2006年07月22日

ラベンダーフォックス 第4話

ラベンダーフォックス 第4話「霊獣反旗!新芽のトゲには要注意!?」

【人間→獣人】

雪の残る4月の北海道。学校へと向かう私と同年代の子達が、泥まじりの雪に少し嫌な顔を浮かべながらも、 それ以上に新学期に向けて期待に胸を膨らませて、友人同士会話を弾ませながら歩いていく。・・・本当だったら、 私も新しい学校の制服着て学校に向かっている時間帯なのになぁ・・・ と楽しそうに歩く女子中学生を見上げながら空き地の草むらでため息をついた。そんな女子中学生が、私たちのことに気付いたのか、 こっちを見て隣にいた友人に声をかける。

 

「見て見て!あそこの草むらに狐が2匹も隠れている!」

「え?・・・本当だ!いや〜超かわいいしょ!」

「こんな街の方なのに珍しいねぇ」

 

彼女たちは私たちの前を通り過ぎて行き、次第に声も遠くなっていった。・・・同じ女子中学生・・・ しかも彼女たちが来ていたのは今日から私が通うはずだった中学の制服・・・つまり同級生かもしれない・・・にもかかわらず、 彼女たちは楽しそうに学校へと通い、私はと言うと、狐だ。・・・なんだろう・・・この差は・・・。

 

『ほら、ぼうっとしてないで。丁度車の流れが止まったから道路横切っちゃうよ』

『え、あぁ、うん・・・そうだよね、やっぱ横断歩道は使っちゃあ変だよね・・・?』

『そりゃあそうだよ・・・僕はまぁ・・・横断歩道とか知ってるけど、 普通の狐がやっぱりお行儀よく横断歩道を渡ってたら目立っちゃうでしょ?』

 

白狐・・・ユキは私に諭すようにそう言った。それは確かにそうだ。・・・まぁ、盲導犬とかもいるから、都会になれている狐なら、 もしかすると横断歩道の概念を分かっている、そういう狐がいてもおかしくは無いかもしれないけど、やっぱりかなり目立つだろう。 狐が珍しくない北海道の町でだって、さっきの女子のように見かけただけであそこまではしゃがれてしまう位だ。

 

『・・・でも・・・何か狐の姿でも交通ルール破るのは気が引けるし・・・狐の姿だと道路の幅凄く広く感じて・・・』

『そんなんじゃあ、今まで狐になった時どうしてたの?』

『・・・大体屋外に出ること自体無かったよ・・・都会で狐見かけたら、それこそ変でしょ?』

『そっか・・・でもこれからは慣れてもらわないと』

 

ユキはやれやれとでも言いたそうにこっちを見ながら言った。・・・微妙に上から目線なのが少し引っ掛かるけど、 もう一々気にしないでおこう・・・話が進まないから。

 

『さぁ、行こう。のんびりしている暇は無いから』

『・・・うん』

 

私が頷くのを確認すると、ユキは草むらから飛び出して、車が来ていないことを確認すると急いで道路を渡る。私もソレについて行き、 2匹で道路を向こう岸まで一気に駆けて行った。そしてその後も、私はユキについてどんどん街の外へと向かっていく。

 

『・・・どこまで行くの?』

『とりあえず、山のふもとまで』

『あんなところまで!?』

『全速力なら30分ぐらいで着くよ』

 

そう言ってユキは走るスピードを上げる。私も置いてかれないように彼のスピードに合わせるけど・・・ 私にはこの後闘うって言う重要な事があるのを忘れないでペースを考えてほしい・・・まぁ、勿論、これから敵と戦いに行く、 という状況なのだから少しでも急がなきゃいけない状況だっていうことも十分理解はしているけど・・・。

 

『・・・そういえば・・・1つ聞いていい?』

『何?』

 

ユキは後ろから付いてくる私の方は振り返らずに、短く聞き返した。

 

