月の魔法で恋して 後編
【人→獣】
きっと神様は知っている。私の罪を。私の願いを。
半年前、私は一匹の犬を拾った。犬種はシベリアンハスキー。性別はオス。年齢は21歳(自称)。特技は、喋ることと魔法。 自分はかつて人間だったと語り、 自らをガイアと名乗るそのシベリアンハスキーは私の住んでるマンション近くの空き地で行き倒れているところを私に見つけられて、助けられる。 それが私達の運命の出会い。
そしてそれから半年たった今、私達は・・・。
「ガイア、あーん」
「あーん。・・・あぁ、やっぱミオが選んできたドッグフードは美味しいよ」
「でしょ?でも、ガイアの事を思っていたら、導かれるように選んじゃったの」
「そうかぁ。それがもっと美味しく感じるのは、ミオが食べさしてくれるからだよ」
「ガイア・・・」
「ミオ・・・」
・・・バカップルになっていたりする。・・・自分で口にすると恥ずかしいけど、でも否定する要素なんて何処にも無い。半年の間、 紆余曲折は有った。犬と人間のカップル、恋愛するには障害はたくさん有った。だけど、どれも私達の絆を強める結果になり、 今私達はこうして恋愛真っ只中にいる。
勿論、私達2人しか知らない秘密の関係。他から見ればその関係は飼い主と飼い犬にしか見えないだろう。こういう時、 ガイアが喋れるというのはメリットでありデメリットでも有った。喋れることで日常生活が便利な反面、 彼が喋ったのを誰か他の人に聞かれないか神経を使うため、案外楽じゃない。まぁ、 それも二人の愛をはぐくむための試練だと思えば何てことないんだけど。
「でもさぁ、僕ばっかり美味しいもの食べてていいの?ミオだってたまには栄養のあるモノ食べないと・・・」
「いいのいいの。元々私、食細いし」
「折角のお肌、カサカサになっちゃうよ?」
「分かってるよそんなこと。・・・もしかして、ガイアも見た目で人を判断するタイプ?カサカサな私じゃ愛せない?」
「な、何言ってるんだよ!そんなわけ無いだろ!?」
「・・・冗談。だけど・・・そう言ってくれると嬉しいな」
私はしゃがみこみ、ガイアの背中の毛を撫でながら微笑みかけた。彼の体温はとても優しくて、 一度触れるとそのままずっと離したくなくなってしまう。だって、私は彼に触れられるただ一人の存在。だけど・・・いや、 だからこそ独り占めしていることを実感したくて彼をそのままぎゅっと抱きしめる。
「ちょ・・・ミオ、くすぐったいって!」
「・・・こうやって、ガイアをもふもふしているとね・・・嫌な事なんて全部忘れられそうで」
「ミオ?・・・何かあったの?」
「別に・・・」
・・・何も無いといえば嘘になる。嫌なことがあったから、それを「忘れられそう」という言葉に繋がるのだから。だけど、 つい彼に心配かけたくなくて押し黙ってしまう。
「・・・言いたくないならいいけどさ。・・・余り溜め込まないでね?その方がこっちは余計に心配しちゃうよ」
「うん・・・分かってる。・・・だけど・・・ちょっとだけこうさせて・・・」
そう言って私は彼の柔らかな毛に顔をうずめる。その肌触りが、まるで私の心を包んでくれるかのような気分になれる。癒される・・・ その一言に尽きるだろう。ガイアがいてくれるから、私はここに戻ってくる勇気を持つことが出来る。ガイアがいてくれるから、 私はまたここから外へ出て行ける。ちょっと前まで、ガイアが居ない生活を当たり前のように続けてきていたのに、 今はガイアの居る生活が当たり前だ。半年という時間が築いたものは、私達2人が思うよりずっと大きいのかもしれない。
「・・・ねぇ、もっと気分すっきりさせてあげようか?」
「え・・・?」
「ほら・・・カーテン開いて」
