ラベンダーフォックス 第2話「黒狼急襲!真犯人は父さん!?」
【人間→獣人】
『とりあえず、ここに長居したらさっきの奴らの仲間が来るかもしれない』
「え・・・あんなのがまだいるの・・・!?」
『うん・・・だから・・・でも、まだ戦いに慣れてない君に戦い続けさせるのは・・・』
「ちょっとまって!・・・何で私が戦い続ける前提なのよ!?」
私は白キツネの方を振り返って大声で叫ぶ。
『それは君が華の戦姫だから・・・』
「だから・・・何なの、その・・・イクサヒメ・・・って・・・」
『だからそれはここを離れてから説明を・・・』
白キツネは、いかにもしつこいなぁという表情で困った様に返事をする。私もその態度に少しいらだち、 袴の下で尻尾もピリピリしていたが、次の瞬間、突然場の空気が一気に凍りつくような寒気を急に感じた。私の全身の毛がまるで逆立っていく。・ ・・見ると白キツネもまるでさっきまであの蜘蛛と戦っていた時のような張り詰めたものになっていて、 あたりを警戒するようにその四肢に力を込め身構えている。
「何・・・この感じ・・・!?」
『・・・あいつだ・・・!だから早く離れようって!』
「え・・・あいつって・・・!?」
「・・・僕の事かな?」
「ッ!?」
突然背後から気配と声を感じると私は慌てて後ろを振り向いた。・・・正直声が出なかった。私が振り向いたその目の前・・・ 少し目線よりも高くに狼の顔が視界に入ってきたのだ。そしてその狼の口がゆっくり開く。
「初めまして、お姫様」
「な、いつの間に・・・!?・・・てかお姫様って・・・!?」
「戦姫というのは戦うお姫様の事だよ・・・ラベンダーフォックス」
狼はそう呟き小さな笑みを浮かべると、軽く大地を蹴って宙に浮かび上がる。そしてそのまま後ろに1回転しながらゆったりと着地する。・ ・・その狼の全身を見てようやく私は気付いた。まぁ、 そもそも狼が自分よりも目線が高く喋っている時点でおかしいって気付くべきかも知れないけど・・・。
「私と同じ・・・!?」
彼の全身を見て私は小さく呟いた。・・・彼は狼の顔を持ち、全身その狼の漆黒の力強い毛で覆われていて、手足には長く鋭い爪を持ち、 後ろにはゆったりと尻尾が揺れているが、その体躯は人そのもので2本足で立っている。・・・私と同じ、獣人。 狼はそんな驚いた表情を浮かべている狐獣人を見て再び小さく笑うと、すぐに表情を引き締めてその鋭い眼光を光らせながら口を開いた。
「・・・改めて初めまして、ラベンダーフォックス。僕の名前はウォルブレイン。・・・まぁ、見ての通り、君に近い存在さ」
「ウォルブレイン・・・?私に近い・・・?」
『一体何しにきたんだ、ウォルブレイン!』
「・・・何なのあいつ・・・私と見た感じ・・・似てるけど・・・?」
私は狼獣人の方を睨みながら横にいた白キツネに問いかける。
『敵か味方かで言うなら・・・敵』
・・・そうか、敵だからか。私はようやくこの緊張感の理由を理解した。狼・・・ ウォルブレインはなお余裕を持ってゆったりと立っているものの、よくよく見ればその全身の筋肉は常に張り詰めており、 いつでも再びすぐに私と間合いを縮められるように臨戦態勢をとっているんだ。その鋭い牙や爪で、いつでも私を捉えられるように。
「何しにきた、は無いだろう?僕と君の目的は同じはずだ、雪の防狐(さきもり)」
『同じ・・・?どういう事だ!』
「僕達は僕達の、君達は君達の戦力を確かめるのが今回の目的。違うかな?」
