2008年10月13日

フュージョン 第8話

フュージョン 第8話

【人間→ポケモン獣人】

by 人間100年様

 

舞台へと通じる、静かで冷たく薄暗い通路。選手以外の者は誰1人としてそこを通らないため全く人影の無いそこを、ジンは歩いていた。

視線の先まで鉄の壁が伸び、冷えた空気が漂う薄暗い空間に響くのは、そのジンの足音だけ。 早すぎず遅すぎずその足音は何者にも邪魔されずに響き、そしてその足はただただ前へと進んでいく。 そんなジンの顔は眉を真一文字に引き締めた真剣の表情で、その目は視線の先に見えてきた舞台への入口だけを見ていた。

考えることは他にない。カナの願いに答え、自分の叶えたい願いに近づくだけ。ジンは真剣な表情をそのままに、舞台への入口を抜ける。

瞬間、ジンの両耳に凄まじい歓声が轟いた。それに続いて辺りに漂う凄まじい熱気を感じ取り、ジンの額に汗が滲みそうになる。 耳に重くのしかかる歓声と肌を熱くする熱気にジンは一瞬嫌気を感じたが、視線の先にいる人影を見たことによってそれは吹き飛ばされた。

視線の先、もとい舞台の中央にいる人影。それは、アキラ。

黒いバイクウェアに身を包み、冷たい鋼のような無表情を貫いたアキラは仁王立ちのまま体を動かすことなく、 ジンのことをじっと見ている。そんなアキラのいる舞台の中央へとジンは歩みを進め、 自分が尊敬している人物を目の前に出来る距離まで移動する。

アキラに目と鼻の先の距離までジンが近づき、互いに互いを凝視する。そうしている内に2人の間にしばらくの沈黙が広がっていたが、 その沈黙をアキラが砕いた。

「・・・とうとう、お前と戦う時が来たか」

「そう・・・ですね」

アキラから声を掛けられたことに少々驚きながらも、ジンはアキラにそう答えた。 こうしてアキラの声を聞けばいつものアキラの雰囲気を感じるが、そのアキラの願いは殺戮。それを思うとジンの表情は少し暗くなり、 自然と言葉が零れた。

「カナさんから・・・アキラさんの願いを聞きました」

「・・・そうか。全く、自分で止められなかったから、今度は人に頼んだということか」

「どうして・・・ですか・・・。どうして・・・どうしてそんなこと、するんですか・・・」

「カナから聞いたなら分かっているはずだ。俺は、罪を犯した奴らに罰を与える。ただ、それだけだ」

「でも、罪のない人だって死ぬことになるんですよ!?それに、化け物狩りだってもう解決したじゃないですか!なのに・・・ どうして人を殺そうとするんですか!」

「解決した・・・か。それは実際に被害を受けていない第三者の解釈に過ぎない。体を切り刻まれ、 無残に死んでいったあいつの気持ちもわからない・・・他人の解釈だ」

「で、でも・・・でも・・・」

「説得しようとしても無駄だ。俺のポケモンも、そして殺されたあいつも、俺の願いが叶う事を望んでいる。・・・俺はその望みに答える。 例え、この世界が破滅することになったとしてもだ」

「そんな・・・」

「ジン、ここまで来た以上、俺はもうお前を敵と見做している。俺を止めたければ・・・自分の力で俺を倒せ」

そう呟くと、アキラはベルトに設けられたボールホルダーからモンスターボールを1つ取り出し、それをジンに見せつける。 堂々としたその行為にすらジンは威圧感を感じ、それを他所にアキラはモンスターボールを地面に放り投げる。 地面と衝突したそれは勢いよく蓋を開き、中に納められていたポケモンが眩い光と共にアキラの目の前に姿を現した。

現れたのは、ハガネール。地響きを起こす程の凄まじい咆哮を上げるそれはアキラの象徴とも言えるポケモンであり、 アキラの妹であるヒトミと仲良く遊んでいた心優しきポケモン。しかし、そのポケモンの心は復讐に唸る「鬼」と化しており、 怒りに荒れ狂う怪物の如し鋭い眼でジンを睨んでいた。

そこにいるのは優しかった頃のハガネールではない。そこにいるのは、アキラの復讐心と共鳴したハガネールという名の兵器。 そう思わざるを得なくなったジンは、巨大なハガネールとその後ろに立つアキラを睨み、1人と1体に闘気を叩き込んだ。

「僕は負けない・・・。自分の願いを叶えるためにも・・・アキラさん、あなたを止めるためにも!」

力強くそう叫ぶと、ジンはベルトのボールホルダーに手を伸ばし、モンスターボールを3つ取り出す。 ジンは取り出したそれを地面に向けて投げ、地面と衝突して勢いよく蓋を開いたそれから、 中に納められていたポケモンが眩い光と共に飛び出した。

出てきたのは、ピカチュウ、サンダース、ライボルト。この場所に来るまでに共に戦ってきたジンの戦友であり、 共に願いを叶えると誓い合った掛け替えのないポケモン達。その3体のポケモンは目の前にいるハガネールとアキラを睨み、 ジンと心が1つになっているかのようにその眼から闘気を放っていた。

互いに互いを睨みあっていたその時、ついにそのアナウンスは流れた。

『舞台に選手が出場致しました。これより、オーシャンコロシアムマッチ、決勝戦を開始致します』

舞台に設けられたスピーカーから試合開始を意味するアナウンスが流れ、その直後に甲高いゴングの音が鳴り響く。 その音が響いた瞬間観客席からこれまで以上の大歓声が沸き上がり、 決勝戦ということもありその熱気と騒々しさはいままでのものを遥かに凌いでいた。

