PBE Beginning 第1話
【人間→ポケモン】
PBE・・・Pokemon Battle Entertainment。 十数年前に私たちの国で起こったエンターテイメント集団の一つで、 文字通りポケモンバトルを一つのエンターテイメントとして興行し高い人気を誇る。その特徴はただバトルを見せるのではなく、 派手な演出や効果など従来のトレーナー通しのスポーツとしてのポケモンバトルには無かった要素を取り入れて一つのショーとして完成させている点や、 そもそもトレーナーを始めとする人間を舞台から殆ど廃し、そのバトルはトレーナーが直接指揮を出さないにもかかわらず、 ポケモン達は考えられた技やパフォーマンスを繰り広げ、集められた観客を、いや最近ではテレビなどのメディアを通じて世界中で見る事が出来、 その人気は世界的な地位を獲得し、老若男女問わず様々な人々を魅了していった。 特にそのバトルの主役であるポケモン達はトレーナーの指示が無いのに盛り上げ方を熟知し、まるで舞台で演じるように戦う姿に注目は集まり、 また普通じゃ捕獲困難なポケモンもショーに登場し、一体どのようにポケモンを調達し調教しているのか関心が高まっていったが、 PBEはその詳細を明かす事は無かった。いや、PBE自体がコレほどまでに知名度が高いにもかかわらず、 その内部的な部分については謎が多かった。しかしその謎が益々PBEへの人気と注目を集めていった。
かく言う私も、そんなPBEのファンだった。小さい頃から、公演には足を運び、ポケモン達の繰り広げる熱いバトルに魅せられていった。 その感動は年齢を重ねても覚めることなく、18になった今年、ハイスクールを卒業した私は何とPBEのメンバーとして加わる事になった。 毎年PBEは若干名だけスタッフの募集を行っている。しかしその倍率は300倍近くとさえ言われ、 夢をかなえるために願書を出した私も心のどこかでは、記念受験と言うか、 決して軽い気持ちで受けたわけではないが少々諦めかかっていたのは事実だった。だから、 試験の後合格の通知が届いた時は嬉しさ余って軽く気絶しかけたぐらいだった。 自分が憧れていたPBEで働く事が出来ることは自分にとってこれほどに無い幸せだった。・・・ただ少し不安もある。それはPBEの謎。 これから自分がここで働くというのに、私はまだ自分がどのような仕事をするかを知らされていないのだ。ショーで使っている珍しいポケモン・・ ・まさか違法に入手していてそれを私がやる。・・・なんてよくない事も考えてしまう。・・・ダメダメ、そんな事考えちゃ。 今は兎に角合格した事を喜び自分に与えられる仕事を精一杯こなすだけ。 私はそんな決意を胸に勇み足でPBEの総合事務所のあるビルに入っていった。
「ようこそ、PBEへ!」
入り口の自動ドアが開いた途端、カウンターに居た受付嬢が明るく挨拶をしてきた。私は自分の身分証明書と合格通知書を彼女に提出し、 今日からここのスタッフとして働くためにきた事を伝えた。受付上はかしこまりました、と一言いい、 私に事務所内の地図と今日1日の簡単なスケジュールと言うか、流れが書かれた紙を手渡し奥の控え室で待つよう言ってきた。 私は彼女に言われたとおり廊下を進み、新人控え室と書かれた部屋のドアを開けその中に入る。部屋には既に3人の、 私と同年代の男女が部屋においてあるイスにばらばらに座っていた。部屋に入ってきた私のほうを彼らが見たので私は小さく首を下げ、 適当なイスに腰をかけた。さっき渡されたスケジュールを見ると、このあと説明会があるようだが、まだ10分ぐらいあるようだった。 その時先に部屋に居た3人のうちの一人、唯一の女性が私に話しかけてきた。
「貴女も合格者よね?隣いい?他の二人男だったから話しづらくて」
「えぇ、どうぞ」
「サンキュ。私、ユカリ。貴女は?」
「カナです」
私は自分の名前を名乗った。ユカリさんは私のほうを見つめながら私の隣のイスを引きそれに座った。
「いい名前だね。宜しくね、カナ」
「こちらこそ」
「でも、よかったぁ。正直このまま女私一人だったらどうしようかと思ってて」
「私も、女の人が他にいてほっとしました」
私とユカリさんは女同士ということも有ってかすぐに意気投合できた。 聞けばユカリさんも小さい頃からPBEに憧れてここを受けたのだという。年齢は私よりも2つ上の20歳だった。じゃあ、 私のほうがチョットだけお姉さんね、とユカリさんは笑った。私たちがお互いの緊張をほぐすために他愛も無い話をしている時、 ドアが開き人が入ってきた。その姿を見て私は少し驚いたが、いつもの調子で声をかけた。
