2006年10月22日

ラベンダーフォックス 第7話

ラベンダーフォックス 第7話「猪突猛進!そして動き始める影!」

【人間→獣人】

ビルの正面前では野次馬やビルの中から逃げてきた人で溢れている。人々のざわめきが騒がしい。これだけの騒音の中なら、 私がビルの窓ガラスを1枚割った音もかき消され、気付かれる心配は無かった。その窓からビルの中へ入る。その途端、私の五感を強烈な熱と、 禍々しい力が刺激する。私は思わず舌を出し、威圧感を感じる天井を見上げた。確か5階・・・そう思い部屋を出ると階段を探す。 じっとしている時間は無い。警察が駆けつける前に事態を把握しなければならない。ウォルブレインの仕業なのか、それとも・・・?

 

階段はビルの奥にあった。幸い、崩れたりなど建物そのものに損傷はほとんど無く、私は急いで階段を駆け上がった。 体が軽くなったせいか、狭いビルの急な階段でも息一つ切れることなく、5階まで十数秒という凄いスピードで登ることが出来た。

 

5階のフロアにたどり着いた私は、より念入りに辺りの気を確かめる。鋭くなっている嗅覚で敵の様子を探る。・・・獣の匂いがする。 やはり、普通の人間の仕業じゃない。私はフロアを見渡し全体の様子を探った。敵がいるのは・・・奥の部屋。何かが争ったのだろうか、 ドアのガラスは割れている。そのガラスに書かれている文字を私は小声で読み上げる。

 

「・・・原・・・融有・・・社・・・?」

 

文字も途切れ途切れで分からないが、融という文字からして恐らく金融会社だろう。それも、 こんな小さなビルで小さな事務所を構える金融会社なんて、どんなところか想像は難しくない。

 

「抗争か・・・何かなの・・・?」

 

私はゆっくりと気配を探りつつ、小声で呟きながらドアとの間合いを詰めていく。近づくたびに強くなる威圧感。私は一つ唾を飲み込んだ。 そしてドアの前までたどり着いた瞬間!

 

「グゥウォォォォオゥ!!」

「ッ!?」

 

耳を裂くような鳴き声がビルの中に響き渡る。それと同時に私の目の前に大きな影が立ちはだかり、私目掛けて手を振り下ろしてきた。 私はとっさに転がるようにして横によけ距離をとる。そして再び相手を見上げた。身長は・・・2メートルまで無いものの、それ位高い。 そして見上げた先にある頭・・・それは人のものではなかった。前に突き出た逆三角形の大きな鼻。その下から長く伸びる鋭い牙。上に伸びた耳。 それはイノシシそのものだった。体も全身茶色の毛で覆われているが、体躯は人に近く、足は蹄になっているものの、 手は人のものそのままだった。私と同じようなイノシシ獣人のようだ。だが、来ている服はスーツのようで、 巨大な体に引きちぎられ布きれが巻きついているように見える。私はその姿を見て思わず問いかける。

 

「あなたは・・・ウォルブレインの仲間なの!?」

「グゥゥゥ・・・」

「・・・教えて・・・あなたの目的は何!?」

「・・・グ・・・ムラ・・・サキ・・・!」

「ッ・・・!」

「ガ・・・グッ・・・ブウォォォゥ!!」

 

イノシシはそう叫ぶと私目掛けて走り出した。・・・話が通じていない・・・!?私は走ってくる彼を再び回転しながら身をかわす。・・・ でも、紫の力は知っている様子だった・・・じゃあ一体、このイノシシ獣人は何者・・・!?考えながら逃げ回る私。 しかしイノシシはその巨体からは想像できないほど素早く小回りを利かせ、正確に私目掛けて突進してくる。・・・逃げてばかりじゃ駄目だ・・・ 戦わないと・・・!

