2006年06月22日

ラベンダーフォックス 第3話

ラベンダーフォックス 第3話「戦姫決意!ラベンダーフォックス始業式!?」

【人間→獣人】

気がつくとそこは一面のラベンダー畑だった。どれだけ遠くを見つめても、見えるのは紫色に広がる大地だけ。 まるで世界にラベンダーしか存在していないかの如く。そして、ラベンダー以外で唯一存在を認められているのが一匹の狐。太陽の光を受けて、 その名の通り狐色の柔らかな毛並みを輝かせているその狐は私だ。

 

私は自分が何故こんなところにいるのか思い返してみる。しかしどうにも頭がぼやけて考えが働かない。 このラベンダー畑に来る直前の記憶がすっぽり抜け落ちているし、考えようとすればするほど、 色々な記憶と一面のラベンダー畑の景色が入り混じって余計に記憶がグチャグチャになっていく。・・・でも、少し落ち着いて、 冷静になって考えてみれば分かる。私が突然こんなラベンダー畑に何処からともなく現れることは有り得ない。有り得ない事が起きていて、 考えが働かない状況といえば、どういう状況かもう答えは絞られてくる。

 

これは夢の中だ。

 

そう分かると一気に眠りが冷めそうになるが、私は夢の世界を壊さぬように深く考えるのを止めた。 私には夢から目を覚ましたくない理由があった。狐の私は辺りをキョロキョロ見回すと、 自分の目線ほども有る深いラベンダーの森を一気に駆け始める。・・・今日こそ見なくては・・・と頭の中で呟きながら。

 

やがて私の視界はにわかに、一気に開けた。ラベンダーよりも背の小さい、まるで芝生のように短い雑草が生い茂る草原に、 ラベンダー畑からひょっこりと狐が・・・つまり私が顔を出す。そして私はじっと遠くに見えるあるものを見つめる。・・・ その先には1匹の白い狐と、2足歩行する狼・・・狼獣人が対峙している光景だ。その周りには緊迫感が漂っている。まるで、 風に揺れているはずのラベンダーが、その2匹の気迫によってざわめいているかのように。そしてその時、狐の口元が動いた。 まるで何かを狼に語りかけるように鳴き声を上げているように見える。しかし何といっているのか、まるで聞こえない。聞き取らなきゃ・・・ 近づかなきゃ、もっと、あの2匹の近くに・・・!

 

そう思ってラベンダー畑から顔だけじゃなく、全身飛び出した、その瞬間。

 

「キャゥゥッ!?」

 

突然のことに私は大きな鳴き声を上げてしまった。私はしっかりと地面を蹴ったつもりだったのに、4本の足は宙を空振りした。 私の足元から地面がいつの間にか消えてしまっていたのだ。そのまま私の身体は自由落下をする。このままじゃまずい・・・ そう感じた時には遅かった。次の瞬間には私の身体全身に強い痛みが走った。でも、その痛みは夢じゃない。 現実に私の身体が痛みを感じていたのだ。

 

「痛っ・・・」

 

落ちた直後は痛みで目を閉じてしまっていたけれど、やがて痛みが落ち着くと私はゆっくりと目を開いていく。 その瞳に映ったのはラベンダー畑でも、白い狐でも狼男でもない。私のタンスと、無造作に並んでいるいまだに片付かないダンボールが数箱。 そこは私の部屋だった。ベッドから布団もろとも落ちてしまった私も人間の姿。落ちた時点で既に夢は覚めていた。

 

「結局今日も分からずじまいか・・・」

 

私は深くため息をつくと、グチャグチャに乱れた髪をさっと手で掻き揚げ、同じく乱れている布団をベッドに戻し整え始めた。

 

 

 