「リョウ!貴方も受かったの!?」
「カナ?お前も来てたのか」
リョウは私のほうに向かって歩いて、私の隣に居たユカリに軽く頭を下げると、そのままユカリさんとは逆の方の私の隣に座った。 ユカリさんは私に聞いてくる。
「ねぇ、二人は知り合いなの?」
「えぇ、彼はハイスクールの時のクラスメイトで」
「リョウです。貴女は?」
「ユカリ、宜しくね」
二人は私をはさんで挨拶を交わした。ユカリさんは私たち二人を見て話しかけてくる。
「でも、珍しいね。こんだけ倍率高くて同じ学校から二人も合格するなんて」
「ですよねー。私もビックリした」
「いや、俺の方が驚いているよ」
そして3人でまたいろいろ話をしていると、再びドアが開き更に男性が入ってきた。彼も合格者のようだ。 彼は無言のまま私たち3人とは反対方向に位置する端の席に座りそのまま微動だにしなかった。そしてしばらくすると説明会の時間になり、 時計がその時間を指すのとほぼ同時にスーツを来た男女3人が私たちが待つ控え室に入ってきた。 そして真ん中の男性が一つ咳払いをしてこちらを見つめる。・・・私はその男性にどこかで見覚えが有ったと思ったが、 直後の彼の名乗りですぐにハッキリした。
「新人の皆さん、初めまして。PBE代表のオサカベです」
そう、小さい頃から憧れていたPBE、それを全て指揮する最高責任者が彼だった。どこかで見た、どころではない。 テレビや雑誌で何度も見ている顔だった。と言っても表にあまり出てくる人ではないのではっきりと映る事は少なく、 そのために一目見ただけでは気付かなかったのだ。私たち6人の新人はいきなりの大物登場に流石に緊張を隠せなかった。 その様子に気付いたのかオサカベ代表は笑みを浮かべ私たち1人1人をゆっくりと見ていくと再び話し始める。
「大丈夫。気を楽にしていいよ。これから皆さんは私達PBEのメンバーとして時に仲間、 時に家族のようにして接していく関係になりますから」
家族、かぁ。私はその言葉にここで働いていく上での不安を打ち消す安心感を感じていた。そしてオサカベ代表はPBEの歴史や方針、 理念などを語って言った。私はその話を熱心に聞いていた。自分が憧れていた人の話なんてメッタに聞けるものじゃない。 彼の言葉の全てが私の脳に焼き付いていった。しかし、中々肝心の話に触れない。これから私たちがつく仕事についてだ。 結局彼はその事には一切触れず、最後に私たちを激励した後残り二人の男女を残して部屋から出て行った。
「ではここから先は私、PBEの副代表を務めておりますサイバラから、皆さんの活動拠点となります当団体事務所と、 皆さんの職場での担当者を紹介したいと思います」
残った二人のウチの女性の方がオサカベ代表が部屋から出て行ったあと、私たちに告げた。そして私たちについてくるように言い、 彼女も部屋のドアを開けた。私たち新人6人はサイバラ副代表につれられて部屋を後にし、事務所の中を案内されて回った。 そしてその後一度ビルを出ると、裏手の大きな敷地に連れて行かれる。するとそこには小さいものの立派なドームがあった。
「アレは普段ポケモン達が練習をする場所です。後ほどご案内しますので、今はこちらへ」
サイバラ副代表はドームから視線を戻すと再び歩き始める。そしてその裏には大きな建物があった。どうやらここが社員寮らしい。
「ここが皆さんが生活し、また普段色々指導受けたり仕事の話をする際の場所です」
サイバラ副代表は私たち新人を連れてその施設内に入る。すると施設内には人間やポケモンが行き交っていた。 人間とポケモンが共同生活している、 ポケモンはモンスターボールに入っているものだと一般常識にとらわれていた私にとってこの感覚はとても新鮮だった。 そして私達は階段を3階まで上っていき、長い廊下を進んでいくと、自分の名前が書かれた部屋の前に連れて来られた。 他の6人もそれぞれの部屋の前に立つ。新人は全員別々のようだが、それぞれ共同生活をするらしく、自分の名前の上に別の名前が書かれており、 私の名前の上にはマイと書かれていた。
「今日から皆さんに生活していただく個室です。皆さんは先輩と同室で生活してもらい、その先輩が仕事での皆さんの指導役も務めます」
