2006年08月26日

ラベンダーフォックス 第5話

ラベンダーフォックス 第5話「神具華核!新たな私の始まり!」

【人間→獣人】

「・・・まぁ、景輔君から急な用事だと聞いていたし、でも、今度からはきちんと自分で連絡頂戴ね?」

「はい・・・ごめんなさい」

 

私が深々と頭を下げると、若い女性教師は軽く微笑んだ。英語科準備室は私の担任となる彼女と私の2人っきりだった。 昨日登校初日に急遽休んでしまったその詳しい事情を私から聞くためと、実質今日が登校初日となる私への説明のためにここへ呼ばれていた。 私は昨日欠席した事に適当な理由をさっと説明した。まさかラベンダーフォックスに変身して戦っていたなんて言えるはずもないし。・・・でも、 昨日のこと・・・ヴィスタディアやウォルブレインのことを考えると・・・少し気が重くなりそう・・・。

 

「ほら、光音さんにとっては、今日からがウチでの本格的な学校生活のスタートなんだから、しゃきっとして!しゃきっと」

「・・・はい!」

 

私は言われて頭を上げ背筋を伸ばした。そして彼女に向かって微笑んだ。

 

「・・・ん、光音ちゃんみたいに元気で成績のいい子がクラスに入ってくれると、きっと活気付くわ」

「私、成績は・・・」

「ふふ、ちゃんと調べてあるの。東京の名門進学校で1年生の平均評定が4.6。こっちだったらオール5も目指せるわよ!」

「・・・取れるように頑張ります・・・」

 

・・・悪い先生じゃないんだろうけど、やっぱり自分のクラスから成績のいい生徒、そして成績のいい卒業生が出てほしいと望む、 まだ若い教師なんだろうなぁ。私にどっしりと期待をかけているのが手に取るように分かる。先生はまだ笑顔だけど、 私は思わず笑顔がちょっと引きつってしまった。・・・まぁやる気の無い先生よりかはましかなぁ・・・。そんな事を考えているうちに、 気分が少しでも沈むとまた、昨日のことがフラッシュバックのように頭を駆け巡る。

 

 

 

『今日のところは手を引く・・・か』

 

私は狐の姿のまま、さっきまで鹿と狼の獣人がたたずんでいた空間を、脱力気味に見つめていた。 結局彼らは無抵抗の私たちに対してとどめを刺すことなく、あっさりと身を引いた。散々意味深な言葉を振りまいた挙句、 ヒントも無しに帰ってしまったのだ。

 

『・・・彌麓様・・・』

『・・・やっぱり・・・ユキはあの鹿の神様のこと・・・慕ってたの?』

 

ユキの落ち込んだ様子を見て私はそっと声をかける。

 

『慕っていたわけじゃないけど・・・みろ・・・いや、ヴィスタディアはリョッコ様のお考えを最も理解していたと思っていたから・・・ それが・・・このような謀反を・・・』

『・・・』

 

そう言うユキの表情は本当に悔しそうだった。狐のその前足の短い指を握り締めるようにして、 グッと力を込めてこらえているようにも見えた。

 

『・・・でも・・・彼らが私を倒そうとしない理由って・・・やっぱり、あのモンスターのテストが目的だったのかな・・・?』

『・・・ラベンダーフォックスと戦った時に・・・どれだけ戦えるか・・・』

『ユキが・・・私を戦わせたのと同じ理由ね?』

『ッ・・・!』

 

私の言葉に反応して、ユキは申し訳なさそうな顔で、その瞳を輝かせて私の方を振り向いた。

 

『・・・この前、ウォルブレインは戦力を確かめるのが目的・・・そう言ってた。そして、きっと今回もそう。・・・ねぇ、ユキ?』

『・・・何?』

『彼らにとって・・・私の・・・ラベンダーフォックスの存在が無くなれば、彼らの目的が達成しやすくなる・・・ わけではないっていう理解でいいの?』

『飲み込み早いね』

『・・・答えて』

 

狐の、私の鋭い眼光がもう1匹の白い狐に鋭く刺さる。

 

『・・・ラベンダーフォックスは、リョッコ様の力の一部。・・・方法は兎も角として・・・この地を守るのが目的である、・・・ ヴィスタディアにとって、例え邪魔であっても決して倒しちゃいけない存在なんだ』