『この変身能力・・・父さんが送ってきたあのラベンダーの小瓶のせいのはずでしょ?・・・でも、あの時・・・ ウォルブレインは私に向かって"紫の力を持って生まれた"って・・・確かそう言ってた』

『・・・どっちも間違いじゃないよ』

『矛盾・・・じゃないの?』

『紫の力は・・・車体、大地が送った小瓶が鍵・・・そう言えばわかってもらえる?』

『あぁ・・・うん・・・まぁ、とりあえず』

 

ユキの例え話で何となく納得できた。どんなに大きな車だって、キーを挿さなければ動かない。

 

『私には初めから変身する素質があって・・・その引き金になったのが父さんが送ってきたあの小瓶・・・』

『そういうこと』

『・・・やっぱり私は初めからラベンダーフォックスになる運命だったの?』

『うーん・・・その辺りは色々あるから長くなりそうだなぁ・・・』

『またそうやってはぐらかす』

『いや、別にはぐらかしているわけじゃなくて・・・!』

 

ユキはそう慌てて言い返そうとする。・・・キツネの表情だけど、私もキツネの目線で見ているせいか、凄く表情豊かに見えて、 その一挙一動は何となく可愛らしい。

 

『・・・いいよ、別に。言いたくないことだってあるだろうし』

『・・・ごめん』

 

ユキは少し申し訳なさそうにそう呟くが、すぐにその表情が真剣なものへと変わり、目的地である山の方を走りながらも強く睨みつける。・ ・・これだけ距離がまだあるのに、私にも分かる。・・・あの蜘蛛の化け物や、 ウォルブレインとは違うけどよく似たピリピリとした張り詰めた気配・・・。

 

『この感じ・・・!?』

『・・・敵だよ。これから君が闘う』

『敵・・・また、あの蜘蛛やウォルブレインみたいな・・・!?』

『そう・・・いや、それより性質が悪いかもしれない・・・!』

『え・・・?』

 

思わず驚きと戸惑いの表情を浮かべる私の方を見向きもせずに、ユキはそれ以来黙り込んだ。あのウォルブレインよりも性質が悪い・・・? どういう意味か引っ掛かったけど、少しでも早く目的地に着かなきゃいけないこの状況と、着けば自ずとその意味も分かる事に気付いていたから、 それ以上私も聞かなかった。

 

2匹のキツネは静かに、そして力強く走り続け、やがて残雪著しい山林へと入っていく。・・・周りの雪のせいだろうか、 まだ4月の朝は確かに肌寒いものではあるが、街中では狐の体毛のお陰なのかまるで寒さなど感じなかったのに、 山の中は風が通るたびに身震いしたくなるほどの冷たい空気が私の全身を駆け巡っていく。そこにあの張り詰めた感覚・・・ 敵の気配が山林を包んでいるため、私の毛はいっそう逆立っていた。

 

『・・・何処にいるの・・・その敵は・・・!?』

『・・・ダメだ・・・気配が大きくて・・・細かに探れない・・・!』

 

2匹の狐は寄り添いながら、何処から襲ってくるか分からない敵に対して警戒しながらゆっくりと、少しずつ更に奥へと足を運ぶ。 雪に私たちの足跡がつく。・・・その時。

 

『・・・ッ!?跳んで!下だ!』

『エッ!?』

 

私は雪の叫び声のまま、全身に力を込めて可能な限り後ろへと飛びのいた。・・・その直後に私たちがいたところの雪・・・いや、 その更にしての地面を突き破って何かが飛び出してきた。

 

『何・・・コレ・・・!?』

『この前の蜘蛛と一緒だ・・・!』

 

私たちの目の前に現れたのは植物の茎・・・なんだけど異常に太いし、なんかトゲが周りに無数に伸びている。色も、 一応緑と認識できなくも無いけど、色彩は鈍く、わずかに青みがかっていてグロテスクだ。先端には花や果実などはついておらず、鋭く尖り、 更にその周りにも小さなトゲで覆われている。ソレがまるで私たちを探すかのように長い体・・・茎を激しくくねらせているのだ。 まるで獲物を狙う蛇のように。その茎がしなるたびに金属が歪み軋むような音が響く。