「・・・あぁ、そうだね。今日は・・・」
そう言って私は立ち上がると、窓にかかっていたカーテンを開ける。視界に飛び込むのは、都会の喧騒と澄んだ星空。 頂点に浮かぶのは金に輝く満月。静かな夜に君臨するかのごとくなお静かに、しかし確かな存在感を輝き放っていた。
「・・・満月だったんだね。忙しくて気付かなかった・・・」
「2ヶ月ぶりだね。先月は雨で満月が見れなかったから」
「あれはショックだったなぁ」
私は苦笑いしながらガイアの方を振り返った。・・・その瞬間、そこにいた彼の姿に目を奪われる。月の光に照らされているのと、 彼自身の高まった魔力が早くも身体から淡い光を放ち始め、彼の毛は黒は鋼、白は銀のように鈍く、しかし美しく輝いていた。
「・・・さぁ、魔法の時間だ」
私を見つめるガイアの青い瞳が、より一層怪しく、魅惑的に輝く。既に彼は、私に魔法をかける準備が完了している。だけど、 私は一呼吸をして彼に声をかけた。
「ちょっと待って・・・今脱ぐから」
そう言って私は身につけている衣服を1枚ずつ脱いでいく。初めて魔法をかけられたときは、着ていたその服が邪魔になってしまった。 だからそれ以来、彼に魔法をかけてもらうときは服を脱いでからにしている。初めは抵抗あったけど、 魔法がかかっている間は当然服を着ていないのだから、かかる前に脱いでも大した違いは無かった。それに・・・彼にだったら、 私の全てを見られても構わないと思っていたから。それでもちょっと恥ずかしいのには違いないから、 私は一糸纏わぬ自分の身体をバスタオルで包んだ。これなら魔法がかかった後すぐ外せるから楽だ。
「準備・・・いいよ」
私は、既に自分の身体が熱くなっているのが分かる。すぐにでも彼に抱きつきたい衝動を抑えながら、私は彼に近づいていく。ガイアは、 穏やかな表情で私を見つめている。けれど空気で分かる。彼の心と身体が、高鳴っていることが。
私は再び彼の身体にそっと手を添え、もう片方の手で彼の下あごを優しく持ち上げる。瞳が合う私達。その目をゆっくりと閉じ、 私達は静かに互いの顔を近づけていく。そしてそっと重なる二人の唇。空気がすぅっと冷たく感じるのは、 私達2人の身体に熱がこもっているからだろう。そしていつの間にか、ガイアを包んでいた魔法の光は私の周りにも現れる。
「ん・・・!」
私は小さく声を上げながら、彼の顔から唇を離す。魔法が、私の身体に流れ込んでくるのが分かる。ゆっくりと、 だけど確実に私の中の人間を蝕んで、人間ではないものに作り変えられていく、慣れてくるとその感覚が心地いい。静かに目を開くと、 既に私の身体は私でなくなりつつあった。手が、足が、体が、顔が、徐々に変化していく。小麦色の柔らかな毛が身体中に生え、 肌を覆い隠していく。
やがて私の身体から光が完全に消える頃には、部屋には人間の姿はなくなっている。居るのは2匹の犬。 オスのシベリアンハスキーが見守る中、メスのゴールデンレトリーバーは自分の身体を慣らすかのように数度身震いをする。 それと同時にバスタオルが身体からずり落ち、月に照らされて黄金色に光るその身体を彼の前にさらけ出す。そして、喉から思いっきり声を出す。
「わん!」
「・・・しっかり魔法かけたから、言葉喋れるでしょ?」
「・・・だって喋れないふりしたら、もう一度魔法かけるためにキスしてくれるでしょ?」
「そんな事しなくたって、してあげるよ」
ガイアはそう言って私の横に身体を寄せると、そっと私のマズルの横に口づけをしてきた。 一瞬驚いてちょっと彼から身体を離しちゃったけど、すぐに私は微笑み返し、身体を寄せ返した。 そして笑みを浮かべながら私達は満月を見上げる。綺麗な黒の中に光る黄金色。まるでガイアの背の毛と、私の毛によく似た色合いで、 不思議と嬉しくなる。月はやっぱり、夜が似合う。