サイバラ副代表はそう説明すると、後の事はそれぞれの指導担当となる先輩から説明があるので、 部屋に入り説明を受けるように私たちに告げた。私は意を決し、ドアノブを掴んだ。緊張と興奮で手は汗ばみ、 金属のドアノブが少し滑ってしまう。もう一度しっかりドアノブを握り返しまわす。そしてゆっくりとドアを引き部屋の中に入っていく。 そして一歩一歩部屋の中に入っていくと、中では1人の女性がイスに座って私のほうを見つめていた。 彼女は私のほうを見つめて頭の上からつま先までなめるように見つめてくる。そして一息つくと、うん、といって1人で頷く。 黙ってずっと立っていた私だったが気になって聞いてみる。
「あの・・・何を・・・?」
「あ、あぁゴメンね。まずはどんな身体してるのかなって見てて」
「はぁ、」
「じゃあ自己紹介。私はマイ。ここは19のとき入ってきて今年で23、5年目ってことね」
「私、カナです。宜しく御願いします」
「カナ、ね。よっしゃ覚えた!じゃあ早速説明だけど・・・」
マイ先輩はそういってイスから立ち上がるとイスの横に置いてあった紙袋から何かを取り出し始めた。それはやや紫がかっているものの、 色で言えば黒く、よく見ると人の形をしている。全身タイツか何かだろうか。
「・・・何です?それは」
「コレがこの仕事で一番重要なアイテム!まぁ、今から使い方教えるから」
「ちょ、ちょっと待ってください!私まだ、何の仕事をするかさえ聞いてないのに・・・!」
「うーん・・・私口で説明するの苦手なんだけどな・・・」
マイ先輩は頭をかきながら面倒臭そうな表情を見せた。・・・ひょっとして、この先輩・・・。
ハズレ?
なんて失礼な事を思ってしまう私。しかし、マイ先輩は露骨に不安そうな表情を浮かべてしまっている私に気付く事すらなく、 どうするかどうするかと考えているようだったが、とりあえず説明文が頭で出来上がったのか私のほうを振り返り語り掛けてきた。
「そうだね・・・この仕事を一言で言えば・・・」
「・・・はい・・・」
「・・・スター?」
「・・・ハイ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう私。しかし相変わらずこちらの事は構わず先輩の熱はどうやらヒートアップしていってるらしい。
「そう、スターよ!これから貴女はスターになるの!全国の、いえ、世界のPBEファンが貴女を見るのよ! そして貴女はその美しい姿と愛くるしい笑顔で人々を魅了していきあなたに憧れる子供たちが貴女のようにPBEを目指す! するとPBEは益々発展!貴女はその発展を担った大スターとしてPBEの歴史に刻まれるの!勿論指導した私の名前もね!・・・凄い! ビジョンが見えて来たわ!やれる!あなたと私ならやれるわ!」
マイ先輩は私の肩を掴みぐんぐんと私の体を揺すった。・・・私の脳みそまで揺れる。やっぱりこの先輩は・・・。
ハズレ?
というかこの人、大丈夫?
私は先が思いやられた。普通こういう言葉は、出来の悪い後輩を持った先輩が使う言葉なんだろうけど。 マイ先輩は流石に不安そうな表情を浮かべる私に気付いたのか、ぱっと手を離すと落ち着いた口調で私に聞いてくる。
「・・・ひょっとして、今の説明じゃ伝わらなかった?」
「・・・済みません・・・」
「うーん・・・やっぱりほら、百聞は一見にしかずって言うでしょ?」
「はぁ・・・」
「だからまずはコレの使い方。ようは仕事で使うのはコレと己の肉体のみだから」
きっとこの人、純体育会系の人なんだろうななどと考えつつも、私はマイ先輩が手に持っている奇妙なスーツの説明を受ける。と、 言っても本当に基本的にはただ着るだけのようで、コレを来て仕事をするのだと言う。こんなものを来て一体どんな仕事なのか気になるが、 スター、じゃ何も分からない。スターはこんなスーツ着ないと思うのだけれど。
「まぁ、見てて。とりあえず私が着てみるから」
そう言ってマイ先輩は服を完全に脱ぎ自らスーツに身体を通し始めた。スーツはかなり柔らかな素材で出来ているらしく、 また肌との密着性も高いようだ。傍目からも先輩の身体とスーツがしっかりと引っ付いていくのが分かる。下半身から着始めたスーツはやがて腕、 上半身と通していき、 スーツで覆われた腕でやがて頭にもスーツを被り先輩の姿はすっかり人の形をした黒い塊のようになり私の目の前に直立している。 背中に開いていた先輩が入った穴はまるで磁石でもついているかのように端と端が引き寄せあい、しっかりと閉じられていく。 そして完全に穴がなくなると、まるで穴など無かったかのように完全に密着していた。見る限りで空気穴など開いていないようだが、 呼吸に問題は無いのだろうか、などと心配していたその時、急に目の前の黒い先輩の身体が縮み始めたのだ。