それを合図に、ジンは両腕を交差させ、その両腕を自分の目の前に突き出した。瞬間、ジンの目の前にいたピカチュウ、サンダース、 ライボルトの体から光が発し始め、光に全身を覆い尽くした3体はやがて光の玉となって宙を浮遊し始めた。光の玉の1つは両足、1つは左手、 そして1つは右手に纏わりつき、纏わりついたジンの体を明るく照らす。

そして、ジンは力強く、こう叫んだ。

「トランス!!」

闘気に満ちた声でジンが叫んだ瞬間、その声に呼応するかの如く、両手両足に纏わりついた光の玉から眩い光が発し始めた。 放出する眩い光がジンの両手両足を見えなくし、トランスを始めたジンに観客席からどよめきが広がり始める。

そして、ジンの両手両足から光が消え、それは姿を見せた。

ジンの両足に装着されているは、サンダースの鋭い体毛を模った脛当て。左手に装着されているは、ライボルトの頭部を模った籠手。 そして右手に手にしているは、ピカチュウの尻尾を模った剣。ジンと心を1つにしたポケモン達が姿を変えたそれらを身に装備したジンは、 闘気を放つ睨みをそのままに、手にしたピカチュウの剣を構える。その黄色く美しい刃には、巨大な鉄蛇であるハガネールと、 それを操るアキラの姿を映していた。

ジンがトランスを終えると、アキラは無言のままハガネールに向けて右手を伸ばし、その掌を勢いよく開く。瞬間、 ハガネールの体から眩い光が発し始め、光に全身を覆い尽くしたハガネールは光の玉となって浮遊し、アキラの右手に纏わりつく。 アキラは光の玉が纏わりついた右手をゆっくりと高く上げ、ゆっくりとその瞳を閉じる。

そして、アキラは小さな声で、こう呟いた。

「・・・フュージョン」

目の前にいるジンがようやく聞き取れる程の小さな声を発した直後、アキラは高く上げた右手を自分の胸へ近づけ、 右手に纏わりついた光の玉を胸に押し当てる。水に溶けるように光の玉が体に浸透した瞬間、アキラの体から更に眩い光が放出した。 光に包まれたアキラに観客席から更なるどよめきが広がり、アキラの目の前にいるジンも、光に包まれたアキラをじっと睨んでいる。

そして、輝きを失い光が消え去り、アキラは新たな姿となって姿を現した。

現れたのは、上半身を鋼の如し頑丈な皮膚に包み、右手を剣の如しハガネールの尻尾、左手を巨大なハガネールの頭部に変形させ、 角を生やした兜のような頭部を成した「ハガネール獣人」となったアキラ。下半身に変化がなく、 上半身の随所にハガネールの特徴が反映したその姿は、ジンに異様な威圧感を与えていた。

しかし、それに負けじとジンも睨みを更に鋭くさせ、ピカチュウの剣を構える手に力を入れる。ぎゅっと柄に力を込めて握り締め、 睨みを介してアキラに闘気を叩き込む。

「アキラさん・・・行きます!!」

「・・・来い」

アキラの呟きが発した直後、ジンは地面を力強く蹴りアキラ目掛けて突進する。 サンダースの脛当てによって神速の速さを得た足はアキラとの距離を一気に縮め、瞬時にアキラをピカチュウの剣の範囲内に捕えた。 ジンはピカチュウの剣の絵をしっかりと握り締め、目の前のアキラに向けてそれを振り下ろす。

だが、アキラはジンの斬撃が襲い来る角度に左腕を構え、ハガネールの頭部に変形しているその腕でジンの攻撃を防いだ。 鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が響き、それと同時にアキラは左腕を払いピカチュウの剣の刃を弾き飛ばす。 その衝撃によってジンは一瞬のよろけを見せてしまい、その一瞬の隙を突かんと、 アキラはハガネールの尻尾に変形した右腕をジンの胴体目掛けて突き出した。

剣の如し鋭いそれに貫かれれば、まずタダでは済まない。そう感じたジンはよろけた体を強引に動かしてその場から体を捻らせ、 胴体から狙いが外れ肩に直撃しようとするアキラの右腕をライボルトの籠手で防いだ。銃弾が当たったような強い衝撃がジンの左腕に伝わり、 骨にも響く重い衝撃にジンは少しだけ表情を歪める。

しかし、ジンはその衝撃を押しのけるかの如く左腕を大きく薙ぎ払い、アキラの右腕を払いのける。 更にジンはそれと同時に流れるような動きでピカチュウの剣を薙ぎ払い、鋼の皮膚に包まれていないアキラの両太腿を切り裂こうとする。

すると、アキラはまるでその攻撃を読んでいたかのように素早く左腕を動かし、ハガネールの頭部と化したそれでジンの攻撃を防ぐ。 続け様にアキラはハガネールの尻尾と化した右腕を薙ぎ払いジンの体を切り裂こうとしたが、それを察したジンは後方に跳躍してその場から離れ、 紙一重の所でアキラの攻撃を避ける。

だが、アキラはそれすらも読んでいた。ジンが距離を離したその瞬間、ハガネールの頭部と化した左腕をジンの方に向け、 ハガネールの頭部はその大きな口を開き始める。

「ブレイク・ロックブラスト」

アキラの静かな声が発した瞬間、左腕のハガネールの頭部の大きな口から轟音と共に荒々しい岩が発射された。 とてつもない勢いで撃ち出されたそれは距離を離したジン目掛けて飛来し、ジンに襲いかかろうとする。 しかしジンは横に大きくステップするように移動してその場から離れ、アキラが撃ち出した岩を避けた。