 

『昆虫・・・動物だけじゃなく植物まで・・・あいつらは・・・!』

『コレ・・・やっぱり植物なの・・・!?』

 

私達2匹はお互い近づくと、揃って怪物のような植物を見上げていた。・・・しかし、見ていても私たちを襲う気配は感じられなかった。 何故なのか・・・そう考えていた時に。急に辺りを包む空気の流れが一気に変わる。・・・この感じ・・・ この間のウォルブレインのように一瞬でその場を漂う空気を変える様な、圧倒的な威圧感・・・でもウォルブレインのものじゃない、コレは・・・ !?

 

「どうだ、長き冬を越えた植物の、みなぎる生命力は」

『・・・ッ!?』

 

私達は声のした方を見た。・・・さっきの植物の化け物の先端に、ソレまでなかったはずの影があった。一体何時からそこにいたのか・・・ ずっと私達は植物を見ていたはずなのに、その影が声を発するまでその存在に気付かなかった。 影は私たちが自分のことをようやく認識できた事を確認したのか、身のこなし軽くそこから私たちの目の前へと飛び降りた。その姿は・・・。

 

『・・・鹿・・・!?』

「・・・ふむ、その小さき姫がリョッコ様がお選びになった戦姫か」

『軽々しく・・・リョッコ様の名を口にするな!彌麓(みろく)!』

 

ユキは目の前の鹿・・・いや、鹿の頭を持つ獣人に対して激しく吼えた。その獣人は頭は長く太く伸びた角と、 深い茶色の毛を持つたくましい鹿のものであり、身体は神官が身につけるような服装で、しかしその布の色は黒く、雪の中ではいっそう映える。 長い袖から僅かに見える手は蹄などではなく人のソレに近いが、顔と同じ茶色の毛が覆っていた。雪に彌勒と呼ばれた鹿は雪のほうを睨みつける。

 

「・・・ならばお前も、我を二度とその名で呼ぶな、雪の防狐」

 

・・・果たしてその瞳を見て、草食動物の目と誰が思えるだろうか。私は、自分が睨み付けれらたのでもないのに、 ただ横から見ているだけで強い威圧感を覚えた。・・・その瞳の内に宿る禍々しい何か・・・あのウォルブレインにさえなかったもの・・・。 あの時ウォルブレインは私と自分のことを似ていると言っていた。・・・多分ソレは外見的な意味だけでなく、 存在としても近い存在である事を言っていたのだと思う。はっきりと分かる・・・そういう意味ではこの鹿は、 間違いなく私やウォルブレインとは異なる存在だった。

 

『ユキ・・・あの鹿は・・・!?』

『・・・かつて彌麓の名で呼ばれ・・・リョッコ様に仕えていた・・・最上位の霊獣・・・』

『霊獣・・・?』

「獣の神たる存在だ・・・我や・・・リョッコ様のようにな」

『神・・・そんな・・・!』

 

神・・・つまりそれはリョッコ様に仕える身でありながらも、リョッコ様と対等の力を持っていたという意味になる。

 

『何で・・・その霊獣がリョッコ様を裏切るような事を!?』

「あの方のやり方では・・・この地は守れぬ・・・それだけの事だ」

『リョッコ様の・・・やり方・・・?』

「・・・あの方の元を離れた我に彌麓の名は不要・・・ヴィスタディア・・・そう呼んでもらおうか」

 

鹿の神は自らを名乗った。・・・そして再び張り詰める威圧感。私ともウォルブレインとも違う存在・・・ウォルブレインは、 外見こそ狼だが、私に近いと感じたのは恐らく彼は限りなく人に近い存在だからだろう。しかし、このヴィスタディアは違う・・・!