 

「このぉッ!」

 

私はイノシシが突進してくるタイミングを見計らって、横にかわし彼の体を横から殴りかかる。衝撃音と共にイノシシはよろめく・・・が、 倒れない。私はイノシシを殴って得た反動で再び距離をとり、相手を睨みつける。・・・普通のパンチじゃあせいぜい時間を稼ぐ程度、 ダメージも与えられない。イノシシは既に私を捉えてこちらに走りこむ姿勢を整えなおしている。しかし、その僅かな時間でも、 華核の力で力のコントロール力が上がっている私には、両手に紫の力を溜める集中させるには十分だった。

 

「ブォォォウグッ!」

 

イノシシ獣人は私目掛けて更に加速する。決着を付けたいのか、今までよりもずっと早い。だけど、私に見切れないスピードじゃない。 だから、ギリギリまで引き付けることが出来る。接触する直前に攻撃をかわし、狙うはカウンター。相手の歩幅を見て、タイミングを計る。一歩・ ・・一歩・・・もう一歩・・・そしてイノシシ獣人はまた腕を上げ、私目掛けて振り下ろす!

 

「よけて・・・ばかりじゃない!」

 

私は再びギリギリでその腕をかわすと、その勢いを借り、イノシシ獣人の腕に私の両手を乗せ力を入れる。丁度、跳び箱の要領だ。 腕に力を入れ、床を思いっきり蹴り上げイノシシの腕の上で逆立ちの格好になると、今度は肘を曲げて腕で飛び上がる。宙に浮く私の身体。 空中で身体をひねらせ、両手を組み、頭上へ思いっきり振りかぶる。合わせた両手に俄かに灯る紫の炎。前の植物の怪物の比じゃない大きな炎。 それをずっと早く、私自身への負担も少なく作り出せる。華核の力が可能にしてくれている。

 

「でェィッ!」

 

そのまま私は戸惑いを見せるイノシシの顔目掛けて、重力に引かれて落ちるエネルギーを上乗せして思いっきり両手を振り下ろす!

 

「ブグォオァァッ!?」

 

そのままイノシシの顔面を地面に叩きつけると、その巨体が大きく、そして力なく幾度かバウンドし、やがて静かにそこに倒れこんだ。 私は地面に降り立つとその姿を見下ろす。・・・私の呼吸は乱れていない。ウォルブレインの言っていた、生命力の消費も抑えられている。 今までよりもずっと効率的な戦い方が出来ることが、これで証明されたことになる。私は自分の手を見つめつつ、そっとその手を握った。・・・ その時だった。

 

「おい、また大きな音だ!」

 

下のほうからその声が聞こえたと共に、多くの足音が階段下から響いてくる。・・・警察が到着したのか・・・?だとしたら、 この姿を見られると騒ぎになる可能性もある。私は慌ててそこに倒れているはずのイノシシ獣人のほうを見直した。・・・しかし。

 

「・・・ぇ・・・!?」

 

本来そこに倒れているはずの、イノシシ獣人の姿が見当たらない。慌てて周りを見渡すが、何処にもいない・・・!?いつの間に・・・ 逃げた気配だって無かったのに・・・!?まさに忽然と消えた、そう呼ぶに相応しい状態だ。それも、 鋭敏になっているはずのラベンダーフォックスの感覚に気付かれること無く。私は思わず行方を捜そうとするが、下の階から上ってくる人々も、 もうすぐそこまで駆けつけてきている。・・・残念だけど、今はこの場から立ち去るしかない。

 

私は気配を消しながら全速力で室内を走りぬけ、裏側の窓から思いっきり飛び出した。 辺りの人の目に触れないように細心の注意を払いながら裏道を駆けていく。初めてラベンダーフォックスとして一人で戦った。 結果は華核のお陰で楽に勝てはしたけれど、私の中を渦巻く疑念はその力を強めていた。誰が、何のために戦っているのか。 関われば関わるほど見えなくなっていく。

 

爆煙や、塵が舞っていたビルから出てせいか、外の空気を新鮮に感じることが出来た。沈みかかった太陽は、なお目に眩しかった。

 

 

 

「・・・あれ・・・?」

 

野次馬や警官、救急隊員でごった返すビルの前。友人と共にたまたま通りかかった少年は、その様子を携帯電話のカメラで撮影していた。 特に意味は無かったが、こういう場面というのは思わず写真に取りたくなる性分だった。だが、 その時写真に妙なものが写りこんだように見えたため思わず声を上げた。

