2006年02月03日

μの軌跡・逆襲編 第9話

μの軌跡・逆襲編 第9話「エリザ」

【人間→ポケモン】

朝の森はまだ静かだった。いつもと変わらぬ鳥ポケモンの鳴き声が遠くから聞こえてくるが、 草むらの中で未だ意識を睡眠という海に泳がせていた2匹の小さなポケモンにはそれは聞こえていなかった。 さすがにまだ昨日の疲れが残っているのかもしれない。2匹が出会ってから、昨日ほど多くのことがあった日は初めてだった。 ただ楽しく2匹で毎日を過ごせればそれだけでよかった。人間に戻れるかどうか分からない不安も忘れる事が出来た。でも、 足踏みをしていたら危機は背中まで迫っていて危うく彼女たちの全てを飲み込もうとした。しかし、彼女たちはそれを拒んだ。 そして人間に戻る活路を見つけるために、ミュウに関する僅かな手がかりを求めるために旅立ったのだった。そして今、 2匹は静かなせせらぎを辺りに響かせる川の近くの草原で小さな寝息を立てている。しかしその時、そのうちの1匹、 薄桃色の身近な毛に覆われたポケモン、ミュウが突然目を開いたかと思うと、耳をピクピクと動かし辺りを見渡した。そして何かに気付いたのか、 直後に隣で寝ていた緑色の草ポケモン、チコリータに声をかけ彼女を起こそうとする。

 

『エリザ・・・起きて、エリザ』

『・・・何・・・どうしたの、セイカ・・・?』

 

エリザはまだ眠そうに半分以上閉じた瞳でセイカを見つめる。セイカはエリザに頬を寄せるようにぴったりと近づき声を潜めながら呟いた。

 

『・・・ほら・・・何か感じない・・・?』

『え・・・?』

 

エリザはセイカにそう言われてようやくまだ眠い頭を無理やり起こすと、セイカが見つめるのと同じ方向を見て気配を探る。 すると確かに遠くから何かが近づいてくる気配を感じる事が出来た。

 

『・・・ね、何か・・・来るでしょ・・・?』

『・・・』

 

確かにセイカの言うとおり、何かが近寄ってくる気配がエリザも感じる事が出来たが、 しかしエリザはその気配の事よりもセイカの方に驚きを感じていた。昨日はアレだけ森がざわついていたのに気付く事が出来なかったセイカが、 今は自分よりも速く、コレほど些細な気配の流れを感じ取ったのだ。・・・あの時の突風といい、確実にセイカの中で何か・・・明確に言えば、 恐らくミュウが・・・確実に目覚め始めている、そういう解釈も出来る。エリザは横で同意を求めるセイカを見つめていたが、 エリザがあまりに無言のままのためセイカは再び問いかける。

 

『ねぇ、やっぱりどう思う?』

『え・・・あぁ、うん。大丈夫だよ、この気配なら・・・』

『この気配・・・?』

 

ミュウは首をかしげこちらを見てくる。どうやら、気配を感じる力は高まっているようだが、 やはりその感覚に完全にはまだ慣れていないようだ。その気配はどんどん近づきその姿を現した。・・・ しかしエリザはその気配の質や流れから既に近づいてくるのが何なのか気付いていた。もっとも、自分の親代わりのような存在なのだ、 気付かないはずがない。その大きな影は2匹を見つけると低い声をうならせて話しかけてきた。

 

『その傷だらけの身体でよくここまで逃げたものだ・・・』

『ジュテイこそ。何でわざわざ来たの?』

 

エリザはその大きなフシギバナ、ジュテイの方を見つめながら答えた。 その横でセイカは近づいてくる気配に対して張り詰めていた緊張が解けたのか、腰を落とし彼女もまたジュテイの方を見つめていた。 そしてジュテイも2匹を見つめながらエリザの質問に対して問い返した。

 

『それを言うならこっちのセリフだ。何故勝手に森を出て行こうとした?』

『ミュウの手がかりが分かったの。もしかすると、セイカを人間に戻す事が出来るかもしれない』

『敵から貰った情報を易々と信じるのか?』

『・・・どうしてそれを・・・!?』

 