 

「・・・怯えているのか?」

『ッ・・・!』

 

ヴィスタディアは私の心を見透かしたかのようにそう語りかけてきた。・・・違う、怯えているわけじゃない。 ソレは決して強がりではない。・・・というより、そういう感情すら生まれないほどに、私は目の前の鹿に圧倒されてしまっていた。

 

『ラベンダーフォックスを・・・リョッコ様が選んだ戦姫を侮辱するな!裏切り者!』

「・・・雪の防狐・・・」

 

ユキはかつて自分の仲間であったという鹿の神に対して激しく吼えたてた。・・・そうだ、私もすくんでいる場合じゃない・・・ 戦姫として・・・戦わなきゃ!

 

「・・・目つきが変わったな・・・」

『何のつもりか知らないけど・・・私だってラベンダーフォックス任された以上、逃げたりはしない!あなたになんか怯えたりしない!』

「成る程・・・ならば・・・その力見せてもらおうか」

 

ヴィスタディアはそう呟くと、指をパチンと鳴らした。その瞬間、 今まで大人しくしていたあの植物の化け物が激しい音を立てながら再び暴れ始めた。そして突然、全身のトゲを一気に撒き散らしてきた。

 

『ッ!?』

『く、瘴壁!』

 

ユキがそう叫ぶと、私たちの目の前に光の壁が現れ、モンスターの放ったトゲから私たちを守った。 運動エネルギーを失ったトゲは重力に引かれ小さな音をたてて雪の上へと落ちた。

 

『ラベンダーフォックス!変身だ!』

『ぇ・・・!?ってことは・・・』

『・・・仕方ないじゃないか!君はまだ、自力じゃ変身できないし・・・!』

 

ユキの顔が、狐の表情であるにもかかわらず赤らんでいるように見える。・・・私がラベンダーフォックスに変身するのに必要な事・・・ 詳しく説明は受けていないけど・・・この前のことを考えたら、答えはひとつだ。

 

『・・・その・・・やっぱり、やらなきゃダメ?』

『僕の瘴壁だって限度があるんだ!躊躇しない!』

『・・・あぁ、もう!』

 

・・・私は意を決し、私達2匹の狐は素早くお互いの唇を重ね合わせた。・・・自分を・・・そして街を守るためとはいえ、 私の望まない形で二度もこうやって唇を許さなきゃいけないなんて・・・。

 

「紫の力を操れさえしないとは・・・」

 

私たちのその光景をヴィスタディアは見下すような目で見ながら呟いた。それにしても・・・鹿の獣人、暴れる植物のモンスター、 光の壁に守られながらキスをする2匹の狐・・・シュールすぎる光景だ。当事者でなければスルーしたいのに・・・!

 

『・・・やるっきゃない!』

 

私はユキから唇を外した。私の中に確かな紫の力の流れが生まれたのを感じたから。私の鼓動が早くなり、体が熱を持つ。 小さな狐の姿から、戦う姫へと生まれ変わるためのエネルギーが私の中からあふれ出す。そのエネルギーは私の身体を紫色の光で包み込む。 光の中で、狐のシルエットは4本の足をしなやかに伸ばし、人に近い身体つきへと変化していく。 そして私から発せられた光は再び私に収束して行き、私の身体を形作ると一気にその光がはじける。

 

そこに現れたのは紫色の毛並みを持つ、狐の獣人。その身を巫女のような和装に包み、その袖をゆっくりと風になびかせながら、 金色の瞳を開く。その長い鼻先でゆっくりと息を吸うと、私の肺に山の冷気が流れ込んで、私の意識をはっきりとさせる。それは華の戦姫。 人間として・・・狐として・・・それぞれの私とも違う、第三の私の姿。

 

「さぁ・・・見せてみろ、ラベンダーフォックス」

 

不意に辺りにヴィスタディアの低い声が響いた。同時に、まるで私の変身を待っていたかのようにモンスターの暴れ方に勢いが増す。

 

『・・・ッ!ダメだ、瘴壁は限界だ!』

「解除して!今の私なら、あのトゲもかわせるから!」

『わかった!』

 

ユキはそういった瞬間、私たちを守っていた光の壁が消える。その気配を察知したのか、 植物のモンスターは再び激しくとげを撒き散らした。

 

「ッ!」

 

私は樹を背にして力強く飛び上がる。しかしほぼ全方位に無数に飛んで来るトゲを完全にはかわせない。 私は特に無防備な顔にトゲが当たらないように長い袖で払い除ける。でも攻撃は最大の防御とはよく言ったものだと思う。 これじゃあまるでこっちが攻撃する事が出来ない。・・・でも、防戦一方じゃ何も出来ない、攻撃に出なきゃ!