岩を避け、地面に足をつけたジンはそれと同時にピカチュウの剣の柄尻をライボルトの籠手を装着した左手で掴み、両手で柄を握り締める。 瞬間、ライボルトの籠手から黄色く輝く電気が発生し、その電気がピカチュウの剣へと伝わっていく。柄尻から刃へと移動し、 刃を覆うように電気が流れるそれは、まさに「雷の剣」というにふさわしい姿になっていた。その剣を地面に突き刺し、ジンは気合の言葉を放つ。

「ボルト・・・ソニッカー!!」

力強い声が響いたと同時に、ジンは地面に突き刺したピカチュウの剣で地面を切り裂くかのように、勢いよくそれを斬り上げる。すると、 切っ先が地面から離れたと同時に斬り上げた場所から電気を帯びた衝撃波の刃が発生し、 凄まじい速さで地面を切り裂きながらアキラの方へと地面を駆け抜けた。見たこともない攻撃にアキラは一瞬驚きを露にしたが、 地面を走る斬撃に無防備でいるはずもなく、すぐ間近まで来たそれを左腕で防ぐ。

だが、その時だった。ハガネールの頭部と化した左腕が斬撃を防いだ瞬間、その左腕から全身に電気が走り、アキラは体を感電させた。 角を生やした兜のような頭部から短く苦い声が発し、アキラの体は一瞬よろめく。

しかし、それは本当に一瞬だけだった。鋼の皮膚が電気の流れを悪くし、本来よりも電気によるダメージが抑えられていたのだ。 アキラはふらつく足に力を入れるとすぐに体勢を戻し、その視線をジンの方へ向ける。

「・・・フン、小賢しい技を使う」

「あなたを止めるためなら、僕はどんな技だって使います。僕の全てで、僕はあなたを倒すつもりです」

「そうか・・・。なら、俺もあいつの出番だ」

そう呟くと、アキラはハガネールの尻尾と化した右手でベルトのボールホルダーを叩き、 その衝撃に反応して1つのモンスターボールの蓋が開く。眩い光がアキラのボールホルダーから溢れ出し、 中に納められていたポケモンがアキラの横に姿を現した。

現れたのは、エアームド。鋼の皮膚に包まれ、鋼の翼を持つ大きな鳥は姿を見せるや翼を広げて甲高い鳴き声を上げ、 その鋭い眼で視線の先にいるジンを睨みつける。

「エアームド・・・!?まさか、カナさんの時のフュージョンを!?」

「その『まさか』だ」

アキラはそう答えると、エアームドに向けて変形した右腕を伸ばす。すると、 その行為に呼応するかのようにエアームドの体から眩い光が発し始め、光に体を覆い尽くしたエアームドはやがて光の玉となって浮遊し、 アキラの伸ばした右手の先端に纏わりつく。それを確認するとアキラはゆっくりと右腕を上げ、 ハガネールの尻尾と化した先端その腕の先端を明るく輝かせる。

そして、アキラはこう、呟いた。

「・・・フュージョン」

距離を離したジンには聞き取れないほどの小さな声を発し、アキラは高く上げた右腕を自分の胸に近づけ、 光を纏った右手の先端を鋼の皮膚に包まれた胸に押し当てる。その瞬間、アキラの体から眩い光が放たれた。 全身を覆い隠す程の光に包まれたアキラを前に、ジンは自分が思っていたことが当たり「危険」を感じ取る。

そして、光に包まれていたアキラの体から光が収まり、アキラは新たな姿を見せた。

それは、身を包んでしまいそうなほど巨大なエアームドの翼を背中から生やしたアキラ。 翼の根元にはエアームドとそのまま融合したかの如くエアームドの頭部と体の形をした皮膚が形成され、 その部位と翼だけ上半身を包む鋼の皮膚とは別の、鋭い鋼の輝きを放っていた。

「くっ・・・ここでエアームドとフュージョンするなんて・・・!」

「どうした?この姿を見て臆したか?」

「いいえ・・・。アキラさんがどんな姿になろうと、僕の気持ちは・・・変わらない!」

力強い声と共にピカチュウの剣の柄を強く握り締め、ジンは翼を生やしたアキラに向けて突進した。 地面を蹴り駈け出したジンの足はサンダースの脛当てによって神速の速さに達し、 目にも止まらない瞬間移動の如し速さで一気にアキラの傍まで接近する。

だが、アキラはそれに乗じてエアームドの翼を大きく羽ばたかせ、その場から勢いよく上空に飛翔した。 アキラに攻撃を仕掛けようとした途端のアキラの飛翔にジンは戸惑い、思わずその足を止めてしまう。それこそが、アキラの狙いだった。

ジンの頭上高くまで飛んだアキラはハガネールの頭部と化した左腕を真下、つまり地上にいるジンの方へと向けると、 ハガネールの大きな口は開き始める。そして、その大きな口から轟音と共に巨大な岩が発射された。 上空から放たれたそれは発射の勢いに重力の力が加わり、まさに隕石の如し勢いでジンに迫っていた。

それを目の当たりにしたジンはすぐ頭上まで来たそれに走って逃げることが出来ないと判断し、 前方に飛び込むように転がり込みその場から離れる。それと同時にアキラが発射した岩がジンの立っていた場所に着弾し、 コンクリートの地面を吹き飛ばした。

「ぐっ・・・!」

地面に転がり込み、地に足をつけたジンはその口から苦い声を零した。地面に直撃した岩の衝撃が転がり込んだジンの体にまで伝わり、 その体を痛めつけたのだ。ジンは痛みが走る体を動かし、痛みを堪えながらすぐさまその場から立ち上がる。

「クロス・アイアンテール」

瞬間、ジンの上空から微かな声が発した。その声を耳にしたジンが頭上を見上げると、 ジンの瞳に映ったのはハガネールの尻尾と化した右腕を構えながら急降下してくるアキラの姿だった。 それを見たジンはすぐさま横に跳躍してその場から離れ、瞬間、すぐ傍まで来ていたアキラの右腕が「×」 を描くように凄まじい速さで振り払われた。

ガガンッ!とコンクリートの地面を抉るような鈍い音と共に、地面に「×」の刻印が刻まれる。 そのとてつもない威力にジンが驚きを見せていると、アキラはエアームドの翼を羽ばたかせ、再び上空に飛翔した。

――――空には、行かせない!