エリザは一瞬、あのハガネールとの一幕を目撃されたのかと思ったが、しかし今だってジュテイの気配はすぐに分かった。 あの時近くにいたのなら自分がその存在に気付かないはずは無い。驚きの表情で思考を巡らせるエリザだったが、 対照的にセイカはどこか落ち着いていた。・・・冷静に考えれば決して導き出せない推測じゃない。 自分が襲われてからこうして手がかりのある家を目指すため森を出ようとするまでに情報を得る事が出来る元なんて、 あの時自分を襲ってきた人間か、彼らが連れていたポケモンしかないのだ。確かに、敵から得た情報など信じるべきではないのかもしれない。 しかしセイカは、例え何にすがってでも人間に戻りたかった。そして強い意志のこもった瞳でジュテイに訴えかける。

 

『・・・たとえ・・・自分を襲ってきたポケモンに教えてもらったことでも・・・今の私には数少ない、人間に戻る手がかりだから・・・』

『罠かもしれないとは・・・思わなかったのか?』

『・・・彼の言葉に敵意が無かったから』

 

セイカの瞳ににごりは無かった。あのハガネールを、ガルガを彼女は間違いなく信じてる。いや、信じたいのだ。例え僅かな望みでも、 そこに可能性があるのなら。その決意を感じ取ったのか、 ジュテイは一度鼻から小さく息が漏れたがすぐに呼吸を整えその低い声でセイカに語りかける。

 

『・・・ミュウの子、まだお前は自分の事を知らなさ過ぎる。勝手に動くのは危険なことは理解できるはずだ』

『でも・・・動かなくたってきっとまた襲われる・・・昨日がそうだったように』

『・・・だから、先に動くのか?』

『・・・自分のことがよく分からないから・・・だから知りたいの、ミュウの事・・・それに・・・』

 

セイカは言葉を止めてエリザの方を振り向く。・・・ガルガはセイカの事、 ミュウの事を話しているときでもしきりにエリザを気にしているようだった。まるでエリザの事も知っているような・・・。もしかすると、 ミュウの事を知る事、ガルガの言葉を信じる事で、エリザの記憶の事も何か分かるかもしれない。 エリザは未だになぜガルガとのことをジュテイが知っていたのか腑に落ちないという表情を浮かべていたが、 セイカの視線に気付くと彼女の方を振り返り首をかしげながら問いかける。

 

『・・・どうしたの?』

『ううん・・・何でもない、大丈夫』

 

・・・エリザが記憶を失っている事を自分が知っている。別に隠す事ではないのだろうけど、 エリザ自身が記憶を失っている事をセイカに言っていないのだから、知っているのも気にかけているのも不自然だろう。セイカは笑顔で答えた。 そして再びジュテイの方を振り返り話しかける。

 

『・・・それに何処に行ってもきっとあの人たちは私を襲う。ここにいれば・・・これ以上、森のみんなを巻き込みたくないの』

『・・・そこまで言うなら止めはしない・・・だが・・・』

 

ジュテイは更に神妙な表情で2匹を見つめ、声の調子を強めて問いかける。

 

『・・・それで何処に行くのだ?』

『え?』

 

その単純な質問に思わずセイカは返答に困るが、すかさずエリザが答えた。

 

『その敵から、ミュウの研究をしていた人の家に行くの』

『その家はどこに?』

『あの山の向こうにある、町外れの大きな家・・・って言ってた。多分』

『・・・で?それが大体どの辺りなのか分かっているのか?』

『・・・』

『・・・?』

『・・・あぁっ!?』

『・・・分かってなかったのか・・・』

 

エリザのしまった、という表情が全てを物語っていた。 今の今までその家のまともな位置を聞いていなかったことに気付いていなかったのだ。戦いで疲れていたとはいえ、 そんな基本的なことを見落とすほど2匹はミュウの事で頭が一杯だったのだ。・・・ もっともそれだけの情報しか伝えていないガルガもガルガなのだが。ジュテイは呆れた表情で深く一つため息をつき、そして再び2匹を見つめる。