 

「えぇい!」

 

私は背にしていた樹を強く蹴ると、身体に回転を加えながらモンスターのほうへと飛んでいく。 その滞空中に私は飛んで来るトゲに意識を向けつつも、自分の右手に身体を流れる紫の力を集めるように集中する。・・・ この間の蜘蛛と戦ったときと同じ要領で手に紫色の炎を作り出す。相手が無尽蔵に攻撃してくる以上、長期戦は不利。 一気にケリをつけなきゃいけない。

 

「このぉ!」

 

私はありったけの力と、身体の回転による運動エネルギー、 内から湧き上がる紫のエネルギーの全てを右手の握りこぶしに込めモンスターに打ち込む!激しい衝撃音が辺りに鳴り響く。・・・手応えは、 確かにあった。

 

『やった!?』

「・・・甘いな」

 

ヴィスタディアは小さく呟いた。・・・結論から言えば、この前の蜘蛛よりも表面がはるかに堅かった。 私の紫の炎も燃え移らずにまだ右手で燃えている。ダメージは間違いなく与えたはずなのに・・・そう考えていた時だった。 私は自分の反応が遅れた事に気づく。・・・攻撃のためにモンスターに接近したこの状態は、 言い返せばモンスターにとっても私に確実にトゲを命中させる事の出来る間合いだと言う事に。

 

「ッ、ヤバッ・・・!?」

『塞縛!』

 

私が身動きとれずにいた時、ユキの叫び声が聞こえた。しかし、ユキが放った光の帯はモンスターではなく、私に纏わりつき、 それがものすごい勢いで私の身体を引っ張った。

 

「ちょ、え!?」

 

私の身体は光に引っ張られ宙を舞う。と、ほぼ同時にモンスターがトゲをまた撒き散らした。・・・ あのままあそこにいれば間違いなく大きなダメージを受けていたであろう。

 

『焦りすぎ!もっと慎重に戦わないと!』

 

ユキは光の帯を操りながら私に向かって叫んだ。

 

「ゴメン・・・大丈夫、もう解いて」

 

私がそういうと、ユキは小さく頷く。その途端私をくるんでいた光の帯は緩くなり、私は自らそれを解く。そしてトゲをかわしながら、 何とか樹の陰へと隠れる事が出来た。私の足元にはユキも転がるようにして入り込む。

 

「・・・塞縛ってああいう使い方も出来るんだね」

『え・・・まぁ、元々は名の通り相手の束縛が目的だけど、ようは光のエネルギーを帯状にして操る技だから』

「そう・・・それで、あの怪物、少しは操れる?」

『・・・出来ない事はないと思う』

「じゃあ、私の合図であいつに塞縛をかけて、そして思いっきり引っ張って!」

 

私はそういうと再び樹の陰から飛び出しとげの雨の中へと身を投じる。 そしてさっきと同じように森の樹を利用して飛び跳ねながら隙を窺う。・・・既に一発、あの炎の技を出してしまっている。 私の体力も長くは持たない。次の一発・・・決めるしかない。飛んで来るトゲを払いつつ、私はもう一発決めるチャンスを狙っていた。そして・・ ・。

 

「ユキ!御願い!」

『ッ!塞縛!』

 

モンスターに一瞬の隙が生まれた瞬間、私はユキに合図した。さっきの光の帯が、今度はモンスターに纏わりつく。 モンスターはソレを必死に解こうと、激しく暴れる。

 

