いの本当の気持ちを教えてくれたのはミリィだった。そのミリィがもたらしてくれたこの奇跡を、 二人は強く身体で確かめ合っていた。
それからさらに数日が経ったある日の事。長かった夏休みもいよいよ終わり、今日から新しい日々が始まる。
「達哉、支度出来た?」
「あぁ、すぐ行くよ」
玄関先で待つ美奈の下へ達哉は駆け出していった。今日から新学期。二人はそれぞれの大学へ通う日々へと戻る。
夏休み前と違う事といえば、美奈がこの部屋で暮らすことになった事だろう。切り出したのは美奈のほうだった。 少しでも一緒にいたいから、という単純な理由で始めた共同生活。猫として達哉に飼われるのとは勝手は違ったけれど、 すぐにその生活になれることが出来た。両親に相談した時は反対されるかとも思ったけど、美奈の両親にとっても、 娘を一人暮らしさせるよりかはよく見知った達哉と同居していた方が安心だと快諾してくれた。
すぐに必要最低限の荷物を運び出し、夏休み中に何とか引越を済ませ、本格的に共同生活が始まったのは昨日からだった。 まだまだ不慣れな点はあるものの、二人ならやっていけると、互いに信じていた。
「よしじゃあ、行くか」
「うん」
そして二人は靴をはき、部屋を出ようとした、その瞬間。
「行ってらっしゃい」
ふと達哉の後ろの方から声が聞こえてきた。達哉は美奈のほうを見て問いかける。
「今の声、美奈…?」
「ううん、わたしじゃないよ。今のはきっと…」
「そうか、じゃあやっぱり…」
そう言って二人は部屋の奥を見た。一瞬だけ、部屋の中がぽぅっと明るくなった気がした。 達哉はそれを見て微笑むと再びドアに手をかけて外へと出た。そして二人で部屋の中を振り返り、誰もいない空間に向かって声をかける。
「行ってきます」
そして二人はドアを閉めそれぞれの大学へと向かって登校する。
季節は夏から秋へと変わろうとしている。気温が徐々に低くなっていく日々の中で、達哉と美奈、そしてミリィがいるこの部屋は、 不思議な暖かさに包まれていた。今までも、そしてこれからもきっと。
ミリィの光 第5話(最終話)「猫がくわえてきた奇跡」 完
ミリィの光 完結
更に当時はまだ仕事をしていたので実際に執筆できたのは5日間程度でした。話を練りこむことも出来ず、ただひたすら枚数と作品テーマの消化だけにストーリーを紡ぐ形になってしまいました。
そうして何とか完成させたものの、文字数は規定に足りておらず、内容も説得力に欠けるなど、短い期間で小説を書くことの難しさを改めて感じた形になりました。
ただ、それを通して小説を書くことの楽しさを再び学べたのも事実です。これからも誰かが読むであろう小説を面白いと思ってもらえるように一層努力して生きたいと思っております。
WWP 宮尾
★宮尾レス
コメント有難う御座います。
感動していただけたようでとても嬉しいです。
この作品は余り時間をかけることが出来なかったので、本当はもっと色々書きたいこともあったのですが書けなかった部分も結構あります。だけど、この作品の中にある何かが読んでくれた人に伝わればいいなと思っています。