エアームドとフュージョンしたことで得た翼で空を飛ぶ利点は、相手の範囲外からの攻撃を行えること。 しかもそれはジンのように地面を伝う遠距離攻撃を行う相手からの攻撃を防ぐことにも貢献しており、 空を飛ぶことで一方的な攻撃を可能にしている。

ならば、それを阻止する以外にアキラの攻撃を防ぐ方法はない。 そう感じたジンはすぐ近くに聳える舞台と観客席を隔てる壁に向かって走り、神速の速さで一気にその壁まで到達する。 そしてジンは神速の速さを利用して、目の前の壁を垂直に駆け上がった。突然の行為に空に飛翔したアキラは疑問と驚きを混迷させていたが、 ジンはそれを他所に壁の最頂点まで駆け上がり、そして間髪いれずに壁の最頂点から力強くアキラのいる上空に跳躍した。

神速の速さで壁を駆け上がったことで垂直な助走をつけ、その助走の力を使って跳躍したため、 ジンの体はロケットの如し勢いで上空へと上昇した。その結果にアキラは驚きを露にし、その間にジンはとてつもない勢いでアキラに接近する。

そして、ジンはピカチュウの剣を薙ぎ払い、鋼の皮膚に包まれていないアキラの両太腿を切り裂いた。

「ッ・・・!」

驚いている隙を突かれての攻撃を喰らい、アキラは痛みの余り息の詰まった声を零す。更に痛みの余り翼を羽ばたく力が緩まってしまい、 アキラの体は地面へと降下していく。アキラは痛みに堪えながら翼を羽ばたかせ、間一髪の所で落下する勢いを緩め足から地面に着地する。 それと同時に空からジンが重力に引かれて落下し、ジンもまた足から地面に着地する。

着地したジンはすぐさまアキラの方へ視線を向けると、アキラはゆっくりとその場から立ち上がる最中であり、 ピカチュウの剣によって切り裂かれた両足の太腿からは真紅の血が流れ出ていた。あまり傷も深くなく出血はそこまで酷いものではなかったが、 常人ならば泣き叫ぶ程の傷。だが、その傷を負っているにも関わらず、アキラはまるで痛みを感じていないかのように平然と地面に立っていた。

その時、アキラは口を開いた。怒りにも、憎悪にも似た、不気味な暗い声で。

「・・・茶番は終わりだ・・・」

そう呟き、アキラはベルトのボールホルダーを右手で軽く叩く。 ハガネールの尻尾と化したそれの衝撃に反応してボールホルダーの中のモンスターボールが1つ、勢いよく蓋を開き始める。そして眩い光と共に、 中に納められていたポケモンがアキラの横に姿を現した。

現れたのは、ハッサム。赤き鋼の皮膚に包まれ、鋏状の大きな手を持ったその人型のポケモンは姿を現すや勢いよく両腕を突き出し、 両手の鋏を力強く開くと同時に鋭い眼で視線の先にいるジンを睨みつける。

「ハッサム・・・!?今度は、あのハッサムと!?」

「そうだ・・・。これで、ケリをつけてやる・・・」

不気味な暗い声でアキラがそう答え、ハガネールの尻尾と化した右腕をハッサムに向ける。すると、ハッサムの体から眩い光が発し始め、 光に体を覆い尽くしたハッサムは光の玉となって宙へと浮遊する。その光の玉は吸い込まれるようにアキラの右腕の先端に纏わりつき、 光の玉に明るく照らされたその右腕をアキラはゆっくりと高く上げる。

そして、アキラは不気味な程暗い声で、こう呟いた。

「・・・フュージョン」

ジンに聞き取れない程の小さな声でそう呟き、 アキラは高く上げた右腕を自分の胸へ光を纏った右手の先端を鋼の皮膚に包まれた胸に押し当てる。その瞬間、アキラの体から眩い光が放たれた。 再び光に包まれたアキラに、ジンは2度目の「危険」を感じ取る。

そして、輝きを失い光が消え去り、アキラは新たな姿をジンに晒した。

現れたのは、両太腿を切り裂かれた足を赤い鋼の皮膚で覆い、足首から下がハッサムのものに変形し、 そして腰の両端からハッサムの鋏を先端とした触手のような腕を生やした下半身を得たアキラ。随所にハッサムの特徴がみられるその下半身は、 上半身のハガネールの皮膚、そして背中から生えたエアームドの皮膚とは別の、血のように赤く鮮やかな鋼の輝きを放っていた。

それに対して驚くジンであったが、ジンはそれ以上にアキラの全身にもその驚きを見せていた。

上半身にハガネール、背中にエアームド、そして下半身にハッサムとフュージョンしたアキラの姿は、まさに全身を鋼の皮膚に包まれた 「鋼の超人」だった。怪人とも怪物とも言い難いその異様な鋼の姿に、ジンは驚きに息を飲むだけだった。