 

「どうした?」

「あぁ、何か今撮ったときに、変なもん写った気ぃして」

 

友人に問いかけられた少年は、そう言って携帯を操作し、さっき取った写真を確認する。煙が立ち昇る目の前のビル。 それとその隣にあるビルの隙間の細い通り。そこの・・・目算で地上から3メートルぐらいのところだろうか、 本来そこには無いはずの妙な影が映っている。

 

「何だ・・・キツネみたいに・・・見えるけど・・・?」

「キツネ?・・・キツネがビルから飛び降りたってか?」

「でも、これそう見えないか?」

 

そう言って友人にもその写真を見せる。

 

「・・・でも、キツネにしちゃ不自然な身体つきじゃね?」

「・・・人間のようにも・・・見えるな」

「人間が飛び降りたんだったら、余計にみんな気付くっしょ?」

「だけど竹丘・・・!」

「ほらほら、深く考えるのやめろって。どうせ煙か何かの影が偶然そう見えただけっしょ?・・・ 内地の人間ってのはそんな事一々気にするのか?」

 

少年に竹丘と呼ばれた友人は、写真から目を離し、さっさと歩き始める。少年も携帯をしまうと、後を追う様に駆けて行く。

 

「別に俺が東京出身だからって訳じゃなくて・・・ただ、何となく・・・何て言うんだろ、本能的に・・・何かを感じたんだ」

「・・・まぁ、よくわかんねぇけど、お前らしいよ。青藤」

「2日間で俺らしさを判断するなって」

 

少年はそう反論しながらも笑みをこぼした。2人の少年はビルを背に駅前の通りを歩いていく。 計らずに姉弟が背中合わせに逆方向へと進んでいることにも、自分たちが何に巻き込まれつつあるのかも気付かずに。 太陽を背にした少年の影は長く伸びていた。

 

 

 

人目を避けるように兎に角気配を消しながら、人の多い夕方の町を駆けて行く。未だ私の姿はラベンダーフォックスのままだった。 一旦狐の姿になることも考えたけど、一度は試しにラベンダーフォックスから直接もとの姿に戻る方法を確かめたくて、 適当な場所をずっと探していた。

 

そしてようやく、人の気配の無い工事中のビルを見つけると、その奥のほうへと入り込む。そして念入りにラベンダーフォックスの感覚で、 周りに人がいないことを確認して、華核を取り出す。・・・戻り方、最後の方雪の説明が尻すぼみになってよく分からなかったけど、 たぶん狐身憑変と逆の要領だと推測できる。私は中央の水晶に触れながら、紫の力を抜くようにイメージしながら、小声で叫んだ。

 

「・・・霊狐憑解・・・!」

 

その瞬間、指先から紫の光が溢れると、瞬く間に私の身体を包んでいく。着ていた巫女服は光の粒子になって分解され、 代わりに別のものが私の身体を包む。学校の制服だ。そして光に包まれたその中で私の身体も徐々に変化していく。爪が、尻尾が、耳が、鼻先が、 それぞれ短くなり人のそれを形作っていく。光が落ち着いた後、そこにいたのは制服を着たいつも通りの青藤光音。私は手足の間隔を確かめる。 不自然な点は無いか・・・よし、問題無さそう。身体の疲れも、やっぱり出てこないし。戦闘は楽になるし変身も楽になるし、 疲れもたまらないし、華核さまさまって感じだ。

 

「さて・・・と」

 

私は急いで工事現場から出ようとビルの中を出ようと走り出す。静かなビルの中、私の足音が響き渡る。・・・その時だった。

 

「ちょっと、君」

「え・・・?」

 

不意に私の後ろから、声がした。誰もいないはずの工事中のビルに響く二つの声。一つは私の、もう一つは若い少年の声。 声のした方を振り返ると、一人の少年が半分だけ組んである上の階への階段の、踊り場のところで丁度寝そべっていた体を起こしていた。 少年は面倒臭そうに首を左右に曲げながら、ゆっくりと伸びをする。・・・ひょっとして、変身するところ・・・見られちゃった・・・!?