『グ・・・パワーが・・・!』

「そのまま耐えて・・・ううん、もっと引っ張って!」

『そんな、無茶・・・言わないでよ!』

 

ユキは激しく呪力を消費しながらも、光の帯で必死でモンスターを引っ張り続けた。そして、 モンスターはその長い身体を地面スレスレに這うぐらいまでになっていた。

 

「・・・それで押さえ込んだつもりか?もう雪の防狐は・・・いや、お前も限界だ・・・」

 

ヴィスタディアは私達があがくさまを見てそう呟く。そんな事は分かっている。だからこそ、その限界ギリギリで勝たなきゃいけない。 私はヴィスタディアの方を睨みつけながら横になったモンスターの上を木々を蹴りつつ宙を飛びまわっていた。

 

『・・・ダメだ・・・もう・・・限界だ・・・!』

「いいよ!開放して!」

 

ユキが限界を告げると、モンスターを縛っていた光は消え、モンスターに自由が戻る。そしてそのまま体制を整えようと、 長い身体をムチのようにしならせ勢いよく立ち上がろうとした、その瞬間を私は待っていた。

 

飛びまわっている間、私の意識は常に右手に有った。さっきの炎で足りないなら、もっと大きな炎を作るしかない。でも、 まだ紫の力を操りなれていない私には、大きな炎を作るためには意識を集中させる時間が必要だった。そしてもう一つ、 私のさっきの一撃ではパワーが足りなかった。私か飛びまわり得た運動エネルギーだけではあいつに致命傷を与える事が出来なかった。・・・ でも、私のパワーには限界がある。あれ以上強く打ち込む事は出来ない。・・・私に出来ないなら、相対的にエネルギーを生み出すまでだった。

 

私は勢いよく樹を蹴り、モンスターのほうへと飛び出した。そしてモンスターもまた、勢いよくその身体を起こそうとしている。・・・ 私にぶつけるパワーが無ければ、相手にぶつかってもらい、見かけのエネルギーを増幅するしかない。だから、ただ動きを封じるだけでなく、 体勢を立て直すをいう隙を与える必要が有った。そして、さっきの倍以上の炎と、数倍のエネルギーを持った私の拳が、勢いよくめり込む!

 

「ッ、ぅりゃぁ!」

 

私の勢いは止まらない。衝撃音を伴いながらそのままモンスターの身体を貫通し、地面へとゆっくりと降下する。・・・ しかしその途中でついに私の体力が尽きてしまったようだ。私は空中で自分の毛並みと同じ紫の光を放つと、その光が一気に小さくなり、 地面へと着地した頃には元の狐の姿に戻っていた。私は重い体を4本の足で立ち上がり何とか動かし、モンスターのほうを見上げる・・・が、 心配は必要なかった。今度は間違いなく、私の炎がモンスターを焼き尽くしていく。そして・・・後は雲の時と同じだった。 その身体がひび割れ始め、炎が全体に行き届くと激しい爆発音と共に細かく砕け散っていった。

 

『ラベンダーフォックス!大丈夫!?』

『・・・うん、何とか・・・』

「成る程・・・面白い戦い方をする」

 

ヴィスタディアは、自分が仕掛けたモンスターを倒されても顔色一つ変えずにいた。

 

「自分が不利だと分かれば、打開策をすぐに考える・・・思ったよりも切れるようだ」

『・・・褒めてるつもり?・・・私だって、私が戦姫として未熟な事なんて分かってる・・・決意だって微妙だし・・・でも・・・』

『ラベンダーフォックス・・・』

『だからって怯えて逃げ出すような事はしない。私が・・・ラベンダーフォックスである以上は』

「な、だから言っただろ、ヴィスタディア。今度の戦姫は面白いって」

 

突然、会話に私たち以外の声が割り込んできた。・・・その声には聞き覚えがある。それだけじゃない、 その声を聞いただけで背筋が凍るようなプレッシャー・・・間違いない・・・!