私が始めてラベンダーフォックスになったあの日。結局疲れた体が完全に回復し、眠りから覚めた時には夕方になってしまっていた。 白キツネのユキは本当に私が寝ている間ずっと見守っていたらしかったが、私が目を覚ましたのを見届けると、私に短く詫びと礼を言い、 さっきのウォルブレインのようにすぐに屋上からひょいと飛び降りて何処かへと行ってしまった。どうやら彼もこの地を守る特殊な狐、 普通の狐とは比べられないような身体能力を持ってるし、忙しいらしい。私はそんなユキの後姿をまだ眠い目で見送りながら、ほっと一息つく。・ ・・そのまま人間の姿に戻る時までい続けられたらどうしようと、内心ちょっと心配してはいたわけで。いくら狐であっても、 狐から人間に戻るところを、まして服を着ていない姿を見られたくはないわけで。

 

そして辺りの気配を、狐になって敏感になった感覚でも確実に辺りに誰もいないことを確認すると私は人間へと戻り、急いで服を着こんで、 こっそり学校を後にした。校舎のドアの鍵や門が閉まってなくて助かった。 さすがに自分がこれから入学する予定の学校を塀を越えるようにして脱出はしたくはなかった。 ようやく家に帰ると景輔は不満そうな顔で出迎えた。私の帰りが遅かったから少しいらだっていたようだ。

 

「飯、姉さん作らないといけないのに、何やってるんだよ」

「何?私が帰ってくるまで待ってたの?昼も食べずに?」

「腹へって仕方ないよ、早く何か作ってよ」

「悪いけど、今日はカップ麺ね」

「はぁ?何でさ?」

 

景輔は更に溢れる不満を表情と態度で惜しみなく表現する。

 

「引越のこの片付いていない状態で、ご飯なんか作れるわけ無いでしょ?」

「いや、でも」

「それぐらい、もう中1なんだから考えなよ。何時までも小学生じゃないんだから、自分で考えて行動しなきゃ」

「・・・何だよ、そういう時だけ姉さんぶって」

 

景輔はその捨て台詞を残すと2階へと上がっていった。私はその後姿をため息つきながら眺めていた。疲れて帰ってきて、 出迎えたのはかみ合わない姉弟関係。このときはさすがにどっと疲れが溜まるのを感じた。

 

 

 

それから数日。私はずっと自分がラベンダーフォックスになった時のことを考え、 ユキに言われた戦うことへの決意をするかどうかでずっと悩んでいた。私が戦わないとこの街が大変なことになる。・・・ なんてことを急に言われても、極普通の女子中学生に急にそんな運命を素直に受け入れるだけの余裕なんて無いってことが、ユキも・・・ 私をこんなことに巻き込んだ父さんも分かっていない。前もってそういう話を聞いていればこっちだって心の準備が出来たのに・・・。 なんてことを考えているからだろうか、あんな夢を見るのは。

 

初めてこの夢を見たのはあの日の夜。疲れた身体で、カップラーメンで少しだけ膨れたおなかを意識しながら、 私は直ぐにまだ片付いていない布団上に転がり、意識を眠りの海に浮かべるのには時間は要らなかった。 そして気付いた時にはラベンダー畑に狐の姿でいるシーンになっていた。 その日はラベンダー畑から私は大きく動くことも無く目が覚めてしまったので、特にその夢のことを意識せずにいたが、翌日も、 その翌日も同じ夢を見たら、さすがの私でも夢のことが気になり始めた。そして更に次の日に夢を見た時からはラベンダー畑を探索し始める。 そしてラベンダー畑を抜けた先で白い狐と黒い狼獣人が向かい合ってにらみ合っている光景に出くわした。勿論、雪の防狐であるユキと、 私の敵と呼ばれたウォルブレインである。あの日突然私の前に現れた2匹・・・彼らが向かい合っている光景・・・狐になっている私・・・ 何だか意味深過ぎる夢だと、夢の中で思っていた。しかしその日も核心には至らず、今日こそはと思って夢を見たら、 こういう結果になってしまった。

 

「・・・ようやくベッドの準備が出来たのがあだになるなんて・・・」

 

