フュージョン 最終話
【人間→ポケモン獣人】
by 人間100年様
その後、コロシアムで行われた試合は終わりを迎えた。
試合の勝者になったジンの願い、姉の不治の病を治す願いはその数日後に叶い、ジンの姉の容体は良くなっていた。しかし、 願いを叶えたジン本人は試合の傷の治療のためオーシャンシティの病院にいたため、本人はその事実を確認できないでいた。
そして、それから月日は流れ、1ヶ月後のことである。
ジンは病院の前にいた。時は夜を迎えているため空は星々の輝く夜空が広がっており、今宵は満月のためか月光で辺りは少しだけ明るい。
そんな夜の病院の前に立っているジンは額や腕など体の随所に包帯を巻き、痛々しい姿を見せている。
そんなジンの横には、カナがいた。肩を並べて立っているカナもまた、まだ傷が癒えていないために体の至る所に包帯が巻かれている。 そんな2人はすぐ傍から発するバイクのエンジン音を耳にしながら、目の前でバイクに跨る1人の男を見つめていた。
ジンとカナが見つめるバイクに乗っている男。それは、アキラ。
アキラもまたジンとカナと同様に、額や服に隠れた腕や足に包帯を巻き、痛々しい姿を見せていた。しかし、 その表情はとても怪我人とは思えない程に無表情であり、バイクのメーターに目を向け冷めきっていたバイクのエンジンを無言で吹かしている。
そんな時、ジンがようやくその口を開いた。
「アキラさん、ホントにもう行っちゃうんですか?」
「あぁ。大蛇の涙を手に入れられなかったんだ、もうここに用はない」
「で、でもアキラ兄さん、医者は大丈夫って言っても、まだ傷が完治したわけじゃないんだから、もう少し入院しててもいいんじゃ?」
「・・・体はもう平気だ。いつまでもここにいる必要はない」
無表情のままそう答え、アキラはバイクのエンジンを吹かし続ける。 冷めきっていたエンジンはようやく温まったのかけたたましい音を放ち、いつでも走れると言わんばかりの調子に戻っていた。 それを感じてアキラはエンジンを吹かすのを止め、バイクから降りる。
その時、再びジンがアキラに話しかけた。
「これから、アキラさんはどうするんですか?」
「・・・さぁな。願いを挫かれた今、もうあの願いを実現することは出来そうにないからな。だが、俺はまだ・・・願いを諦めていない」
「アキラ兄さん・・・!?」
「この世界には・・・フュージョンを化け物だと思う奴が大勢いる。今は法律によってそいつらは抑制されているが、 それを無視して活動する外道者もいる。そんな奴らがいる限り、俺は願いを諦めるわけにはいかないんだ」
「そんな・・・アキラさん・・・!」
「ジン・・・俺は、1度決めたことは最後までやり通すように軍で教わった男だ。それはどうすることも出来ない。それに・・・ 俺の心からあの願いを消し去ることは・・・出来ない」
「そ、そんな・・・」
「だが・・・他の感情を得ることは出来る」
アキラの発した言葉に、ジンとカナはその表情に少しばかり驚きを露にする。先程まで口にしていた殺戮を目指す言葉とは、 まったく相容れぬ言葉だったからだ。そんな驚きを表情に出した2人の顔を見ながら、アキラは再び口を開く。
「カナ、お前は俺に最後までこの願いが『邪』への入口になることを教えてくれた。だから俺は自信を邪に染めない程度に、 願いを叶えるつもりだ」
「アキラ兄さん・・・」
「そしてジン、お前は・・・俺にヒトミの気持ちを教えてくれた。それだけじゃない、お前のおかげで、俺はヒトミを悪霊にせずに済んだ。 だから、俺はヒトミの気持ちに応えられるような願いを叶える」
「アキラさん・・・」
願いは叶える。しかしその先に世界が崩壊するような『邪』の世界はない。叶えるのはヒトミが望んだ、毎日遊んでいられる楽しい世界。 それを脅かすフュージョンを化け物だと思い法律を無視してでも活動する輩を倒す。それが、アキラの叶えようとする新たな願いだった。 その意味を知り、ジンとカナは何処か納得した表情を浮かべる。
そんな2人を見てアキラは無表情のまま軽く頷き、再びバイクに跨る。エンジンを掛け、 けたたましいエンジン音を轟かすバイクに跨ったアキラを見て、ジンはエンジン音に負けないぐらいの大きな声をかけた。
「アキラさん!」
「何だ?」
「また・・・会えますよね!?」
「・・・さぁな」
「会えたら・・・・・また一緒に、何か話ししましょうね!」
「フッ、そうだな・・・。気が向いたら、な」
そう言い残し、アキラはバイクを走らせ病院を後にした。颯爽と走り去るアキラの背中に向けてジンは大きく手を振り、 アキラの姿が見えなくなるその時まで、ジンは手を振りながらアキラを見送った。
アキラが消え、2人だけになった病院前。静かな空間に立つ2人は名残惜しむようにアキラが消えた道路を眺め、 何処からか吹いてきた冷たい微風に髪や衣服を靡かせていた。