 

『ウォルブレイン・・・!』

 

いつの間にか、ヴィスタディアの背後に黒い狼獣人・・・ウォルブレインが現れた。その表情は穏やかでありながらも、 周囲に対しての敵対心をむき出しにしているのが、彼の周りを吹き抜ける風から伝わる緊張感で分かる。・・・まさかとは思ったけど・・・ 状況は違うけど、いつも夢で見ていたユキとウォルブレインとの対峙が、結果的に正夢に近い状況になってしまっている。

 

「・・・どういうつもりだ、ウォルブレイン。お前はまだこの時間、あそこにいるのではないのか?」

「あぁ・・・面倒だから切り上げちゃったよ」

「お前は・・・いや・・・いい・・・呆れて言葉も出ぬ」

「まぁ、それはそれ。・・・で、どうだい?新しい戦姫を生で見た感想は」

 

そう言いながらウォルブレインはなれなれしくヴィスタディアに話しかける。・・・神をも恐れぬとはこのことだろう。ウォルブレインは・ ・・気配で分かる、霊獣であるヴィスタディアとは異質の存在感を持っている。彼は神というような部類の存在じゃない。・・・ しかし彼のそれは神でないものが神に対して取る態度ものとは思えなかった。

 

「放っておけば脅威になりかねないが・・・だがそれでは意味を成さないからな・・・」

「そこら辺の駆け引きが、面白いんじゃないか」

『・・・何の話・・・?』

「・・・いずれ君にも話すよ、僕達の真の目的」

『真の・・・目的・・・?』

『・・・どういうことだ!?』

「雪の防狐・・・お前はリョッコ様への忠誠が厚い・・・だからこそ、あのお方のお考えを盲目的に信じすぎている・・・」

 

ヴィスタディアはまるで哀れむような目でユキを見つめた。その瞳には・・・とても言葉で例えられないような、悲しみや、怒りや、 様々な感情と思惑が渦巻いているような深い深い光を携えていた。

 

「・・・この地を守るには・・・変革が必要だ・・・そして、それを為すのが、このヴィスタディアだと・・・ リョッコ様にそうお伝えしろ」

『ッ・・・!』

 

ユキは、何か更に叫ぼうとしたけど、喉元で必死に言うのを堪えているようだった。・・・ 事情を知らない私には分からない部分も多いけど、ユキの悔しそうな表情を見れば・・・ ヴィスタディアがかつて彌麓と呼ばれていた時にユキとどういう関係だったか・・・分かりはしないが、何となく感じる事はできた。

 

「いやぁ、でも良かったよ、今日の戦い」

『ッ・・・!・・・ウォルブレイン・・・』

 

黒き狼頭の彼はいつの間にか私の背後に回りこんで、その狼の顔でにこやかに微笑みながら語りかけてきた。

 

「・・・頭脳戦・・・と呼ぶには少々あっさりしてたけど・・・あれだね、戦いは頭でするタイプだね」

『・・・』

「・・・相手がもし高い知能を持っていたら、あんな単純な戦法は通じない・・・どうするつもりだい?」

『分析・・・それとも忠告のつもり?』

「いや、そうじゃない・・・でも、君と戦うのがますます楽しみになってきたよ。・・・いずれ君が真の力に目覚めたら・・・と思うと」

『真の力・・・?』

「そう、真の力・・・いずれ雪の防狐か、リョッコにでも教えてもらえるんじゃないかな?」

 

そう言った狼の表情は本当に楽しそうなものだった。・・・戦うことに楽しみを見出している事・・・ 私にとっては神であるヴィスタディアの存在よりも、恐らく圧倒的な力を持つであろうウォルブレインの力よりも、 むしろ彼のその性格に僅かな恐怖を覚えていた。

 

「まぁ、強くなってくれよ・・・?戦って強くなり、倒しがいのある戦姫になって、僕と戦うその日まで・・・」

 