私はベッドの方を見て小さく呟いた。昨日から使い始めたベッド。折角寝心地良かったのに、 それが夢の妨げになるとは予想もしていなかっただけに、自分がちょっと軽率だったような気がして、少しだけ反省してみたりする。でも、 過ぎた事を何時まで悔やんだって仕方ない。どうせまた明日には同じ夢が見れるのだろうと思い気持ちを切り替えて時計の方を見る。 6時15分過ぎ。ちょっと早いけど、朝の支度をするには丁度いい時間だ。特に今日は大切な日だし・・・。 私は壁にかかっているカレンダーの今日の日付を見る。小さく書かれた始業式の文字。しばらく私はそれを見つめた後、 小さく息を吐き出すと自分の部屋を出て階段を下に降りていく。

 

私は台所に立つとさっさと今日の朝ごはんを作り始める。作るのは姉弟3人の分。父さんの分は無い、というよりも、 私達が引っ越して来てからまだ一度も私は父さんと会ってない。ラベンダーフォックスのことで聞きたいことが山ほどあるのに、 連絡さえ取れない状態が続いている。一度姉さんに父さんの居場所を聞いたけど、仕事場だろ、としか返ってこなかった。 姉さんもろくに父さんの場所を知らされていないらしい。それどころか、姉さんは父さんの仕事の事も特に気に留めてなかったらしく、 どっかで何かして働いてる、とだけ思ってこの家には殆ど一人で暮らしている状態だったそうだ。父さんが父さんなら、姉さんも姉さんだ。 それぞれマイペースで干渉しないあたりそっくり。

 

「・・・何だ?私の顔に何か着いてるんか?」

「ううん、別に」

「ならじっと見んなや。落ち着かんしょ」

 

料理の手を止めて姉さんの方を見ていた私に姉さんはそう答えた。私はその声を聞くと調理を再開する。 そして出来上がった料理を3人で食べ終えると、姉さんは直ぐにバイトへいく準備をした。大学行く前の少しの時間でも、 お金を稼ぐためにバイトを入れたらしい。

 

「ゴメンね、姉さんに苦労かけて」

「別に光音が謝る必要は無いって。私が好きで働きたいんだしな」

 

姉さんはそう言って私の頭をぽんと軽く叩くと、玄関を飛び出していった。

 

「じゃ、私たちも支度しようか」

 

私はイスに座っていた景輔のほうを振り返り声をかけた。景輔は無言で小さく頷き立ち上がると、自分の部屋へと向かった。 私も再び自分の部屋の前まで行きノブに手をかけて、ドアをゆっくりと開けた。そして部屋に足を踏み入れようとした・・・瞬間。

 

『あ、やっと戻ってきた』

 

・・・。

 

・・・・・・。

 

・・・・・・・・・あれ?

 

私はゆっくりとドアを閉める。・・・いや、ちょっと待って。そこは誰もいないはずの部屋。なのに聞こえてきた声。 この家には私と景輔しかいないはずなのに、私達2人以外の声が聞こえてくる事はありえないはず。 だからありえないことに直面してしまった私の頭の中は本当に真っ白になっていた。まるで一面の雪景色のような・・・雪のような・・・雪・・・ !?

 

「・・・ってユキィッ!?」

 

私は勢いよくドアを開ける。すると目の前の、さっきまで私が寝ていたベッドの上で白い狐が、犬で言うお座りの格好で待っていた。

 

「何騒いでるんだよ、姉さん」

 

隣の部屋から景輔の声が聞こえてきた。今にも様子を見に部屋を出てきそうな勢いだったので私はとっさに言葉を考えた。

 

「ゴメン、虫がいて、驚いて大声出しちゃった」

「・・・ならいいけど」

 

景輔はドアの向こうで小さな声でそう答えた。・・・急とはいえ、我ながらなんて説明的な言い訳をしてしまったんだろうって少し後悔・・ ・もっとも、景輔も大してこっちには興味が無いから深く追求されないんで問題は無いんだろうけど。

 

『・・・僕は虫扱い?』

 

振り返るとユキが不満そうな表情でこちらを見つめていた。

 

「・・・あのねぇ、そんな表情をしたいのはこっちなんだけど・・・何で私の部屋にいるの?」

『勿論、君に用事があるからさ』

「・・・じゃあ、どうやって入ってきたの?」

『窓の鍵を呪術で開けて』

 