「3体、全部とフュージョン・・・。これが、アキラさんの完全体なのか・・・」

「・・・俺は負けるわけにはいかない。あいつが・・・ヒトミが望んだ世界のために・・・俺は・・・・・お前を消し去る」

そう呟くと、アキラは陸上競技のクラウチングスタートのような姿勢を見せる。それと同時にアキラは地面を力強く蹴り、そしてその瞬間、 アキラの体はジンのすぐ目の前まで移動した。

「えっ!?」

突然目の前に姿を現したアキラにジンは思わず声を上げて驚き、その隙を突いてアキラは右腕を大きく薙ぎ払う。 その風を切る重い音に我に戻ったジンは慌てて剣を構え、ハガネールの尻尾と化したアキラの右腕を防ぐ。

だが、ピカチュウの剣では剣のように鋭いアキラの右腕を制する事は出来ず、 凄まじいアキラの力にジンの体はそのまま吹き飛ばされてしまった。背中から地面と衝突したジンはその勢いを利用して体を仰け反り、 背中に走る痛みを食い縛りながらその場から立ち上がる。

瞬間、視線の先にいたアキラが再びクラウチングスタートのような姿勢を見せ、それと同時に地面を力強く蹴った。 それはアキラが瞬間移動の如し速さで接近してくることを意味し、それを目の当たりにしたジンは後方にステップしてその場から離れる。

だが、アキラはそれを読んでいた。 ジンの立っていた場所まで移動したアキラは腰の両端から生えたハッサムの鋏を持った触手のような腕がジン目掛けて勢いよく伸び、 後方に跳躍していたジンの左足をその鋏が捕えた。

「ぐぁっ!」

鋭い鋏に左足を挟まれる痛みに、思わず声を上げるジン。その瞬間、アキラはジンの左足を挟むハッサムの鋏を大きく振り上げ、 そのまま勢いよく地面に叩きつけた。背中から地面に叩きつけられたジンは体に響く衝撃に苦い声を上げ、その顔に苦痛の表情を浮かべる。

だが、鋏はまだジンの左足を放さなかった。苦痛の表情を浮かべるジンを他所にアキラは再びハッサムの鋏を大きく振り上げ、 今度は反対側の地面に叩きつけた。振り下ろされたジンの体は肩から地面と衝突し、体に響く2度目の衝撃に再び苦い声を発した。

しかし、それでもなおハッサムの鋏はジンの左足を放そうとはしなかった。アキラはハッサムの鋏をこれまで以上に勢いよく振り上げると、 痛みに苦しむジンの体を空中に放り投げた。ジンの体はまるでおもちゃのように宙を舞い、 体を叩きつけられた痛みの影響でジンは体に力が入らず空中で体勢を整えることが出来なかった。 そんなジンにアキラはエアームドの翼を力強く羽ばたかせて飛翔し、宙にいるジンに突進する。

そして、アキラはジンの目の前で右腕を薙ぎ払った。

ハガネールの尻尾と化した右腕は言うならば腕と融合した剣。その切れ味はコンクリートの地面をいとも簡単に刻み込む程であり、 その腕に殴られようものなら鉄をも砕きかねない。 そんな破壊の兵器と化した右腕がすぐ間近まで迫って来たのを目の当たりにしたジンはとっさにライボルトの籠手を装着した左腕を振り上げ、 アキラの右腕が体に直撃するのを防ぐ。

しかし、肘まで覆っているだけのライボルトの籠手だけではアキラの右腕を完璧に防ぐことなど到底敵わず、 アキラの右腕の衝撃でジンの体は勢いよく地面に吹き飛んだ。悲鳴にも近い苦い声を上げながら落下するジンは背中から地面と衝突し、 勢いの余り体がバウンドして今度は胸から地面に衝突する。そこでようやく勢いは収まったものの、 ジンの体にはこれまで以上の凄まじい衝撃が伝わり、骨に響く激痛が体中を駆け巡っていた。

「ぐっ・・・ぁぁ・・・ぅっ」

苦い声を零しながらジンはピカチュウの剣を地面に突き刺し、それを杖代わりにして倒れた体を起こす。 激痛で震える体をゆっくりと動かして膝を地面につかせ、しゃがみ込んだような姿勢まで体を起こさせる。だが、 そこから体を立ち上がらせようとすると体に電気が流れたかのような激痛が走り、立とうにも立てない状態になっていた。

体の痛みに息を荒くさせ、表情を歪ませるジン。そんなジンの視線の先に、空からアキラが舞い降りてきた。 ゆっくりと地面に足をつけたアキラは、苦しそうなジンにその視線を向ける。

「まだ諦めないか・・・。あれだけ痛めつけられたのに、よく耐えていられる」

「ハァ・・・ハァ・・・・・ぼ、僕は・・・諦めま・・・せん・・・。どんな痛みが襲い掛かっても・・・諦めま・・・せん・・・」

「フンッ、強がりを言っても無駄だ。あいつらに罰を与える、その俺の願いのために・・・俺は・・・・・お前を消す」

「くっ・・・」

「だが・・・その前に、お前に1つ聞く」

ふと発した、怒りや憎悪に満ちていないアキラの声に、ジンは痛みで歪んだ顔をアキラの方に向ける。そして、アキラは続けて口を開いた。

「お前は・・・この試合に出て、少しでも、フュージョンする奴らを化け物だと思ったことがあるか?」

アキラの口から発せられたのは、フュージョンを化け物だと思うかどうかの問いかけ。それを聞いてジンは少々驚きを露にしたが、 自分の正直な気持ちを込めて痛みで歪んだ顔を横に振るった。

「そうか・・・。なら・・・お前に止めは刺さない」

「え・・・?」

「ほんの数時間前に出会ったばかりだが・・・お前が俺の知人であることに変わりはない。満身創痍でもう戦えない知人に、 これ以上俺は何もしない。だから・・・お前はこの試合を『リタイア』するんだ」