『・・・でも、真の目的って言ってた・・・どういう意味なの・・・?』

『僕にも分からない・・・この地を守るため・・・という前提を基にした何らかの計画だろうとは思うけど・・・』

『それにウォルブレインは私に真の力があるって・・・どういうこと?』

『・・・ごめん、君に伝えるにはまだ・・・』

『・・・そう・・・』

 

私は少し表情を暗くして天を仰いだ。ユキから話を聞けば、少しは自分の置かれた状況が分かるかと思ったのに、まるで見えてこない。 そればかりか、ユキにはいつも肝心なところをはぐらかされてしまう。

 

『光音・・・逆に聞いていい?』

『・・・何?』

『どうして・・・戦ってくれるの?・・・僕はまだ、君に信用してもらえるほど・・・こうして何も伝えられていないのに・・・』

 

・・・ユキ自身も、何だかんだで気にはしてくれていたんだ。確かに、何も分からないまま、 何も教えてくれないユキに従って身を危険に晒すなんて、どうかしているかもしれない・・・けど。

 

『・・・私は・・・ラベンダーフォックスは戦うためにいるんでしょ?』

『そうだけど・・・』

『それに・・・戦い続けないと、ユキ、何も教えてくれそうに無いから』

『・・・』

『謎を謎のまま放っておけないたちなの・・・色々聞こうにも父さんとも連絡つかないし・・・』

『・・・?大地は君と連絡を取っていないのか・・・!?』

『え・・・?』

 

私たち2匹はお互いはっとした表情で見合った。

 

『・・・僕はてっきり、大地は連絡を取っているのかと・・・』

『ユキも・・・父さんが何処で何をしているのか聞いてないの?』

『・・・あの人の悪い癖だ、何も告げずに勝手に行動して・・・!』

 

ユキはあからさまに父さんに対して苛立ちを見せていた。・・・今この瞬間、私達2匹はこれまでに無いほど感情がシンクロしていた。

 

『・・・とりあえず、父さんに連絡つけないと』

『そうだね・・・僕も分からないこと多すぎるし・・・大地なら何か知っているかもしれない』

 

ユキはそう言うと、すっと歩き始める。そして少し進んだところで私の方を振り返った。

 

『僕はリョッコ様の所に一度戻る。僕なりに、大地の事については当たってみるから』

『・・・もう一つだけ聞いていい?』

『・・・大地の事?』

『うん・・・父さんは・・・一体何者なの?』

『ごめん・・・詳しくは言えないけど・・・でも・・・大地はリョッコ様に唯一進言出来る人間・・・てことだね』

『神様に・・・口出しってこと?』

『うーん・・・ご意見番・・・参謀・・・そんなところかなぁ・・・』

 

私はそれを聞いて口をあけて言葉を無くしてしまう。・・・父さんがそんなことしていたなんて・・・思ってたより、 ずっと父さんは今回の出来事に深く関わっているのかもしれない・・・。

 

『ところで光音、一人で家に戻れる?体力の方は大丈夫?』

『え?・・・うん、2回目だからかな・・・この間よりも力を使ったはずなのに、疲れは前回よりも少ないから・・・大丈夫、 自力で戻れる』

『よかった・・・すぐにでもリョッコ様のところに行きたかったから・・・ついてあげられなくて、ごめん』

『ううん、大丈夫。・・・それよりも、父さんの事、御願いね』

『うん、分かってる・・・じゃあ、僕はこれで』

 

ユキはそう言うとものすごいスピードで私の前の道無き森の中を走り抜けていった。残された私は、 一つ気持ちを落ち着けるようにため息をつくと、ゆっくりと森の中を歩き始めた。・・・家にたどり着いたのは結局また、 日が暮れかかった頃だった。大丈夫とは言ったものの、やはり疲労は相当なものだった。 休み休み帰ったら来るときの10倍近い時間がかかってしまった。・・・そしてようやく自分の家にたどり着いた私は、 自分の部屋の窓の前まで来て、とても重要かつ絶望的なことに気づいてしまう。・・・窓のカギ・・・開けられない・・・。一瞬、 今晩は狐の姿で家の外に締め出されるかと思ったけど、何とか家の周りを回ってトイレの窓が開いている事に気づいた私は、 無用心だと言う事に最早突っ込まず、嬉々として滑り込むように窓から侵入・・・じゃなくって、帰宅を果たした。

 

 

 

「どうしたの?光音さん。ため息ばっかりついて」

「ぇ・・・?ぁ・・・あぁ、すみません・・・」

 