 

『まぁ・・・いい。その家まで案内しよう』

『・・・え?』

『ミュウの研究をしていた人間の家なら知っている。多分、敵が言っていたのもそこのことだろう、 確かに山の向こうの町に住んでいたからな』

『本当!?さっすが物知り!ジュテイが一緒なら心強いよ!』

 

エリザは喜びの表情と声を上げる。しかし一方のセイカは、確かにジュテイが一緒である事を心強く思ってはいたが、 どうしても納得いかなかった。何故その家をジュテイが知っているのか。いくらジュテイが物知りだからとはいえ不自然だった。 ジュテイとガルガがなぜミュウに関して共通の知識を持っているのか、ましてジュテイはエリザにとって育ての親・・・。 セイカは頭の中でいろいろな事を組み立てていく。そして考えられる一つの仮説・・・仮説と呼べるほどのものでもなく、しかもおぼろげだが・・ ・エリザとミュウ・・・何かの関係が有るのではないかと、思わざるを得ない。そしてそれを知っているジュテイにガルガ・・・ 自分を狙っている人間たち。・・・全ての出来事は間違いなく自分が中心になっているはずなのに、セイカには知らない事が多すぎた。 しかし自分の事だから知らなかった、で終わる事は出来ない。兎に角ミュウに向き合っていくしか人間に戻る方法は無いのだから。

 

『じゃあ早速向かおう。まぁ、歩いていくとまだ数日はかかりそうだが』

『そっか・・・まぁ、焦らず行こうよ!希望はあるんだから!』

 

2匹に言われてセイカは静かに頷き、そして3匹は揃って森の中を進み始めた。

 

 

 

『・・・やっぱり、納得できない・・・!』

『何がだ?』

 

昨日戦闘を繰り広げた森の中、ようやく合流できた捕獲部隊の人間とポケモン達が集まる中、 カイリキーのイルが4本の腕を組みながら苦悶の表情を浮かべながら、小さくながらも力強く呟いたその声を近くにいたガルガが聞き取り、 そして問いかけた。

 

『マスターの戦い方・・・俺はともかくとしても、なぜブーバーとスピアーがあのフシギバナに大敗を喫さなければならない?確かに、 あのフシギバナは強かったようだが・・・もっと接戦には出来たはずだ』

『そういう作戦だからだ』

『だから、その作戦が納得行かない。・・・アレはマスターの戦い方じゃない』

『・・・イル、もうロウトは昔みたいにフリーでバトルだけをしているわけじゃない。コレは仕事、任務なんだ。 それはお前も分かっているだろう?』

『・・・そのセリフ、そのままアンタに返す』

『何・・・?』

 

イルにそう言われ、ガルガの表情が変わった。

 

『・・・アンタだって、任務を果たさず、昨日戦わなかっただろう?・・・それも納得できていない』

『ミュウは・・・お前たちが思っているような単純なポケモンじゃない。・・・特にあのミュウは』

『その言い方・・・やっぱりアンタ、何か知ってるんだな?』

『お前よりも長くロウトのポケモンだった・・・それだけのことだ』

『・・・俺を捕獲する前の・・・俺と出会う前のマスターに・・・何か関係あるのか?』

 

イルはガルガに喰いかかるようにして問いかける。決して興味本位ではなく、ロウトの事で知らない事はないつもりだったイルだったが、 考えてみれば出会う以前のロウトのことはあまりよく知らなかったため、出来るだけ少しでもロウトのことで知らない事は減らしたかったのだ。 その姿を見たガルガは少し間をおいた後ゆっくりと語り始める。

 

『・・・近いうちに・・・お前には話す』

『何故・・・何故今話してくれない?』

『時期が早すぎる・・・何もかもが・・・』

 