「リタ・・・イア・・・」

「そのまま体を倒して寝ていればいい。そうすればすぐに全てが終わる。そうすれば・・・お前が苦しむことも、もう無くなる」

アキラの遠回しな優しい言葉。勝負を諦め「リタイア」することで、体の痛みと戦う苦しみも、全部終わる。 息を荒くして苦しむことも無くなり、全てが楽になる。アキラの言葉の意は、正にそれだった。

だが、ジンはそのアキラの言葉に抗った。

「いい加減なこと・・・言わないでください・・・」

苦しそうな声で呟き、ピカチュウの剣を杖代わりにジンは痛みの走る体をゆっくりと立ち上がらせる。 電気が走ったような激痛に歯を食いしばり、しかし不思議と先程よりも痛みが軟らんだような感じになった体を強引に動かしながら立ち上がり、 ジンは息を荒くさせながら視線の先にいるアキラの方に目を向けた。

「ここで・・・諦めたら・・・今まで倒してきた・・・挫かせてきた選手達の願いが・・・全部無駄になる・・・。 アキラさんを止めるって・・・カナさんとの約束も・・・果たせなくなる・・・。それに・・・・・僕の願いも・・・・・叶わなくなる!」

「・・・・・」

「だから・・・何と言われようと・・・僕は諦めない・・・。カナさんとの約束のためにも・・・・・病気で苦しんでる姉さんを・・・・・ 助けるためにも!!」

体の痛みに対する苦しみが吹き飛んだような、力強い声を上げるジン。 それと同時に地面に突き刺し杖代わりにしていたピカチュウの剣を勢いよく引き抜き、力強く握り締めたその剣を構えた。 体を駆け巡る激痛に息を荒くさせながら、ジンは視線の先にいるアキラを鋭く睨む。

戦う姿勢を見せたジンに、距離を離した所にいるアキラはため息交じりに呟いた。

「何を言ってもわからない・・・か。なら仕方がない・・・・・お前を、消し去る」

再び発した、アキラの怒りにも憎悪にも似た暗い声。その声を発した直後にアキラはクラウチングスタートのような姿勢を見せ、 そして力強く地面を蹴った。

ハッサムの足に疑似したアキラの下半身は常人の何十倍もの脚力を得ており、走る速度は神速の域まで達する。 その速さによって相手との間合いを一瞬で縮め、相手が防ごうとするよりも早くこちらが攻め入る。先程は防がれてしまったが、 満身創痍の今のジンならば反応が遅く、確実に攻撃が当たる。そうアキラは思っていた。 止めの一撃を放たんとジンのすぐ目の前まで接近したアキラは、そのままハガネールの尻尾と化した右腕を振り下ろす。

だが、その時だった。アキラが振り下ろした右腕を、ジンはピカチュウの剣で見事に防いだ。満身創痍の体からは想像もつかない反射に、 アキラは驚きを隠せずにいた。

「ば、馬鹿な・・・何処にこんな力が――――」

「はあぁぁっ!」

ジンの気合いの声によってアキラの声が制されたと同時に、ジンはピカチュウの剣を勢いよく振り上げ、 防いでいたアキラの右腕を弾き飛ばす。力強く重たい衝撃にアキラの右腕は大きく吹き飛び、それに乗じてアキラの体も大きくよろける。だが、 それがアキラにとって隙となることはなかった。

何故なら、アキラには本来の腕とは別に、腰の両端から生えたハッサムの鋏を持つ触手状の腕があるからだ。 対象を俊敏に捕える敏捷力と人の腕を容易にへし折る程の怪力を併せ持つこのハッサム鋏がある限り、近距離での隙は抹消される。 アキラは体が大きくよろけたと同時に、そのハッサムの鋏をジンの腕目掛けて突き出した。

だが、ジンは自分の腕に喰らい付こうとするハッサムの鋏に向けてピカチュウの刃を2回振り払い、 襲いかかって来たハッサムの鋏を両断した。切り落とされた2つのハッサムの鋏は宙を舞いながらジンの横を通過し、虚しく地面に落ちていく。 切り落とされたハッサムの鋏を目の当たりにしたアキラは、ジンの想像以上の力に更に驚くばかりだった。

「クッ・・・!」

苦渋の声を零したアキラは背中から生えたエアームドの翼を羽ばたかせ、ジンが追撃を仕掛けてくる前に空へと飛翔する。 上空からの攻撃ならば今のジンはどう足掻こうと反撃が出来ず、こちらが一方的に攻撃できる。そう思っての、アキラの対応だった。

だが、その時だった。

「空には・・・飛ばせない!!」

ジンの力強い叫び声が響いた瞬間、ジンはゆっくりとしゃがみ込み、地面を力強く蹴って上空へ跳躍した。 サンダースの脛当てによって強化された脚力がジンの体をロケットの如し勢いで空へと上昇させ、瞬く間にアキラの背後までその体を跳ばした。

「な、なにっ!?」

「はああぁぁぁ!!」

ジンは気合の言葉を上げ、アキラ目掛けて両手で柄を掴んだピカチュウの剣を力強く振り下ろす。 迫りくる刃を目にしたアキラはハガネールの頭部と化した左腕を刃の襲い来る方向へと構え、ジンの攻撃を防ぐ。

ガギンッ!と金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響き、ピカチュウの剣とアキラの左腕との打撃点に力が集中する。 お互いの力が丁度均一になったためか、互いに押し切ることも、弾き飛ばすことも出来ないでいた。