「えぇ!?」
思わず声を上げる私だったが、私の目の前で、まるで氷が解ける映像を早送りするかのようにどんどんそのサイズは小さくなっていく。 しかしただ小さくなっていくだけではなかった。身体を覆っている黒いスーツが徐々に形を変えていくのだ。 全体の色が黒から黄色に変色していき、うっすらと短い毛が覆っていく。手足は身体が縮むのに合わせてどんどん短くなっていき、 一方で耳はピンとたち、身体の後ろからは雷を連想させるギザギザの尻尾が生えていた。そして完全に変化が終わると、 先輩だったものは力強く鳴き声を上げる。
「ピッカァ!」
「・・・ピカチュウ・・・!?」
目の前でマイ先輩がピカチュウになった。
ぶっちゃけありえない。
しかし、目の前で起きたこのことは夢でも幻でもないわけで。じゃあ何ですかって聞いたら現実ですってなわけで。・・・ PBEが何故こんなにも頑なに秘密主義なのかが少し分かったような気がした。 その時唖然としていた私の足元でピカチュウがさっきマイ先輩が着たのと同じスーツを私に差し出してきた。私にも着ろということらしい。 そのスーツをピカチュウから手渡されるが気になって聞いてみる。
「コレを着ると・・・私もポケモンになるんですか?」
「ピカ!ピカチュウ!」
ピカチュウは元気よく頷き、私がコレを着るのを待っているようだ。私はしばしためらったが、ここまで来て引き返す事は出来ず、 ついに覚悟を決め身につけていた服を脱ぎ、スーツに手を通した。しかし、一体この素材は何なんだろうか。 ラバーともシリコンとも明らかに違う感触。まるで肌と同化するように密着していく。この感じは少し気持ちいいかもしれない。 そしてマイ先輩がさっきやっていたように全身をスーツに通していく。そして一度深呼吸をして息を止め頭もスーツを被る。 するとやはり背中の穴が自動的に消えていく。この時のスーツの感覚は背中を何かがはっていく感覚に似ていてくすぐったくて、 自分で通す時と比べると心地いいものではなかった。そして完全に背中の穴が消えると、私も黒い人の形の塊になった。はずだ。 スーツには穴がまるで無いので完全に真っ暗で何も見えなかった。暗闇は人の心を不安にさせるが、私も不安で胸が一杯だった。 私もポケモンになってしまうのだ。一体何のポケモンになるのか。と言うか、 実はコレは夢でした人がポケモンになるわけありませんPBEには受かってさえいませんPBEに受かるはずありませんなんていう夢オチが無い事を必死で祈った。 そんなことを考えていた時、私の体を何かが引っ張る感じがした。
(え!?何!?)
声を出そうとしたが、スーツで口も覆われているので出るはずが無かった。 この引っ張られる感じは私の体に変化が訪れたと言う合図だった。スーツに引っ張られるようにして中の私の体は変化していく。 スーツの色は薄い緑色に変色していき、やはり私も体が縮んでいった。手足は短くなるが先輩とは違い、 直立が出来なくなり両手を地面につけると指先が白く変色し前足となり、後足とあわせた4本の脚で身体を支えた。 お尻の辺りには小さな尻尾が出来た。身体と胴体は一つながりのようになり、首の周りには他の部分よりも濃い緑色で、 小さく半球状のでっぱりが幾つも並ぶ。頭のてっぺんからは大きな突起が伸び、それは徐々に大きくなり一枚の葉っぱとなった。 そして変化が完全に終わった時、変化の最中目を閉じていた事に気付いた私はゆっくりと目を開く。すると広がる光。
・・・光?
私はスーツに包まれているはずなのに、目を開くときちんと見る事が出来る。ためしに短い前足で身体のほかの部位に触れてみると、 スーツに触れたはずなのにまるで自分の肌にじかに触ったような感触があった。
(どうなってるのっ!?)
思わず私はそう叫んだ。ハズだった。しかし、私の口からはそんな言葉は出てこなかった。
「チコッ!?」
・・・とても人間の声じゃなかった。私は唖然とする。本当にポケモンになってしまったのだ。スーツは着ているだけじゃない、 完全に私の体と同化しているのだ。私は自分の体を確かめたくなり、 たしか部屋に入った時に鏡があったことを思い出し急いで鏡の前に4本の脚で走っていった。そして鏡の前に立った、その鏡に映っていたのは。
(・・・チコリータだ・・・!)