ユキはそう言うと窓の方を見た。閉めてあったはずの窓が開けっ放しになっている。・・・人間なら犯罪なんだけど。

 

「ちょっと!しっかりしめてよ、無用心じゃない」

『開けるだけで呪力大体使っちゃって、疲れちゃったんだよ・・・それに、後で出て行く時にまた開けるの大変だし』

 

窓を閉めようとする私を、白狐は申し訳なさと反抗心が入り混じった、どこかふてくされたような態度でそう答えた。 その様子を見た私は窓を閉める手を止め深くため息をつくと、ユキに問いかける。

 

「・・・で、今日は何のよう?」

『うん・・・悪いんだけどさ、今から出れる?』

 

・・・それをカッコいいクラスメイトに言われたんだったら、喜んで出て行くだろうけど、誘っているのは白い狐であり、出る、 というのは勿論・・・。

 

「・・・戦えって事?」

『うん、悪いんだけど、そういうこと』

 

・・・。

 

もうなんて言ったら良いんだろう。あっさりとそう言われてしまうと、こっちとしては返す言葉も失われちゃって。私は、 もう何度目だろうか、またため息をついてしまうが、深く息をすいなおすと、ゆっくりと言葉を繋げる。

 

「・・・あのねぇ、私、今日始業式なんだけど」

『うん・・・分かってるんだけど・・・でも・・・』

「・・・私が戦わないといけないってわけ?」

『・・・うん、そう・・・なんだよね』

「・・・ハァ・・・」

 

しつこいくらいにため息ばかりが漏れる。そんな私をユキが申し訳なさそうな顔で見るから、余計に心が痛んでくる。・・・ ここまで来たら仕方ない・・・引き返せる状況には無いし・・・。

 

「・・・分かった、今日はあなたに付き合うよ」

『・・・本当・・・!?』

「嘘ついてどうするの。・・・考える時間は十分貰ったし・・・断るわけにはいかないでしょ」

『ありがとう・・・そう言ってもらえると助かるよ』

 

狐は安心した様子でこちらを見る。・・・始業式はお預けか・・・。私はそう考えドア越しに大声で景輔に呼びかけた。

 

「景輔ー、聞こえるー?」

「何?」

「悪いけど私、急用が出来たから始業式いけなくなっちゃったから一人で行って!」

「はぁ!?急に何言ってるんだよ!」

「・・・ごめん、先生には何か適当に言い訳考えといて」

「・・・わけわかんねぇけど・・・分かったよ、ずる休みかなんかってことにしておくから」

「それじゃ言い訳になってないでしょ!」

「分かったって・・・それらしいこと言っとくから・・・でも、何なんだよ、急に用事って」

「・・・」

 

そう言われると答えようが無い。正義のヒロインに変身して敵と戦います、なんて言えるはずが無い。 でも他にいい言い訳も思いつかなかった。

 

「・・・ほら、そんなこと言ってないで、さっさと学校いきなよ!遅れるよ!」

「サボろうとしてる奴に言われたくないよ」

 

景輔はそういうと、既に支度を終えていたのだろうか階段を素早く駆け下りていくと、やがて玄関のドアが開き直ぐ閉じる音がした。 私は窓から景輔が学校へ向かっていくのを見届けると、ふぅっと一息吐き出しユキの方を振り返った。

 

「・・・ふと思ったんだけどさ・・・」

『・・・何?』

「私、今人間の姿なのにあなたの言葉分かるんだね」

『・・・今更・・・』

「だって・・・冷静になってようやく気付いたんだもん・・・」

 

ユキは呆れたように私のほうを見ていたが、やがて小さく身震いするとすっと立ち上がる。

 

『紫の力に目覚めた君なら、僕みたいに神に仕える動物や妖力の高い動物の言葉は分かるようになってるよ』

「ふぅん、そういうもんなんだ」

『さぁ、早く行こう。被害が大きくなる前に芽を摘まなきゃ』

 

ユキはそういうと窓のところまで行き外に出ようとする。その様子を見た私は自分がまだ寝るときのパジャマのままだった事に気付く。

 