そういうとウォルブレインは私の方をちらっと見た。・・・どうやら、白キツネ・・・雪の防狐はこの白キツネのことらしいが・・・ 彼とっての戦力とは私のことらしい。戦う姫・・・それがラベンダーフォックス、つまり私だと2人は・・・いや2匹・・・?・・・兎に角、 どっちも私が戦うことを前提にして話をしているらしい。私の意志は無視で。・・・私はふぅ、と鼻から小さく息を吐き出すと、 防狐とウォルブレインを交互に睨みつけゆっくりと言葉を吐き出す。
「・・・なんかさ、お話してるところ悪いんだけど、まだ私は戦うなんて一言も言ってないし、私が戦い続けなきゃいけないの?」
『だから・・・言ったじゃないか、君が戦姫だからだって』
「だから何で私がその戦姫なのかって聞いてるの!」
「仕方が無いよ。君が紫の力を持って生まれたんだから」
ウォルブレインはその長く鋭い爪が生えた指先を私に向けて指差す。紫の力・・・そう言われ、指差された私は自分自身の姿を見直し、 さっき変身した時の事、戦った時の事を思い出した。私の身体を包みこのラベンダーフォックスの姿へと変身させたあの光。 私の手に宿りあの蜘蛛の化け物を焼き尽くしたあの炎。そしていずれの時も、確かに私は自分の内側に紫色の・・・漠然とはしているけど、 確かに力と呼べるものが溢れてくるのは感じた。
「でも・・・戦う戦わないは私の意志で・・・!」
「・・・それでも構わないけど・・・面白い例え話してあげようか?」
「・・・例え話・・・?」
「そう・・・例えば僕が世界破壊をたくらんでいて、君がそれを阻止できる唯一の存在だとしたら?」
「・・・!!」
「・・・まぁ、これは極端な例え話だけど、僕と君の関係を分かりやすく言うとそういうこと。 君が日常を守るためには戦うしかないって事。飲み込めたかな?」
ウォルブレインはまるで子供に何かを諭すように私にそう語りかける。日常を守るために私が戦わなければいけない・・・つまり、 私が守らないと、この町や・・・家族が・・・!?
『・・・確かに世界破壊は大袈裟だけど・・・さっき君が倒した蜘蛛を見ただろう?あれがもし人を襲ったら・・・!』
「ッ!!」
私は慌ててウォルブレインを睨みつけた。彼はその狼の首を少し横に傾けながらそんな私に言葉で返す。
「世界破壊っていうのは例え話だって言っただろう?僕は無益に命を奪ったりはしない」
「無益に・・・って・・・もしあなたにとって都合がいい場合なら命を奪うかもしれないって事・・・!?」
「・・・まぁ、有り得なくも無いね」
「そんな・・・!!」
『・・・こういう奴なんだ。こいつは』
防狐は半ば呆れたようにそう吐き捨てた。・・・どうやら彼らは初対面では無いらしい。かといって仲が良くないのは一目瞭然だ。 私がラベンダーフォックスになる前から彼らはこういう戦いを繰り返してきていたのだろうか?・・・それに私は巻き込まれた・・・?
「まぁ、こっちはこっちで得るもの有ったし・・・君の力は追々また分析していくとするよ」
ウォルブレインはそう言うと再び後ろへと跳び、屋上の端に立つ。私はすぐにそれを追うように駆けはじめた。
「待って!まだ聞きたいことが・・・!」
「・・・いつでも話は出来るさ。いずれまた、こうして出会うだろうしね」
「いずれじゃなくて、今聞きたい・・・ことが・・・ッ・・・!?」
私が元いたところと、ウォルブレインが立っている丁度中間の辺りまで来たところで、私は突然足を止め膝をついてしまう。・・・ 体が重い・・・!?