ガイアの魔法、それは満月の夜にキスした相手を少しの間犬の姿に変える魔法。満月の夜に魔法で犬に変えられたガイアが、 その魔法の影響を受けて手にした小さな魔法。キスで人間に戻れるおとぎ話なんかと丁度あべこべで、実用性は無いけれど、 今の私たちにとっては2人を繋ぐ大切な魔法だった。少しの間、ほんの3時間でも人間と犬という関係を超えて、 犬同士として接することが出来る貴重な時間。
もっとも犬の姿になって何か特別なことをするわけじゃあない。本当は外を走り回ったりすると気持ちいいんだろうけど、 時間がたつと戻ってしまうことや、周りの目という抵抗を考えるとちょっと踏み出す勇気は無かった。でも、 この姿なら彼と同じ目線でものを見たり、彼と話したりできる。それで十分なのだ。私たちの距離がそれだけでぐっと縮まるから。だけど・・・ それでも・・・。
「・・・ねぇガイア・・・」
「ん・・・何?改まって・・・」
「ガイアってさ・・・人間だったのに魔法で犬に変えられたんだよね?」
「うん・・・もう何度も説明しただろ?何で今更・・・」
「・・・その魔法なら・・・私も完全な犬になれるのかな?」
「ッ・・・!何を言って・・・!?」
「ガイアと私・・・どれだけ心が近づいても、そこには壁が・・・私には見えるの。透き通るように薄く、だけどとても大きく硬い壁が」
「ミオ・・・僕は・・・」
「私が犬になれば・・・ガイアと同じ立場になれば、きっとその壁は消えるだろうと思って」
私は、俯きながら淡々と喋る。ガイアは複雑な表情で私の横顔を見ていたが、すっと目線を反らし私と同じように俯く。小さく呟きながら。
「・・・ミオは分かってない」
「ガイア・・・」
「人間なのに・・・犬として生きる事がどういうことか・・・」
「・・・そうだね私には分からない・・・」
・・・確かに私はガイアの本当の辛さを知らない。私の前で明るく振舞ってくれはするけれど、 その心の奥にしまいこんだ犬として活きなければならない人間の苦労は、犬の姿に変身するだけで人間に戻ることが出来る私には、 想像なんてできない。理解しようとしても、そこにも壁がある。だけど、だからこそ。
「だから・・・私が犬になれば、犬として生きる事がどういうことか、分かってあげられるでしょ?」
「ミオ・・・」
「・・・私は、ガイアに孤独を感じてほしくない。ガイアが孤独な時は・・・私も孤独だから。だから、 私達の間に少しでも距離があると怖くなるの。だって・・・ガイアは・・・」
そこまで言って私は言葉を止める。そこから先に、言葉がないわけじゃない。だけどもうそれ以上は今の私には怖くて・・・ 聞くことが出来ない。私が押し黙ったのを見て、ガイアはふっと小さく笑いながら、不意に私の身体に身をもたれる。
「ガイア・・・?」
「ミオの優しさは十分理解してるよ。・・・ミオの孤独も」
「・・・」
「だけど・・・ううん、ミオなら分かるだろ?・・・僕も君と考える方向は同じ。君が僕のために犬になっても構わないと思うのと同じで、 僕は君のためを思うなら、犬になんてなるべきじゃないと思う」
「ガイア・・・」
「だけど・・・君に犬でいて欲しいという、どうしようもない矛盾も僕は胸に抱えている。だから少しでも・・・叶わぬ夢を見るために、 この魔法はあるんだと思う」
「・・・そうだね・・・きっと・・・ガイアの魔法はわたしたちのために有るんだと思う」
私はそう呟きながら、ガイアのほうに身体を押し返す。互いに身を預けるように寄り添う2匹。また月を見上げる。 今日の月は一段と艶やかな光を放ち、美しく、妖しく、切ない。この満月は明日には欠け始め、いずれは消えてしまい、 またその次の月へと生まれ変わる。まるで、命のように。