「行っちゃったね、アキラさん・・・」
「うん。怪我しなければいいけど」
「まぁあの人のことだから、そんなこと万に一つもないよ」
「フフッ、それもそうね」
この1ヶ月の間にすっかり打ち解けあっていた2人は、楽しそうな笑みを浮かべながらそんな会話を交わす。 その間にも冷たい微風は2人の間を吹き抜け、髪や衣服を靡かせ続けていた。
「・・・寒くなったね。戻ろうか、カナ」
「うん。ジン、病室戻ったらリンゴ食べようよ」
「そうだね。でも皮は僕が剥くからね」
「えぇー!?皮は私が剥くっていつも言ってるじゃない!」
「いや、僕もたまには剥きたいなぁって」
「もぉ・・・でも、剥くのは絶対私なんだから!」
「えぇっ!?なんで僕に剥かせてくれないの!?」
楽しそうな会話を交わしながら、ジンとカナは病院の入口に戻る。会話を交わしながら自然と2人の手は繋がり、 2人は繋いだ手をそのままに病院の中へと戻って行った。
それからまた月日が流れ、とある街。
そこはビルが立ち並ぶ都市。道路には車が通り、歩道には人が歩き、そしてその道には夜の闇を照らす街灯がある。 そこはごく普通の都市であったが、しかし、その普通は一瞬にして崩壊した。
突如爆発するビル。轟音と共に崩れ落ちるビルに辺りにいた人々は悲鳴を上げながら逃げ惑い、その場から逃げるように車も走り去る。 そこだけではない、他にも爆発によって崩れるビルがあちこちに見え、その度に人々の悲鳴が高まるばかりだった。
しかし、その街の普通を崩壊させたのはそれだけではなかった。
逃げ惑う人々がいなくなった、崩れたビルの残骸に満ちた道路を歩く、鉈や斧を手にした人々。 その中にはダイナマイトを手にした人がちらほら混じっており、残骸だらけの道を歩くその人達の額には「化け物狩り」 の文字が大きく書かれた真紅の鉢巻を巻いていた。
「この街のフュージョン使いは、俺達化け物狩りが抹殺する!!さぁ出てこい!!人に紛れ、のうのうと生きる化け物共よぉ!!」
鉈や斧を手にした化け物狩りの1人がそう叫び、ダイナマイトを手にした人達が前方のビルの入口に向けてダイナマイトを投げる。 入口のガラスを突き破りビルの中へと入ったダイナマイトはそのまま爆音と共に炸裂し、ビルは轟音を上げながら崩れ落ちて行く。 その光景を見ながら化け物狩り達は高笑いし、新たな残骸に満ちた道路を歩き進む。
だが、その時だった。
「そこまでだ」
化け物狩りの前方から発した、男の声。耳を澄ませてようやく聞こえるような小さな声に気づき化け物狩り達は足を止め、 街灯が破壊され暗くなった前方に視線を向ける。やがてその暗闇から1つの足音が聞こえ、 その足音が自分達に近づいてくるのを化け物狩り達は感じた。
そして、化け物狩り達の前に、暗闇からその姿は現れた。
それは、腰の両端から触手状の腕を生やした血のように赤い鋼の皮膚に覆われたハッサムの下半身に、 刃のように鋭い鋼に覆われたエアームドの翼を生やした背中、そして鋼鉄の皮膚に覆われた、右手をハガネールの尻尾、 左手をハガネールの頭部と化し、角を生やした兜のような頭部を成した「鋼の超人」。それは紛れもなく、ハガネール、エアームド、 ハッサムとフュージョンした、アキラの姿だった。
怪人とも怪物とも例え難いその鋼の超人を前に、化け物狩り達は異様な威圧感に襲われていた。 目の前に姿を現したアキラを前に化け物狩り達は手に汗を握り、体にのしかかる威圧感にその表情を歪ませる。
「で、出やがった・・・ホントに出やがった・・・!」
「我ら化け物狩りを狩る・・・鋼の怪物・・・!」
「フンッ、化け物狩りの中では、そんな名前で通っているのか」
「ひ、怯むな!例えどんなに強い怪物だとしても、相手は1人!100人のこちらの方が歩があるというものだ!」
「フッ、たかが100人で俺を倒すつもりか。まるで子供のような奴らだな」
「ぬかしおってぇ・・・!俺達化け物狩りを、甘く見るなぁ!!」
力強い声と共に、化け物狩り達がアキラに向けて突進する。常人ならば逃げ出したくなる程の数と勢いだったが、 それを前にしても鋼鉄の皮膚に覆われたアキラの表情はピクリとも動かず、無表情そのものだった。
「俺はお前達を許さない。お前達全員・・・・・ここで消し去ってやる」
そう呟き、アキラはクラウチングスタートのような姿勢を見せる。そして、 アキラは迫りくる化け物狩り達に目掛け神速の速さで駆け出していった。
少年の願いの1つは叶った。しかし、もう1つの願いは叶わなかった。
しかし今、その願いを叶えようとする男がいる。
男は自らの願いのために戦い、そして今もなお、戦い続けている。
その戦いの果てに、男の願いの叶った世界があったとしたら、
それが、少年の願ったもう1つの願いが、叶ったことを意味するのかも知れない・・・。
fin...