ウォルブレインは穏やかに・・・しかし、私に対しての確かな闘争意識をむき出しにしてそう呟いた。 私も応じるように4本の足に力を込め、威嚇するように睨み付けた。・・・強大な力を持つ獣人2人に囲まれた、小さな2匹の狐。 それは今の状況だけでなく、私たちが置かれた立場自体を比喩するかのような光景だった。

 

 

 

「・・・で?あの普通っぽい狐が例のアレかい?ラベンダーなんちゃらかい?」

「フォックスだ・・・英語ぐらい覚えろコノヤロウ」

「はっ、怒ってるのかい?短気さんが怒ってるのかい?」

「・・・冗談抜きでぶん殴るぞコノヤロウ」

「いい加減にしないか・・・2人とも・・・」

 

ビルの屋上から3人の男がなにやら双眼鏡片手に山の方を見ている。彼らのレンズには、2匹の狐と、 人と獣が合わさった異形の姿の者が2人映っていた。しかし、男たちはそれを見て驚くことはなく、ただ何かを探るようにそれらを見ていた。

 

「・・・しっかし、この地のオキツネ様の伝説ってそんなにアレかい?凄いモンなのかい?」

 

口調の軽い、3人の中でも最も若い男が横にいる大男の方を仰ぎ見て語りかけた。

 

「お前もさっきの戦いを見れば・・・ラベンダーフォックスの力の大きさが・・・ そしてその力の基であるリョッコの力の大きさが理解できるはずだ・・・」

「アンタがそう言うぐらいだったら、余程だろうね。・・・しかし、アレかい?そう分かっていて報告が遅れたのは、 もしかしてソレを俺達に見せないためとかじゃないのかい?」

「変な言いがかりはよせ・・・」

 

大男は静かに若い男に呟いた。

 

「てめぇが遅れたのは、単にてめぇが女口説いてただけじゃねぇかコノヤロウ」

 

口の悪い金髪のもう一人が、若い男に突っかかってきた。

 

「だって、世界中の女の子は俺のためにいるわけだし、口説かないと損だと思わないかい?」

 

何処から溢れてくるのか、自信に満ち溢れた表情で若い男は答えた。流石の大男と金髪の男も呆れて返す言葉が無かった。 大男は一つ咳払いをし、静かに言葉を続ける。

 

「・・・兎も角、リョッコの戦姫・・・防狐・・・彌麓・・・これでカードは揃ったわけだ・・・」

「でも、いいのかい?イレギュラーが一つ入り混じってるんじゃないかい?」

「あの狼男か・・・」

 

大男はそういいながら手元に写真を取り出す。そこには黒い毛の狼の頭を持つ獣人が映っていた。双眼鏡で見える、山にいるのと同じだ。

 

「・・・気になる存在だが・・・まぁ、カードにはジョーカーは付き物だろう・・・」

 

大男はその写真をカードに見立ててそう呟いた。

 

「・・・さぁ・・・ゲームの始まりだ・・・我々デュオデックの夜明けのために・・・!」

 

 

 

・・・私やユキは勿論、多分リョッコ様も、リョッコ様を裏切った彌麓ことヴィスタディアも、 まだ誰もがこの戦いは私たち2つの勢力による戦いだと考えていた。その地を守りし者と、それに反した者。 2つの主義を交える戦いだという固定概念を持っていたから、 だからその戦いにそういった主義を持たない介入者が現れることなんて考えてはいなかった。只今の私達は、自分たちの力と相手の力を比較し、 私達は強くなる事を、敵は私たちを退けることだけを考えていた。・・・既にその戦いを乱す石は水面へと投げられ、その波は強大なものとなり、 私たちを飲み込もうとしているのに。

 

・・・だから私はその時まだ気づいていなかった。私達2匹の狐とヴィスタディアがにらみ合う中で、ウォルブレインただ一人だけが、 全く別の方に視線を向けていたその理由に。何故、遙か遠く離れた街の中のビルを見つめていたのか・・・私はその時まだ理解できずにいた。

 

 

ラベンダーフォックス 第4話「霊獣反旗!新芽のトゲには要注意!?」 完

第5話へ続く

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