私はいつの間にか自然と月から目線を反らしていた。そしてゆっくりとその身をガイアから離すと、 ゆっくり奥の部屋のベッドの上に飛び乗った。柔らかな布団が、私の4本の足に分散された体重で静かに少しだけ沈む。
「・・・ミオ、どうしたの?」
「もう、寝ようかと思って」
「元に戻ってないのに?」
「たまには・・・この姿のまま寝るのも悪くないんじゃないかと思って」
私がそう答える間にガイアもこっちの部屋に歩いてきた。ベッドの下から私のほうを見上げる。
「じゃあどうしよっか?僕、下で寝たほうがいい?」
「いいよ、いつもどおり布団で一緒に寝よ」
「いいの?」
「・・・あ、ひょっとしていやらしいこと考えてる?」
「なッ・・・そんなこと・・・ないよ・・・」
ガイアは弱弱しくそう答えながらベッドの上にひょいと飛び乗る。ベッドが犬一匹分更に沈む。
「・・・唐突だけどさ、ガイアって人間だったときの記憶って有るの?」
「そうだね・・・ある程度は・・・半分ぐらい残ってるかな?自分の名前とか、変えられる直前の記憶とかは奪われたけど、 それよりもっと小さい頃から・・・大体2、3年前までの記憶なら、何とか」
「初めてさ、友達の家とか、修学旅行とか、自分の家以外に泊まったときって凄いドキドキしたの覚えてない?」
「あー・・・そんなことも有ったような・・・」
ガイアは遠くを見つめながら記憶を辿っているようだった。
「・・・何でドキドキするか分かる?」
「え・・・さぁ?」
「普段と違うことが起きそうだなっていう期待感だよ。いつもと同じ、なのにいつもと違う。ちょっと環境が変わっただけで、 人の心って凄い高鳴るの」
「なるほどね・・・そういうもんか・・・」
「・・・今、私すごいドキドキしてる」
「・・・ぇ?」
その瞬間私は、小さく驚くような声を上げた彼のその唇を自分の唇でふさいだ。互いの鼻先がぶつからないように気をつけて。愛してる。 大好き。そんな言葉は必要ない。私のドキドキが唇を通じてガイアに伝わっていく。それでもう私たちの思いは完全にシンクロしてる。 そして2匹の犬は唇を重ねたまま、静かに、ゆっくりと、熱を帯びた鼓動と共にベッドに沈んだ。
ねぇ、神様。もし叶わぬ恋を願うことが罪なら、そして全ての罪に罰が与えられるなら、私に罰を与えて。彼に罰を与えたように、 その罰で私を犬に変えて。人として叶わぬ恋を願う私に、罪を犯した私の中の人間を壊して。彼のためなら、 どんな苦しみも乗り越えていける勇気と、自信と、覚悟が有る。だから神様、罰を与えて。私は、幸せになりたい。
だけど、きっと神様は知っている。私の罪も。私の願いも。その罰を受けることが、私の願いだということも、きっと神様は知っている。 だから神様は、私を犬に変えたりしない。私の罪に与えられる罰は別にある。それは・・・きっと・・・。
「ガイアッ!?」
彼の名前を叫びながら横になっていた上半身を急にがばっと起こす。眠りに落ちている間に、私の身体は人間に戻っている。 一糸纏わぬ姿で、ベッドの上に座る姿勢。だけど、その全身は熱ではない何か別の要因で、じっとりとした嫌な汗が覆っていた。涙が頬を通り、 呼吸は少し荒れている。まだ外は、深い夜。眠りに落ちてから、そう長くは経っていない。私は慌ててベッドの上を見渡す。 ハスキーはいつもと変わらぬ姿で、しかし突然大声を上げた私に驚きの表情を浮かべ私のほうを見ていた。
「ミオ・・・どうしたの・・・!?」
「ガイア・・・ガイア、私・・・!」
彼の名を呼びながら、私は彼にぎゅっと抱きつく。彼の柔らかな毛並みが、私の涙や汗でぬれる。