『ラベンダーフォックス!大丈夫!?』
「何・・・身体が・・・重くて・・・自由に・・・」
防狐が私の横に寄り添うように駆け寄り、私の顔を心配そうに見つめる。
「慣れない身体だからね・・・疲れたんじゃないかな?」
「疲れ・・・?」
「心身共に激しく浪費していくからね、その姿は。・・・覚えておくといいよ。紫の力は君が戦うための力でもあり、生命力でも有るんだ」
「・・・それって・・・?」
「その姿で無駄にい続ければ君の体力は失われていくって事さ」
「そんな・・・!・・・どうして・・・敵のはずの・・・あなたが・・・そんなことを・・・!?」
私は絶え絶えになりながらも言葉を続ける。ウォルブレインはまた、さっきのようなかすかな笑みを浮かべながら私の問に答える。
「つまらないからさ、君がいないと」
「・・・つまらない・・・!?」
「だって、誰かが僕に抵抗してくれないと、ワンサイドゲームじゃないか。今まではそうだったし」
ウォルブレインは本当につまらない、というような表情で防狐の方を見た。防狐は犬や猫のように全身の毛を逆立てて、 力強く唸り声を上げながらまるで威嚇するようにウォルブレインを睨みつける。・・・ やっぱり彼らには以前から何かの因縁があるのは間違いないらしい。しかし、ウォルブレインはまるでその様子を気に留めることなく、私の方を、 その輝く瞳を少し細めて言葉を続けた。
「・・・だから、余り無理しないほうがいい。これから、僕達との戦いに備えて」
ウォルブレインはそう言って私から目線を反らすと、後ろを振り向き私に背を向けた。 私は動かすのも難しくなってきた自分の体を何とか起こそうとする・・・が次の瞬間、 自分の体がさっき変身した時のような紫色の光で包まれている事に気付いた。
「え・・・何・・・!?」
『・・・時間切れだ・・・』
防狐のその声が聞こえた瞬間、私が身に纏っていた巫女服が急に紫色に光ったかと思うと、すぐにはじけるようにして消えてなくなり、 その中の狐獣人の姿である私の身体も手足が徐々に短くなっていき、紫色の光はまるで私の体の中に吸い込まれていくように引いていく。 その光が消えていくと共に私の毛色も紫から元のオレンジ色へと変化していく。私は突然の事に戸惑ってしまい、思わず声を上げる。
「キャゥ・・・!?」
・・・私の口から漏れたのは弱弱しい狐の鳴き声。私は完全に狐の姿に戻ってしまったのだ。しかも身体の自由は未だ戻らない。・・・ ウォルブレインの言う通り、ラベンダーフォックスの姿は体力を消費するようだ。慣れた狐の姿になって、 ようやく身体の重さが疲れによるものだと、はっきりと認識できた。防狐は私に寄り添い私の顔を心配そうに覗き込む。 ウォルブレインは顔を半分振り返り、横目で私達狐2匹を少しの間じっと見ていたが、やがて再び背を向けると小さく呟いた。
「・・・万全の君と戦うのが今から楽しみだよ」
ウォルブレインはそういうと軽く屋上の端を蹴ると、そのまま下へと飛び降りていった。・・・ 普通の人間だったら学校の屋上から飛び降りるなんて出来ないけど、ウォルブレインなら・・・いや、 ラベンダーフォックスになっている私にもきっと出来るだろう。・・・今でも信じられない、さっきの自分の身体能力・・・ あれがラベンダーフォックスの力・・・私は頭でそんな事を考えながら、すっかり狐のものへと戻った前足をゆっくりと見つめていた。 その時横から防狐が話しかけてきた。
『・・・大丈夫?』
『大丈夫・・・に見える?』
『だよね・・・ゴメンね、驚かせてばかりで』
防狐は申し訳なさそうにそう答えた。・・・そんな表情するぐらいなら初めから巻き込まないでよ・・・って言いたくなったけど、 さすがに気が引けて言えなかったりして・・・。そう考えているうちにさっきまでの張り詰めた気配はすっかりなくなっていた。 ウォルブレインはもう遠くまで離れていったらしい。防狐は落ち着いた表情を浮かべながらもゆっくりと辺りを見渡す・・・一応念には念を、 あたりの気配を探っているのだろう。いよいよ状況が安全である事が確信できたのか、小さく短くため息をついた。 私はそんな防狐をしばらく黙って見ていたが、私も身体が大分落ち着いてきたのを感じると、ゆっくりとその4本の足で立ち上がり、 防狐の方を見つめ問いかける。