「ちょっと待って!私、着替えなきゃ・・・」

『何言ってるの、着替えなきゃじゃなくて、変身しなきゃ、でしょ?』

「え?」

『学校休んでるのに、町の中歩いてたら変でしょ?でも、狐の姿だったら怪しまれないだろうし』

「そう・・・か・・・だよね・・・」

 

私は少し頭で考えながらもゆっくりと頷く。確かに、今日始業式のはずなのに休んだ生徒が町をフラフラしていたらおかしいだろう。 ユキの言う通り、狐に変身していくのがよさそうだ。私は納得すると机の上においてあったラベンダーの小瓶を手に取った。 そしてチラッとユキの方を振り返る。

 

「・・・見ないでよ?」

『・・・やっぱり嫌?』

「だってオスでしょ?」

『うん』

「じゃあ、だめ」

『・・・分かったよ』

 

ユキはそう言うと渋々後ろを振り返った。 私は彼がこっちを見ていないことを確認すると小瓶のふたを外しゆっくりと自分の鼻先へと運んでいく。 そのビンから溢れるラベンダーの香りがゆっくりと私の鼻から身体に吸い込まれていき、その香りが私の体全体に新しい流れを作っていく。

 

「ん・・・!」

 

何度体験していても、この力が内側から溢れる感覚には僅かなりとも声を上げずに入られなかった。私が私でなくなっていく瞬間。 質量の法則さえ無視して生物が別の生物へと変わっていく瞬間。ゆっくりと全身に毛が覆っていき、身体が縮んでいくと、 手足の指の数が減って肉球が平に生じていく。顔はイヌ科独特のすっと伸びたマズルが突き出す。耳も上に向かって尖り、 柔らかな毛で覆われている。やがて人間だった私は自分のパジャマの中に埋もれ、代わりに1匹の獣がその中から顔を出し這い出てきた。 狐になった私。私は軽く身震いし、ゆっくりと伸びをする。そして、2度ほど首を左右に振り短く鳴いた。

 

「キャゥ!」

『・・・終わったみたいだね』

 

ユキは私の声を聴くと静かに私のほうを振り向いた。私は全身に力を込めてベッドの上に飛び乗った。 人間の姿の時の膝ほども無いベッドでも、今の私には結構な高さ。目線よりも高いベッドだけど、狐の身軽さのお陰で上るのには苦労はしない。

 

『さぁ、それじゃ行こうか』

 

ユキはそう言って小さく身震いすると窓の方へと行きそのまま窓の外へと飛び出した。 私の部屋の下は丁度玄関先の雪よけ用の屋根になっているため、窓からの出入りは難しくは無い。・・・もっともこんな高くて危ないところ、 普通は上ろうと思わないけど・・・。私はそんな事を考えながらユキの後を追って窓の外に飛び出した。 私が外に出たことを確認するとユキは静かに窓の方に前足を向ける。するとゆっくりと窓が閉まり、自然と鍵が下りた。

 

『へぇ・・・本当に呪力でそんな事出来るんだ』

『さぁ、感心してないで早く行くよ』

 

ユキはそう言うと元気よく屋根から家の周りの塀へと飛び移った。・・・あれ・・・?元気よく・・・?

 

『ちょ、ちょっと!呪力使ったのに全然疲れてないじゃない!』

『さぁ、細かい事は気にしてないで早く行くよ』

 

ユキは首を横に振り私も早く着いてくるように催促する。全然細かい事じゃないのに・・・! 私は何だか煮え切らないものが内側に渦巻きつつ、ユキの後を追って塀に飛び乗った。そして私たち2匹の狐はその身体をそれぞれ、 朝の太陽の光を受けて金と銀に輝かせ、時々雪の残る道を駆けて行った。・・・願わくば行き先がラベンダー畑でなく、 そこにウォルブレインが待ち構えていないことを心のどこかで祈りつつ。

 

 

ラベンダーフォックス 第3話「戦姫決意!ラベンダーフォックス始業式!?」 完

第4話へ続く

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