「・・・どうしたの・・・何かあったの・・・!?」
「・・・夢を・・・見たの・・・」
「夢・・・?」
私は彼の身体に顔を押し当てながら、答える。
「・・・ガイアが・・・いなくなる夢・・・私が独りになる夢・・・」
「僕が・・・?ミオ、僕は・・・」
「私独りしかいないの、何処を見ても、ガイアがいなくて、必死で探しても、見つからなくて、私、ガイアが、私・・・!」
「落ち着いてミオ、落ち着いて・・・」
私はまだ彼の毛で覆われた身体に顔をうずめたまま、彼の言葉に応えるように頷いた。 彼は小さい子をあやす様に優しい口調で自分にもたれかかってくる私に言葉をかける。
「ミオ・・・僕は何処へも行ったりしない。だから安心して僕はずっと君の傍に・・・」
「・・・ずっとなんて・・・永遠なんて無理じゃない・・・」
「ミオ・・・?」
「だって・・・だってガイアは・・・その身体は・・・犬・・・犬なんでしょ・・・」
「・・・」
「・・・それって・・・例えば・・・私にとっての10年と、ガイアにとっての10年が違うってことでしょ・・・ 人間としてのガイアは21歳かもしれないけど、身体が犬になっているなら、犬としては・・・!」
「ミオ!」
「ッ・・・!だって・・・」
私は彼の体から顔を放し、彼の顔をじっと見る。ハスキーはその青い瞳で私を見返し、その瞳には優しくも、どこか厳しい光が宿っている。 私の瞳は、涙が、止まらない。
「・・・ミオ、僕はずっと傍にいる。・・・だけど、君の言うことも否定はしない。僕は犬だ。 きっと君とはこれから流れる時間が変わってくる」
「・・・だったら・・・私は・・・」
「僕は君の思い出になる」
「ッ・・・!ガイア・・・!?」
「・・・僕たちの想いは形になることは無い。でも、僕はそれでいいと思う。・・・僕は君と一緒にいられることが何よりも幸せだから」
・・・消えていく、壁が。私の心の中にぽぅっと明るい光が差し込んで、壁を、不安を、悲しみを溶かしていく。
「でも・・・」
「・・・僕は罪を犯している」
「・・・え?」
「本当に君のことを思うなら、僕は君を好きになるべきじゃない。普通の人と出会い、恋をし、結婚し・・・そういう幸せを、 人は迎えるべきだ」
「でも・・・私は・・・」
私はそっと手を自分の胸に当てる。・・・鼓動は、不思議と落ち着いている。きっと、私にとってそれが自然なことだから。
「私も・・・ガイアと一緒にいることが・・・幸せだよ・・・」
「・・・ありがとう、ミオ。・・・そうだね、僕達は今、幸せを得ている。そして同時に罪を犯している。 本来得ちゃいけない幸せを手にするという罪を」
「・・・罪・・・幸せ・・・」
その言葉を、頭の中で何度も繰り返す。私の、私たちの罪。
「そしてきっと、僕達には罰が待っている」
「・・・」
「僕は君を想いながら、君を残すことを悔いながら死んでいく。君は僕を想いながら、僕に先立たれることを悔いながら生きていく」
「やっぱり・・・ガイアは・・・」
「・・・いずれ罰が与えられるって解っているなら、僕はその罰が与えられるまでにそれを乗り越えるほどに幸せでいることを願う」
「ガイア・・・!」
ガイアは知っている。自分の体のことも、私が漠然と抱いていた不安も。
孤独に怯えていたのは、私のほうだ。
覚悟ができていなかったのは私のほうだ。
こんなにも、私たちの想いは重なっているのに。
「・・・ガイア!」
「ッ・・・!?」
私の手は、力のコントロールを半ば失いかけながら、彼をグッと押し、そのままベッドに彼の身体を押さえつけ、私の身体を、 熱を重ね合わせた。涙は、止めない。
「・・・愛し通す・・・」
「・・・ミオ・・・」