鏡の中のチコリータは驚きの表情を浮かべ私を見つめ返していた。私が動くと鏡の中のチコリータも動く。
結論。
私=チコリータ
・・・本当にポケモンになってしまったんだ・・・。私は立ち尽くしたまま鏡を見つめていたがその時後ろから声をかけられた。
『やっぱり、かわいい姿じゃない』
『・・・マイ先輩?』
後ろを振り返るとさっきのピカチュウがいた。しかし、今の私はチコリータ。 人間目線で見るときと違ってピカチュウと目線が合うのは変な感じだった。どうやら、 ポケモンの姿になったもの同士はコミュニケーションが取れるらしい。
『やっぱり、そのかわいい外見ならスターになれるよ!』
『あ、有難う御座います・・・』
かわいい。確かにチコリータはかわいい。なった自分もそう思う。今の自分はかわいい。が、 今はポケモンになってしまったという驚きと不安の方が大きかった。かわいいといわれても素直に喜ぶ余裕は今の私には無かった。 私はピカチュウの姿のマイ先輩に聞いた。
『あの・・・』
『ん、何?』
『コレ・・・元に戻れるんですよね?』
『勿論!戻れなかったら困るでしょ?』
『ですよねー』
『背中にスイッチがあってね、それを押すと戻れるから大丈夫!』
『そうですか、背中のスイッチを押せば戻れるんですね!よかった!』
『そうそう背中のスイッチを押せば戻れるから大丈夫!』
『・・・背中のスイッチを押せば・・・戻れるんですね・・・?』
『そう、背中のスイッチを』
『・・・それって、自力じゃ・・・元に戻れないってことじゃないですか!?』
『そうだよ』
焦り慌てる私を見てピカチュウは落ち着きはらって返答する。そして更にマイ先輩が私に追い討ちをかける。
『これからカナには1週間その姿でいてもらうね』
『いしゅ、え、い、1週間!?』
『そ、1週間後には新人戦としてその姿で戦ってもらうから』
『・・・いきなり、バトルするんですか!?』
『そ、だから早く慣れてね。私も一緒に1週間この姿でいてあげるから』
マイ先輩の告げること1つ1つが私にとって衝撃でしかなった。これから1週間チコリータのまま・・・。しかもこの姿でバトルをする・・ ・。憧れで飛び込んだ世界ではあるものの、まさか自分がポケモンになるなんて思ってもいなかった。・・・しかし、 なってしまったのなら仕方が無い。兎に角今はこの姿に慣れてバトルで勝つ事を目標にしよう。私はそう誓った。
『あ、この後から早速訓練に入るけど、腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょ?ご飯用意したから食べなよ!』
『あ、はい!じゃあ・・・早速・・・いただき・・・?』
私はマイ先輩に呼ばれて彼女のところに行った。ピカチュウが用意していたのは栄養満天のポケモンフードだった。
『・・・これ・・・?』
『あ、今のこの身体は完全にポケモンになってるからね。人間のものは食べれないから。でもほら、美味しいから食べなよ』
・・・先輩のその言葉に早くも誓いが折れそうになった私。しかし結局私は、 美味しいと感じながらも複雑な気持ちでポケモンフードを口にした。これから1週間ずっと、こういう生活が続くのかと思うと、本当に・・・ 先が思いやられた。
PBE Beginning 前編 完
後編に続く
秘密設定やシステム(自力では戻れない)とかを考えるとダーク路線の方になりそうですが、それを見事に昇華したのは技です。
(僕の秘蔵ネタもその路線で…)
しかし…カナがチコリータになれたのはスーツの仕様か、それとも彼女の願望か…気になる所です。
次回は同じくポケモン化した彼氏とのバトルと言う所でしょうけど、一体どうなるやら。
楽しみにしています。
コメント有難う御座います。スウツは前々から興味があった分野で、チャットで出ていたプロレスネタから考えたら薬や魔法みたいなものよりもスーツの方がいいかなと考えた次第です。
>スーツの仕様か、それとも彼女の願望か
今のところ考えているものでは、スーツに幾つかなれるポケモンが決まっていて、着る人間によって適したポケモンに変身する仕様、の予定です。
>ポケモン化した彼氏とのバトル
やっぱりそうなりますよね。自分でも戦わせるのが楽しみだったりしますw