しかし、その力の均一を、ジンが吹き飛ばした。

「ぅぅううあああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

これまで以上に気合いが込められた雄叫びを上げ、ジンは両手に力を入れピカチュウの剣の柄を更に強く握り締める。そして、 ジンは全体重を乗せて、アキラの左腕に防がれているピカチュウの剣をこれまで以上の力で振り下ろした。

すると、ジンの斬撃によって鋼の皮膚に覆われたアキラの左腕は見事に切り裂かれ、ハガネールの頭部に深い斬痕が刻まれた。 鋼の皮膚の中で最高の硬度を誇る左腕のハガネールの頭部が切り裂かれたことにアキラはこれまで以上に驚き、 そして今まで感じたことのない痛みを左腕に感じた。

しかし、アキラに襲いかかったのはそれだけではなかった。 ジンの凄まじい斬撃の衝撃によってアキラの体はハンマーで殴り飛ばされたかのように吹き飛ばされ、 アキラの体は一直線に地面へと吹き飛んでいた。アキラは翼を羽ばたかすものの、 それすらも間に合わない程の勢いでアキラの体は一直線に地面へと落ち、そしてアキラの体は地面に激突した。

凄まじい勢いで落下したためか、アキラが地面と激突した所からは粉塵が巻き上がり、粉塵の中にアキラの姿は消える。 そんな場所から少し距離を離した所にジンは着地し、まだ体の中を駆け巡る痛みに息を荒くさせながら舞い上がる粉塵に目を向ける。

しばらくして、粉塵の中から重たい足取りで1つの人影が現れた。

それは、ハッサムの鋏を切り落とされ、ハガネールの頭部と化した左腕に斬痕が刻まれ、そしてエアームドの翼の左翼が折れ曲がった、 傷だらけのアキラ。地面と激突した時に背中から落下したため、エアームドの翼がダメージを負ってしまったのだ。 そんな満身創痍のアキラは鋭い眼でジンの姿を捕えると、左腕から感じる痛みに苦しみながら、怒りにも憎悪にも似た暗い声を発した。

「俺は・・・負けるわけにはいかない・・・。願いを・・・奴らに罰を与えるために・・・」

「アキラさん・・・目を覚ましてください・・・!罪もない人々を殺しても・・・アキラさんの妹は・・・ヒトミさんは・・・ 何も喜びません・・・!」

「・・・お前に何がわかる・・・。ただ毎日遊ぶことだけを楽しみにしていた・・・ただ毎日遊ぶことに喜びを感じていただけあいつが・・ ・無残に殺された気持ちの・・・何がわかる・・・」

「アキラ・・・さん・・・」

「フュージョンは・・・人とポケモンとの間に生まれた・・・奇跡の力だったはず・・・。それは・・・トランスも同じだ・・・。なのに・ ・・奴らはそれを・・・化け物だと思っている・・・。そんな奴らの歪んだ精神のせいで・・・俺の妹は・・・ヒトミは殺されたんだ・・・。 だから・・・その罪を裁くその時まで・・・俺は・・・負けるわけにはいかない・・・」

「違う・・・!アキラさん・・・今のあなたはヒトミさんの復讐という名で暴れているだけ・・・!今のあなたの行動は・・・ ヒトミさんの『ため』ではなく・・・『せい』にして・・・・・あの人を・・・・・悪霊にしている」

ジンの言葉を耳にした途端、アキラは何かが切れたか地面を力強く蹴り、変形した下半身が誇る神速の速さでジンに突進した。 そしてハガネールの尻尾と化した右腕を力強く振り下ろしたが、それをジンはピカチュウの剣で防ぎ、 そして角を生やした兜のような頭部を成したアキラの顔を見る。

「アキラさん・・・化け物狩りは無くなって・・・もう全てが終わってるんです・・・。アキラさんがこれ以上・・・ 人を殺す必要もないんです・・・。ヒトミさんも・・・きっと・・・アキラさんが人を殺さないでほしいこと・・・願ってます・・・」

「・・・・・」

ジンの言葉に、アキラは無言のまま答えない。互いに言葉を発しないまましばらく沈黙が続いたが、しかし、 アキラがジンの腹を蹴り飛ばしたことによって、その沈黙は砕け散った。腹を蹴り飛ばされたジンの体はふわりと宙を浮いて吹き飛んだが、 ジンは空中で体勢を整え足から地面に着地し、腹部の痛みに顔を歪ませながらアキラの方に目を向ける。

その直後、アキラは呟いた。

「・・・それでも、俺はこの戦いに決着をつけなければならない・・・」

「アキラさん・・・」

「・・・お前の言う通り、ヒトミは俺の行動に反対しているかもしれない・・・。ヒトミが俺に人を殺さないでほしいと願っていることも・ ・・確かにそうかもしれない・・・。だが・・・それを含めても・・・俺は願いのために戦う・・・。ヒトミの『せい』にしないための・・・・・ 俺自身の願いのために・・・」

「アキラさん・・・・・わかりました。僕も姉さんを助けるために・・・ここにいる・・・。だから・・・僕も願いのために・・・ あなたと戦う!」

互いに互いを睨み、そう答え合う。しかし、互いの睨みには鋭さはない。互いに決着をつけようとする気持ちの込められた、 純粋で透き通った睨み。それが、2人の見せている睨みだった。

その睨みをそのままに、ジンは柄尻を掴む左手に装着されたライボルトの籠手から電気を発生させた。電気は柄尻を伝って刃へと流れ、 黄色く輝く電気はピカチュウの剣を「雷の剣」へと変貌させる。その剣を手にするジンは両手で柄を握り締めたままそれを構え、アキラを睨む。

一方、アキラもそれに乗じて戦う姿勢を見せ、クラウチングスタートのような姿勢を取る。 しかしハガネールの尻尾と化した左腕は少し高く上げられており、瞬時に攻撃できるような体勢となっていた。その体勢のまま、 アキラもまたジンを睨む。

「勝っても負けても・・・恨みっこなしです・・・」

「あぁ・・・これが俺達の・・・最後の勝負・・・」

――――ただ全力を、尽くすのみ!