「私は・・・ガイアを愛し通す・・・ガイアに何かあった時に・・・もっと愛したかったのに・・・なんて・・・そんな後悔したくないし・ ・・ガイアにもさせない・・・!」
涙は止めない。高まる感情を、呆れるほど素直な好きという想いを、止めちゃいけない。
「・・・じゃあ僕も、同じ気持ちで君を愛し続ける・・・僕たちは、ずっと一緒だ」
「うん・・・ずっと・・・一緒だよ・・・」
ベッドが静かに軋む。再び重ねた唇は、いつも以上に熱く、優しく、切なかった。決意。叶わぬ恋でも、 その先に悲しみが有るとわかっていても、愛することを決して辞めないという決意。私達は互いのその想いを互いの熱で感じあっていた。 ベッドの上が光に包まれ、そこでまた2匹の犬が口づけをかわしている。まだ、夜は長い。月が日の光で見えなくなるまで、そこに月はある。
変わらぬ朝が、今日も来た。一日の幕開けは静かで、あっけなくて、だけど自然と毎日気持ちいい。特に、 今日の太陽は何時にも増してまぶしくて、暖かい。
「ぅし!じゃあ今日も大学にバイト、必死こいてくるよ!」
「うぃー、頑張りすぎて無理しないようにねー」
既に玄関で靴をはいている私を、ハスキーは眠そうな顔を足取りで見送る。まるで私の背中を押してくれるように。
「じゃ、いってくるね!」
「いってらっしゃーい」
ドアを、開ける。足を、一歩踏み出す。空気を、いっぱい吸い込む。いつもと変わらぬ朝、だけど新しい朝。 私の心はこの空よりもずっと晴れている。
消えた月は、必ずまた帰ってくる。自分のことを待っていてくれる人がいるから、月と地球は常に一緒にいる。私達も、 例え離れる時がきても、怖くない。見えなくても、お互いに想う心があれば、そこにきっと2人はいるから。
ねぇ、神様。私に罰を与えて。叶わぬ恋を願う私に、いつか罰を与えて。そして、その時まで私たちを見ていて。私達は、どんな罪も、 どんな罰も怖くは無い。覚悟がそこに有るから。だから神様、私たちを見ていて。
私達は幸せです。
月の魔法で恋して 後編 完
月の魔法で恋して 完結
というわけで後編です。犬TFで不可逆というのは、実は「Good luck〜」の原点になったアイデアだったんですが、話が暗くなりすぎてあのようなハッピーエンドになりました。だけど、宮尾はどちらかというと不可逆のほうが好きなので、今回はこういう感じの作品に。
スターシステムを使ったのは、話を書いているうちに2人の関係がぴったり嵌ったので、自分で自分をリスペクト(イッテヨシ
こういう、辛い恋愛を辛いと感じずに愛し合えるかぷるが好きです。宮尾が書くと大体こんな感じです。互いに想い合える存在、恋人じゃなくても大事ですよね?
この短い小説が、誰かの心に、少しでも何かを感じさせることが出来れば幸いです。
WWP 宮尾
姿の違い、そして寿命の差…。
そういうどうにもできない問題があっても、それさえも受け入れお互いに想い合える関係。理想の関係だと思います(うまく言えません…)。
二人にはできる限り長く一緒にいて欲しいです……。
★宮尾レス
コメント有難う御座います。
本当に大切な人は、例えどんな状況にあっても大切。当たり前のことが当たり前にならない時代で、それはとても大切なことなんだと思っています。まぁ、こういう痛々しい恋愛を書くのが好きなだけなんですがw
気に入っていただけたようで光栄です。2人にはこれからも幸せでいてほしいと僕も願います。。。
★宮尾レス
コメント有難う御座います。お返事遅くなって申し訳ありません。
ガイアは、多分過去に何かやってしまい、犬に変えられたんだと思いますw 特に今のところ決めてはいないんですが、機会があれば書くこともあるかもしれませんねw