『・・・さぁ、落ち着いたでしょ?・・・もう敵がやってくる様子もなさそうだし・・・ここで話してよ。どうしてこうなったのか』
『・・・そう、だね。君には・・・当事者だからね、知っておかなきゃいけない事は沢山あるから』
防狐はその瞳を太陽の光で輝かせながらそう語る。そして突然私に背を向けて少し歩きだし、すぐに私の方を振り返り声をかける。
『・・・こっちに来て。見て欲しいものがある』
私は言われるまま防狐についていく。そして防狐は屋上の端に立つと、少し遠く離れたところを見つめる。私の彼の横へと行き、 2匹の狐は屋上から眼下に広がる町を見下ろす。私は防狐の目線の先を追った。 防狐は私の目線が自分の目線とほぼ同じ方を向いたことを確認した後、私に語りかけた。
『あそこに神社があるの・・・見える?』
『・・・あの赤い・・・鳥居・・・かな?・・・あれのこと?』
『そう、あそこはこの半島に古くからある神社で、オキツネ様・・・地元の古い人はリョッコ様と呼ぶ者もいるけど・・・まぁ、 端的に言ってしまえば狐の神様かな・・・祀られてらっしゃるんだ』
『狐の・・・神様・・・?』
『そう・・・そして、僕が仕えるお方』
『あなたが仕えている・・・?』
・・・どうも見えない部分も多いけど、大体の概要は掴めた感じがする。私も彼も狐であり、オキツネ様はその狐の神様。
『・・・つまり・・・そのオキツネ様・・・ってのが、私がラベンダーフォックスってのに変身することに関係しているの?』
『・・・はっきり言えば、そのオキツネ様のお力を受け継いでいるのが君なんだ』
『・・・え、言っている意味がよく分からないんだけど・・・?』
『オキツネ様はこの地の守り神・・・この地を守護なさるお方。 だからそのお力は自らと自らの地や人をお守りになるために行使するものであって、戦うためにお力を行使なさる事は御出来にならないんだ』
『・・・つまりそのための戦姫って事?』
防狐は静かに頷く。・・・神様のことを悪く言いたくはないけれど、 それって出来ない事を戦姫に押し付けているだけのような気がしてしまう。そして今、その役目を押し付けられているのが私なわけで。
『それで、何で私がその戦姫なの?』
『だから、君があのお方のお力を受け継いでいるからだって』
『そこがよく分からないの。私は・・・さっきの・・・その、あなたの・・・あれ・・・キ・・・ス、で・・・ ラベンダーフォックスになったんじゃないの?』
『僕が口づけしたのは、君の中に眠る紫の力を解放するための流れを作るためで、僕が君に力を与えたわけじゃない』
『・・・でも、私にそんな力有るなんて・・・』
『ラベンダーの香りをかいで人間から狐に変身できる。それは君がラベンダーフォックスだという証拠だよ、青藤光音』
そう言われて私は慌てて防狐の方を見返す。・・・私の名前を・・・それだけじゃない、私しか知らないはずの秘密を知っている・・・ 何で・・・!?驚きの表情を浮かべた狐の顔を見て、もう1匹の狐はゆっくりと語る。
『・・・全ては決まっていた事だったんだ。君が力を受け継いだ事も、君がこの地へ来た事も・・・決まっていた事なんだ』
・・・防狐の話を私は頭の中でゆっくりと整理していく。私が狐に変身した始まり・・・北海道に来る事になった理由・・・ あらゆることを一つ一つ並べていく・・・やがて頭の中でモヤモヤしていたものが徐々に1人の人物の影を作っていく。思い返せば心当たる。 あのラベンダーの小瓶を送ってきたのも、今回北海道行きを強引に決めたのも。
『・・・父さん・・・!?』
『・・・君の父親である青藤大地もまた、オキツネ様に仕える一人だ。・・・と言っても彼は普通の人間だけどね』
『父さんを・・・知ってるの?』
『何度か会った事あるよ・・・まぁ、仕事仲間みたいなものかな?』
・・・父さんの仕事ってこういうことだったんだ・・・でも、だとすれば私をこんな事に巻き込んだのは、ここにいる防狐じゃなくて・・・ 父さん・・・!?