昨日のことを思い出したら、そりゃため息ぐらいこぼれるわけで・・・などと心の中で愚痴りつつも、 少し引きつった愛想笑いで先生に答えた。先生もまた、一つ小さくため息をつくと私の方を見ながら言葉を続ける。

 

「・・・あぁ、それと、ウチのクラスの日直、出席番号順でやってもらうから、今日登校初日で申し訳ないんだけど、 光音さんは32番だから今日、日直御願いね?」

「え、あ・・・はい。日直・・・ですね、わかりました」

「一応日直は、朝の会の前に担任のところに来ることになっていて・・・」

 

と、先生が日直に関しての説明をし始めようとしたその時だった。急に英語科準備室のドアをノックする音が響いた。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

ドアの向こうから、やや高い少年の声が聞こえたかと思うと、ドアがゆっくりと開いた。そして1人の少年が室内へと入ってきた。

 

「山吹先生、日直で・・・来ました・・・?」

「ご苦労様。・・・あぁ、この子は青藤光音さん。昨日話ししていた転校生よ」

「あぁ・・・そう、君が転校生・・・僕は雨宮良。よろしく」

 

少年はそう名乗ると、すっと手を前に差し出してきた。私も答えるように手を差し出して握手をした。 そして今度は私が自分の口で自己紹介する。

 

「東京から転校してきた青藤光音です。よろしく御願いします」

「東京かぁ・・・やっぱ都会から見たら、結構こっちって田舎に見えるかな?」

「え?・・・いや、そんな事は無いと思うよ、空気澄んでるし・・・いいところ」

「そう・・・良かった」

 

雨宮くんは嬉しそうに微笑んだ。この町で生まれ育ったのだろうか、この町の事を悪く言われなくてほっとしたのかもしれない。・・・ そんな雨宮くんの容姿を、何となく見つめていると・・・結構いい顔立ちをしてるなぁ・・・なんて思ってみていたりして・・・。

 

「ほらほら、おしゃべりは朝の会の後。まずは日直としてお仕事してもらわないと」

 

そう言って、先生は今日配るプリントと学級日誌を雨宮くんへ手渡した。

 

「とりあえず、光音さんは初めのうちは分からないことがあったら良くんに聞くといいわ」

「はい、分かりました」

「先生、今日の連絡は?」

「特に・・・無いわ」

「分かりました、じゃあ、僕は先に教室に戻ってます」

「・・・じゃあ、私は・・・」

 

そう言って私は先生の方を見た。

 

「光音さんは一応転校生だから、後で私と一緒に教室へ行くわ」

「わかりました」

 

私が先生にそう答えるかどうかの時に、雨宮くんは既にドアを開けて一言「失礼しました」と言って英語科準備室を後にした。 その後私は先生から数分の間日直の業務に関して説明を受け、先生は一通り説明し終えると朝の職員会議へと向かった。 先生が職員会議から戻ってくるまでの、英語科準備室での1人っきりの数分間はとても静かで、やっぱり少しドキドキしている。・・・ 友達とかすぐ作れるかな・・・なんて事にまだワクワク出来る歳だったりするわけで。

 

『うん、期待の高まりがよく顔に出てるよ』

「・・・」

『・・・』

「・・・神出鬼没って言うのは貴方のための言葉なのね・・・」

 

私は突然室内に響いた狐の鳴き声を聞いて頭を抱えてしまった。そして深くため息をついた後頭を上げ、窓に目をやると・・・ やっぱり見覚えのある白い狐がそこにいた。

 

『・・・そこまで落ち込まなくってもいいじゃないか・・・』

「だって・・・」

 

不満そうな私を尻目に、ユキは窓からひょっと室内へ飛び込むと私の傍まで寄ってきた。私は目線を合わせるためにしゃがみこむ。

 

「・・・今から戦いに行けって言われても、無理だからね。もう授業始まっちゃうし」

『大丈夫、今日はまだ、あいつら動いてないみたいだし』

「戦う・・・んじゃないの・・・?」

『そう毎日、戦っているわけじゃないよ』

「・・・じゃあ・・・今日は何の用・・・父さんの事?」

『残念だけど、昨日今日で足取りつかめるほど楽な人じゃないよ』

「そりゃそうだよね・・・でも・・・だったら・・・?」

 

不思議そうに見つめる私にユキは、一つ咳払いするような仕草をするとその小さな前足をすっと前に出した。

 