そういうとそれっきりガルガは黙り込んでしまった。イルもまたその様子を見てもう何も言わなくなった。・・・ イルは自分が絶対の忠誠を誓っているロウトのことを、自分よりもガルガのほうが詳しい事に、 自分でも恥ずかしい事だがわずかばかり嫉妬をしてしまっているのかもしれない。 ガルガのほうがイルよりもずっと前から彼のポケモンだったのだから、当然といえば当然だったが、 最近ロウトはどんな時でも最低イルだけは連れて行動するようになり、 彼のポケモンの中で自分が最も信頼されているポケモンである事を自負していただけに、 自分の知らないレベルで何かが進行しているのは正直面白くなかった。ガルガもまた、イルのその感情は理解していたが、 まだ彼に真実を告げる事が出来る段階には物事が達していないと考え、それ以上のことは何も伝えなかった。 2匹はお互いの内に抱える感情を探りつつ、何だかんだで2匹並び、無言のまま果てない森の向こう、 ミュウが逃げたと思われる方を見つめていた。

 

「・・・いいのか?あいつらモンスターボールに戻さなくても」

「あぁ、あいつら対してダメージ負ってないから、むしろ出していた方が気分が落ち着くと思うから」

「・・・そうか・・・」

 

ゼンジはロウトのポケモン達を見ながら彼に話しかけた。手にはこの地域の地図が握られていた。 そして視線を地図に落とし現在地や目的地の確認をしながら、ロウトとの話を続けた。

 

「・・・ロウト・・・次の目的地は・・・」

「あぁ、分かっている。ミヤマ家なんだろ?」

「気付いてたか・・・」

「気付かないと思った?・・・きっと、あのポケモンがミュウなんだろ?」

「らしいな・・・」

 

さすがに察しがいい。どうやら、ロウトがこの任務に選ばれた本当の理由をお互い何となく気付き始めていた。 ロウトは珍しく真面目な表情で考え込みながらもゆっくりと言葉をつなげていく。

 

「・・・ミュウ・・・ミヤマ家・・・ソウジュさん、全部知ってた上で俺をここに向かわせたんだな・・・」

「辛いなら・・・降りてもいいぞ?任務に私情を挟んで支障をきたすぐらいなら・・・」

「大丈夫だって。おっさんは心配性だな。俺はただ・・・」

 

さすがのロウトも、何かこみ上げるものがあるのか少し言葉がつまり間があいた。そして静かに、力強く語る。

 

「俺はただ、エリザとの約束を果たすだけだ」

「・・・ミヤマ博士の妹か・・・1年前に死んだ・・・」

 

普段は強気で減らず口ばかり叩くロウトの、沈んだ声を聞くと、ゼンジもいたたまれなくなってくる。 ロウトは一度グッと背伸びをすると大きく深呼吸をして天を仰いだ。雲ひとつ無い青空が、彼の心とは対照的でどこか虚しかった。しかし、 そんな下らないことばかりは言ってられない。今の自分に課せられた任務は、ミュウの捕獲。それ以外のことは最早考えるべきではない。 自分にそう言い聞かせ、ロウトはゼンジの方を振り返り語り掛ける。

 

「・・・多分、あのミュウとチコリータ・・・あとはフシギバナか、あの様子なら博士の家につくまで数日かかるだろうし・・・ コレからどうするんだ?」

「とりあえずは先回りは出来るだろうが・・・あっちだってその事は承知だろう。ミヤマ家が結果的に決戦の地になるだろうな」

「・・・だな・・・」

 

空を見つめたままロウトは静かに呟く。そして心の中で呟きを続ける。

 

(エリザ・・・俺は・・・ミュウを捕まえて・・・いいんだよな・・・?)

 

答えるはずの無い問いを空に向かって投げかける。当然何も返ってこない。それどころか森は風さえ吹かず奇妙なほど静かだった。 その事がロウトの心にいっそう言い知れぬ焦燥感をからせていた。

 

 

μの軌跡・逆襲編 第9話「エリザ」 完

第10話に続く

posted by 宮尾 at 02:22| Comment(1) | μの軌跡(ポケモン・→) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お待たせしました。約1ヶ月の休載を経てμの軌跡連載再開です。短いのですが、キャラのみんなが衝撃発言連発、ていうかセリフだらけだなオイ。もっと文章組み立てる力つけないとw
Posted by 宮尾@あとがき at 2006年02月03日 02:24
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