『・・・今度家に帰ったらみっちり問い詰めてやる・・・!』
『・・・兎に角、君がラベンダーフォックスに変身することは決まっていた事なんだ。だから・・・』
『だから諦めて戦えって言うの?・・・冗談じゃない』
私は自分でも少しきついかな・・・と思うぐらいの口調で防狐の言葉を遮った。そして少し間をおき言葉を続ける。
『・・・いきなりキスされて、よく分からない姿になって戦え、それは前もって決まっていた事だから仕方が無いこと。・・・ なんて言われて納得できると思う!?』
『分かってるけど・・・本当に決まってた事だから仕方が無いんだ。君が戦わないと・・・』
『私が戦う必要が有るのは十分に伝わってるけど・・・私が納得してないのは、私の意志も無視して全てが決まっていたって事・・・ 私のことは私が決めるのは当然じゃない?』
『そりゃあ、そうだけど・・・でも君は戦う事が・・・』
『あぁ、もうしつこい!・・・ちょっと考える時間が欲しいだけなの。・・・急にみんなを守るために戦えって言われても、 ピンとこないし・・・少しだけ、考えたいの・・・別にいいでしょ?どうせ私は逃げたりしないし』
防狐はその目を細め少し考えるように頭を下げていたが再び頭を上げ私の方を見つめると、無言のまま小さく頷いた。・・・ やっぱり急に戦えって言われても、今までの私は狐に変身できるだけの普通の中学生。これからもそのつもりでこっちに来たのに・・・ やっぱり父さんの話を聞いた事と北海道に関わった事は選択ミスだったと、今更ながら、少し、後悔・・・。
『・・・とりあえず、一度に全部詰め込んでも大変だと思うから・・・追々説明していくよ、確かに・・・ 君の心が落ち着く時間も必要だと思うし』
『うん・・・』
私はまだ少し納得できない表情を浮かべながらも、小さく頷く。・・・少し頭を冷やそう。私はゆっくり身体を伸ばし、 時々吹く優しい風にその耳や尻尾を揺らした。とりあえず今日のところは早く家に帰ってゆっくりと考える時間が欲しい。私はそう思いながら、 重い足取りでさっき服を隠したところへと歩いていく。・・・まずは元の姿に戻ろう。そう思い私は気持ちを落ち着け、集中して、 人間に戻ろうとする。そしてすぐに私の身体に変化が・・・。
変化・・・あれ・・・?
・・・いつもみたいに、人間に戻ろうとしているのに・・・私の身体はいつまでたっても狐のまま・・・変化が無い・・・?
『・・・何で・・・!?』
私は自分の手・・・じゃなくて、前足を見つめて少し呆然としてしまったけど、すぐに防狐の方を振り返り無言で睨みつけた。
『・・・そんな怖い顔で見なくてもいいじゃないか・・・!』
防狐はゆっくりと私のほうに歩み寄ってくる。
『・・・多分、人間の姿に戻れないのは、さっきも言ったとおり、その身体が疲れているからだと思う』
『・・・じゃあどうすれば戻るの?』
『多分・・・疲れが取れれば・・・紫の力が落ち着けば元に戻れると思う』
『・・・多分・・・思う・・・そんな言葉ばっかりだね』
『実際僕もラベンダーフォックスっていう存在は君が初めてなわけで、僕でも分からないことも多いよ、実際』
防狐は少し俯いた後、すぐに上を見上げ、どこか遠くを見つめるような目を天に向ける。
『・・・だから、僕がいるんだ』
『・・・え?』
『まだ力が不安定な中で戦う君を守り、導くために僕は君を守る狐・・・防狐になったんだ』
『・・・その・・・さきもり・・・ってあなたの名前じゃないの?』
『防狐は攻めの力を持つ戦姫をサポートするために、オキツネ様が自らの守る力を分け与え戦姫に付き従う狐のことを呼ぶんだ。・・・ まぁ、みんながそう呼ぶから名前のようなものだけど』
私はふぅん、と鼻で答えると、何と無くじっと彼の顔を見つめてみる。
『・・・何?』
『いや・・・防狐・・・って言い辛いなぁって。・・・さっき雪の防狐って言ってたでしょ?”雪の”ってどういうこと?私の”華の” もそうだけどさ』