『大地が君に渡したラベンダーの小瓶、出してもらっていい?』

「え?・・・うん、ちょっと待って」

 

言われて私は制服のポケットに手を入れる。・・・何時こういう事態が起きてもいいように、 あの小瓶を身につけるようにしようと決めたのだった。私は小瓶を取り出すと、ユキの目の前の床にそれを置いた。

 

「・・・どうするの?」

『まぁ、見てて』

 

置かれた小瓶を前にユキは目をつぶり、何か小さな鳴き声を繰り返し上げ始めた。 すると小瓶からまるでラベンダーを思わせる紫色の光が放たれ始める。

 

「・・・何・・・!?」

 

そしてユキは光を放つ小瓶に顔を近づけ、私にしたようにそっと口づけをすると、更にその光は強くなり、 その光のあまりのまぶしさに一瞬私は目をつぶってしまう。そして再び目を見開いた時には光は収まり始め、 やがて小瓶の姿がはっきりと目で捉えられるようになった・・・んだけど・・・?

 

「・・・形が・・・違う・・・!?」

『小瓶に僕の呪力と、リョッコ様の神力を注いで、一つの神具へと変化させたんだ・・・』

 

その小瓶は、一見もとの小瓶と同じだけど、角度を変えてみてみると、一部分が平らになっていて、そこに透き通った水晶のようなものが、 大きなものが1つ、小さいものが8つあり、大きい水晶の周りを、小さな水晶が丸く囲むように埋め込まれていた。

 

「・・・これは・・・?」

『君の・・・ラベンダーフォックスへの狐身憑変(こしんひょうへん)をサポートするために生み出された神具・・・華核(ノンノ・ ペテトク)』

「・・・また分からない単語がいっぱい・・・」

 

私はそう愚痴を呟きながら、姿形を変えた小瓶を手に取り、まじまじと見つめる。・・・でも何となく分かる、今までの小瓶と違って・・・ 今までの小瓶はあくまで本当にただのラベンダーの匂いが封じられただけの小瓶だったのが、何というか、 私の紫の力とは違った神秘的なエネルギーがここから溢れそうになっているのが、今の私にはよく分かった。

 

『狐身憑変は"身ニ狐憑キ変ズル"まぁ戦姫がその身体に狐の力を宿し変身することをこう呼ぶんだ。そして、華核は花の源流、 という意味で、華の戦姫の力の源である事を意味している。・・・今までは狐の姿の時に僕がキスしてあげなきゃいけなかったけど、 これがあればその変身をコントロールできる』

「ラベンダーフォックスへの変身を?」

『そう、今まで過去2回、すぐに体力不足に陥っていたのは、力のコントロールが出来ない君が、 力に振り回されるため無駄に消費してしまっていたからだけど、この華核がそれを抑えてくれるんだ。だから、 人間の姿から直接ラベンダーフォックスに変身も出来る』

「なんか・・・都合のいい道具だね?」

『道具って本来、都合の悪いものを都合よくするためのものでしょ?』

 

ユキの話は正論だった。私は小さく頷くと、その小瓶に埋め込まれた大小あわせて9つの水晶を見つめていた。・・・見てると何だか、 まるで吸い込まれてしまいそうな不思議な力を感じる。私の中の紫の力が・・・何故かその水晶に反応したような、そんな気がした。

 

その時、突然室内のスピーカーから予鈴が大きく鳴り響いた。

 

『うわ、もう職員会議終わりの時間か・・・!』

「・・・え・・・?」

『じゃ、僕は戻るからね!』

 

ユキは急いで自分が入ってきた窓から飛び出し、恐らく外から呪力で操ったのだろう、その窓がゆっくりと閉まりカギがかかった。・・・ また重要な事幾つも聞きそびれちゃったな・・・なんて思いつつ、私はその小瓶・・・華核をポケットへとしまいこんだ。それと同時だろうか、 職員会議を終えた山吹先生が英語科準備室へと戻ってきた。

 

「お待たせ。じゃ、早速教室に行くわよ」

「はい、わかりました」

 

私はそう答えて先生の机の上におかせてもらっていたカバンを手にして先生と一緒に英語科準備室を出て、自分の教室へと向かった。 新しい教室。新しいアイテム。青藤光音とラベンダーフォックス、どっちの私にとっても、新しい時代の幕開けを予感させていた。

 

 

ラベンダーフォックス 第5話「神具華核!新たな私の始まり!」 完

第6話へ続く

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