その瞬間、2人は力強く地面を蹴り、互い目掛けて駈け出した。 神速の速さを誇る互いの足は互いの体を見えなくする程の速さまで加速させ、2人は辺りのものが滲んで見える「速さの世界」に入り込む。 互いに見えるのは互いのみ。その世界の中で2人は走り、2人はその距離を縮めていく。

そして、2人の距離が零距離に達した時、2人は持ちうる全力の技を放った。

「クロス・アイアンテール!!」

「ボルト・・・スラッシュ!!」

互いの声が響き、互いの技が炸裂する。ハガネールの尻尾と化した右腕を「×」を描くように振り払う斬撃と、 電気を帯びた刃を力強く振り上げる斬撃。その2人の技が放たれた後、2人は足を止めることで速さの世界から抜け出し、舞台にその姿を現す。 技を放ち、姿を現した2人の体は時が止まったかのように互いを背にしたまま硬直し、ピクリとも動かない。

だが、それも長くは続かなかった。

「ぐぁっ・・・!」

声を上げたのは、ジンだった。胸に刻まれた「×」の刻印から血が噴き出し、ジンは地に膝をつける。 しかし同時にピカチュウの剣を地面に突き刺したため、ジンはそれを支えにして地面に倒れるのを防いだ。 胸から流れる血によって黄色いTシャツが赤く染まり、ジンの体に激痛を引き起こす。その痛みにジンは息を荒くさせ、 痛みを堪えようと地面に突き刺したピカチュウの剣の柄を力強く握り締める。

その時、苦しそうなジンを背にしていたアキラがその口を開いた。

「1つ・・・聞きたい・・・」

「なん・・・ですか・・・?」

「どうして・・・お前はここまで力が出せた・・・?願いを叶えたいというだけでは・・・こんな力は出ないと思うが・・・」

「さぁ・・・僕にもわかりません・・・。でも・・・自分の願いのためだけじゃなくて・・・カナさんのために頑張りたいって思ったのと・ ・・それから・・・・・僕もヒトミさんと一緒で・・・・・アキラさんに人を殺してほしくないって・・・・・思ったからかもしれません」

「フッ・・・そうか・・・。どうりで・・・・・俺が・・・・・負けたわけ・・・・・か・・・・・」

アキラがそう呟いた瞬間、鋼の皮膚に包まれていたアキラの肩から腹にかけての上半身に凄まじく巨大な斬痕が刻まれ、 それと同時にアキラの体に傷口から電気が襲い掛かった。それに乗じて鋼の体に刻まれた巨大な傷口から血飛沫が噴き上がり、 電気と斬撃の2つの痛みにアキラは断末魔の声を上げる。

そして、アキラの鋼の体は、重たく地面に倒れた。

『アキラ選手、ダウン。よって、決勝戦の勝者、オーシャンコロシアムマッチの優勝者は、ジン選手に決定致しました』

試合終了を意味するアナウンスが流れ、その瞬間、観客席からこれまで以上の大歓声が上がった。 静まっていたコロシアムは再び騒がしくなり、静まっていた空気は一気に熱くなる。騒がしくなった観客席を他所に、 ジンはピカチュウの剣を支えに痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。

「ア・・・アキラさん・・・」

痛みに震える声でアキラを呼びながら、ジンは自分のすぐ後ろで倒れているアキラの傍に歩み寄る。 傷口から流れ出る血で出来た湖に横たわるアキラはピクリとも体を動かさなかったが、 微かに聞こえる呼吸音を耳にしてジンはアキラが無事であることを確信する。

そして、ジンは倒れているアキラに深々と頭を下げた。

「アキラさん・・・ありがとうございました・・・」

それは、戦った後の最後のお辞儀。胸に感じる痛みをぐっと歯を食い縛ることで堪え、最後のお辞儀を無事終わらせる。

その時、コロシアムに再びアナウンスが流れた。

『ジン選手、優勝おめでとうございます。勇敢で多大なる功績を称え、優勝賞品である大蛇の涙をお受け取り下さい』

舞台にアナウンスが響くと、それと同時に舞台の中央の地面が開き、1つの穴が現れた。ジンがその穴に目を向けると、 鈍い機械音と共に穴から円柱状の台が姿を現し、その台の上に淡い緑色に輝く宝石が1つ置かれていた。それこそが、どんな願いも叶える宝石 『大蛇の涙』だった。透き通ったその宝石の輝きに導かれるかのように、ジンは大蛇の涙の置かれた台まで歩く。

重たい足取りで台まで辿り着いたジンは、ライボルトの籠手を装着した左手をゆっくりと伸ばし、大蛇の涙を手に取る。 それは宝石のはずなのに仄かな温かさを秘めており、淡い緑色の輝きがジンの掌を照らしていた。その不思議な宝石にジンは魅了され、 じっとそれを眺めている。しばらく大蛇の涙を眺めた後、ジンは手にした大蛇の涙をギュッと強く握り締め、それを自分の胸の傍まで運ぶ。

そして、ジンは願った。

 

 

 

 


どうか、姉さんの病が治りますように・・・。

 

 

 

 


そして、もう1つ叶うなら・・・

 

 

 

 


どうか・・・この世界から、フュージョンを化け物だと思う人が、いなくなりますように・・・。

 

 

 

 


To be continued...

posted by 宮尾 at 20:48| Comment(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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