『・・・まぁ、簡単に言えば単なる形容かな。戦姫である君と、防狐である僕に力を現した』
『・・・じゃあさ、あなたのことユキって呼んでいい?』
『え?』
『だって、防狐、だなんて堅い呼び方よりもそっちの方が親しみ易そうじゃない』
防狐は少し困った表情で考えていたが少しして顔を上げて私の方を見る。
『・・・いいよ、別に呼び名だから好きに呼んで。・・・まぁみんな防狐の方で呼ぶから、余り呼ばれなれないけど・・・』
『ううん、ありがとう。ユキ・・・これから宜しくね』
私はそう言って自分の前足を彼の目の前に差し出したが、咄嗟に防狐・・・ユキの戸惑いに気付き言葉を続けた。
『・・・あ、狐だから握手なんて習慣無いか』
『ううん、防狐って立場上、人間と付き合うことも多いし・・・』
ユキもその前足を上に上げると、私の前足の平と重ね合わせた。・・・さっきいきなりキスされたときは驚いたけど、 何だかんだで結局こうして私とユキは身体を再び触れ合わせた。極普通の中学生活を送るつもりだったのに、 いきなり変身して戦えって言うのも無茶苦茶だけど・・・。
『で、宜しくってことは戦ってくれるって事?』
『・・・それとこれとは別・・・考える時間がほしいって言ったでしょ・・・』
・・・頭痛くなってきた。ユキって・・・悪い人・・・違った、悪い狐じゃないんだけど・・・どうも変にマイペースでしつこいなぁ・・・ 。多分、それだけラベンダーフォックスとして戦うと言う意味が重要だからだろうけど。
『・・・でも、人間に戻るまでまだ少し時間あるから・・・それまで身体を休めなよ。その間僕が君の事を守るから』
『・・・お言葉に甘えようかな・・・本当に、疲れてるみたいだから』
私は自分の着ていた服の上に立ち、口と前足でそれを動かし、服に包まるようにして身を丸めた。・・・ユキ達に邪魔された、 お昼寝の続き。暖かい春の日差しの中、自分の服と柔らかな風に包まれ、1匹の狐がゆっくりとその意識を安らぎの海へと浮かべていく。 その横で白い狐が見守るようにその狐を見つめている。激しい戦いがあったことが嘘のようにしずかな学校の屋上で、2匹の狐は静かで、 優しい春の時間を過ごしていた。
ラベンダーフォックス 第2話「黒狼急襲!真犯人は父さん!?」 完
第3話へ続く
それこそ「只ある敵を倒せば終わりではない」ではすまない位に。
もしかするとこちらの世界のエキノコ怪人は「強引な介入者」と言うオチもありそうですね。
しかし、サブタイを見て父親が正体か?と思ったのはお約束です。
それはともかく、ユキとの関係も気になる展開です。
パワーダウンすると人には戻れない…まさかあの時点で人に戻るのではなく「人に擬態するエネルギーが足りない」と言う事になっているオチは…(おい)
ムチャな感想すみません。
次回も楽しみにしています。
★宮尾レス
カギヤッコ様コメント有難う御座います。
ウォルブレインの正体はまだまだ謎です。敵であることには違いありませんが、敵を倒すことが勝利となるわけではないようです。。。
父さんは・・・何も言いません(マテ
ユキとは微妙な関係がスタートです。これからどうなることやら。お互いに苦労しそうな感じでw
>人に擬態するエネルギーが足りない
コレはコレでも面白いかもしれないですね。。。既に完全な狐になっちゃってるって言うのもwでも、今回はそれはなさそうです。
その地を守るリョッコ様、狼さんの方とはどのような因縁があるのか。そしてそれに仕えるユキ、その力を娘に受け継がせた父親…。
サブタイトルに自分はユキが父親かと思ったり…;。
舞台設定も見えてきましたし、これからどのように進んでいくのか楽しみです。
★宮尾レス
都立会様コメント有難う御座います。
ウォルブレインは何となく人狼を出したくて(エ
それぞれの関係は追々ゆっくりとストーリーの中で解説されていきます。。。
父さんは・・・何も言いません(天丼
いよいよ3話目からラベンダーフォックスとしての活動が本格化するかもしれないししないかもしれません。。。