 

「・・・折角人が気持ちよく寝てたのに・・・足音がうるさくて目が覚めちゃったじゃないか」

「・・・あ・・・えー、えと・・・ごめんなさい、その、知らなくて・・・」

 

・・・寝てた、そして足音で起きた・・・ってことは、変身するところは見られてない・・・って考えていいのかな・・・? 詰まる言葉でそう謝りながら、頭の中では見られていなかったことへの安心感が強かった。しかし少年は畳み掛けるように当然の質問をしてくる。

 

「で、こんな所で何してたの?」

「え・・・そ、そういうあなたこそ・・・」

「だから、僕は寝ていたって言ってるだろ」

 

少年はそういうと、階段の手すりを掴み、飛び越えるように踊り場から飛び降りた。直後に少年が着地した音が、ビルの中に響き渡る。 そして私のほうへ近寄ると、無表情ながらも何処か鋭い目で私の全身をじっと観察し始めた。そしてその目を見ていたとき・・・ 不意に奇妙な違和感を覚える。それが何なのか、自分でもよく分からないけど。彼がこうして自分の姿を見ていることが、何故か不自然に思えた。

 

「な・・・何・・・?」

「・・・まぁ、いいや」

「え?」

 

少年は少し鼻で笑うように息を漏らすと、そのまま私の横を通り過ぎビルの外へと出ようとする。

 

「急に・・・何なの・・・!?」

「・・・別に。君とはまたすぐ会えそうだから」

「ちょ・・・それってどういう・・・!?」

 

私は聞き返したが、彼は振り向きもせず、また乾いた笑い声を小さく上げ、そのままビルの外へと出て行ってしまった。

 

「・・・何・・・あいつ・・・」

 

私は思わず小声でそう呟いた。そしてそのまま一つため息をつき、私もビルから出て行く。日は更に傾いて、 町は夜の喧騒へと姿を変えようとしている。・・・妙に長い新学期初日だったなぁ。これから頻繁にこういう事態が訪れるのかと思うと・・・ 少し頭が痛かった。でも、後悔したって仕方が無い。巻き込まれた形とはいえ、自分から進んでこの戦いを選んだ以上、後に引きたくは無い。 戦えば戦うだけ深まる謎も、戦うことでしか真実を見つけ出せないだろう。静かに心の中で気合を入れると、 太陽を背にして家の方へと歩いていく。足元から伸びる影は、私の行く道を真っ直ぐに示していた。

 

 

ラベンダーフォックス 第7話「猪突猛進!そして動き始める影!」 完

第8話に続く

この記事へのコメント
こんにちわmyuuです。ラベンダーフォックス第8話読ませてもらいました。3回目の戦いは苦戦して、とりあえず勝てたけど、2人に影だけどラベンダーフォックスの姿を撮られてしまったけど影でよかったです。あと工場で出会った謎の男もなにか 関係しそうです。次の8話目も楽しみにしているのでがんばってください。

★宮尾レス
コメント有難う御座います。
謎の少年については次回からより深く関わってくる予定なので是非楽しみにお待ちいただければと思います。
ただ、今回はラベンダーフォックスの第7話だし、ラベンダーフォックスは今回の戦いで別に苦戦はしていないし、最後のシーンは工場ではなく工事現場です。作品の内容があまり伝わっていないようで残念です。
Posted by myuu at 2006年10月23日 15:52
そろそろ7話が出る頃かなと思ってここの所ほぼ毎日チェックしてました。

敵の獣人はなぜ消えたのか、弟はどのように物語に関係していくのか。そして謎の少年の正体は(まさか…)?
続きがものすごく気になります。次回も期待してます

★宮尾レス
コメント有難う御座います。
ラベンダーフォックスは基本的に毎月22日公開予定となっています。これより遅れることはあっても早まることはほとんど無いので、それを目処にしていただくと確認取りやすいかと思います。
今回はまた様々な謎が出てきましたが、今後のストーリーで少しずつ明らかになっていきます。特に景輔と謎の少年はキーマンの1人なので、是非今後の動きに注目していただければと思います。
Posted by blue at 2006年10月23日 18:12
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