2008年07月29日

フュージョン 第3話

フュージョン 第3話

【人間→ポケモン獣人】

by 人間100年様

 

白い壁で満ちたコロシアムの巨大なロビーを抜け、入口をくぐると、外に出られる。

外はコロシアムの中と違い何処か涼しく、空が漆黒の夜空に包まれているために何処か暗い。しかし、 夜空に輝く星々やその空に浮かぶ純白の月、そしてコロシアムを取り囲むように広がる、 オーシャンシティの摩天楼の光がその暗闇を消し去っていた。

暗い夜のはずなのに不思議と明るいそんな場所に、アキラがいた。コロシアムの壁に寄り掛かり、 視線の先に見える自分のバイクを眺めながらアキラは無心を貫いていた。騒々しいコロシアムの中よりも外に出ていた方が気が楽になる。 そんな理由で外に出ているためアキラは外で何かしたいわけでもなく、無表情のままただただじっとそこにいた。

外に吹く微風がアキラの髪を靡かせた、その時だった。

「アキラさーん」

すぐ近くにある入口から発した声にアキラが目を向けると、入口を抜けて姿を現した声の主にアキラは思わずため息を零す。何故なら、 入口を抜けて姿を現したのは、リュックサックを背負ったジンだったからだ。

――――また騒々しいのが来た・・・。

アキラは心の中でそう呟き、視線をジンからバイクの方へ戻す。その間にジンはアキラの隣まで歩み寄り、 リュックサックを下ろしてその壁に寄りかかった。

「どうしたんですかアキラさん?外なんかに出て」

「別に。中より外の方が良かっただけだ。で、お前はどうしてここに来た?」

「さっき試合が終わって、リュック取りに行った帰りにそこのロビー通ってたら、外にいるアキラさんを見つけたんです。 それでアキラさん以外に誰も人がいないからどうしたのかなと思って」

「・・・そんなことか」

「そ、そんなことってなんですかアキラさん!?なんか僕の行動がすっごく意味ないことみたいじゃないですか!」

「言葉のままだ。俺の姿が見えたからここまで来たこと自体は、あまり意味のない行為だろう」

「そりゃあそうですけど・・・・・はぁ、やっぱアキラさんって堅い人だなぁ・・・」

ジンはため息交じりにそう呟き、その視線を下に向ける。アキラと気軽に話せるようになったとはいえ、 アキラの性格のためかどうも話が盛り上がらない。そうジンは思っていた。それだけでなく、 盛り上げようとしてもアキラがそれを拒んでいるかのように、ジンは何となく感じていた。

1度でもいいからアキラさんと盛り上がる会話をしたい。そんな事を思いながら、ジンはどんな話をしようかと頭の中で考えた。 ふと目に入ったバイクについて話すことを考えたが、アキラの性格を考えれば「別に普通のバイクだ」と即答されそうであるし、 夜空が綺麗な事を話せば「だからどうした」と帰って即答率が上がる。

では、どうすればいいのか。ジンが神経回路をフル活動させて考えていた時、ふとジンの中にある考えが浮かんだ。 それをアキラがどう返してくるか不安ではあったが、ジンはその顔をアキラの方へ向け、その口を開いた。

「そういえば、どうしてアキラさんは『大蛇の涙』を手に入れようとしてるんですか?」

ジンの呟いた問いかけに、無表情だったアキラの表情が一瞬だけ変わった。 その一瞬の反応を見てジンは聞いてはいけない事を聞いてしまったと感じたが、アキラは無表情のまま視線だけをジンの方に向け、その口を開く。

「そんな事を知ってどうするつもりだ?」

「い、いやその、どうするつもりもないんですけど・・・・・ちょっと、気になっただけで・・・。あの、聞いちゃ・・・ いけなかったですか・・・?」

「・・・別に。ただ、話した所でお前が理解できるとは思えない」

「え?どうしてですか?」

「お前は・・・5年前の『化け物狩り』を知ってるか?」

アキラの口から出た聞いたことのない単語にジンは頭上にクエスチョンマークを浮かべ、その首を傾げる。 全くと言っていいほどそれがわからないという表情を見せたジンに、アキラは軽く溜息を零した。

「知らないなら話しても無駄だ。それがわかっていなければ、俺が話してもお前は理解できない」

「そ、そうですか・・・」

「・・・逆に聞くが、お前はどうして『大蛇の涙』を手に入れようとする?」

「ぼ、僕ですか?あ、ぇえっと、僕は・・・」

自分が質問したことを逆にアキラに問いかけられてしまい、あまりに突然の事にジンは動揺し思わず俯いてしまった。 気持ちを落ち着かせて動揺を消し去ったジンは、少しの間黙った後、その問いに答えた。

「僕には、4つ上の姉さんがいるんです。父さんと母さんは外国で仕事してて、小さい時から僕は姉さんに育てられてました。けど、 そんな姉さんが・・・少し前に病気になってしまったんです」

「病気?」

「はい。その病気はただの病気じゃなくて、今の医療技術じゃどうすることもできない不治の病なんです。 医者に生きていられるのは長くてもあと1年って言われて・・・今までずっと一緒だった姉さんを、そんな病気で死なせたくなくて・・・。 その時、ここの試合の事を知ったんです」

「それで・・・その姉の病を治そうと、願いを叶えてくれる『大蛇の涙』を手に入れようとしているわけか」

「はい・・・。だから、戦って相手を傷つけることをしてしまっても、僕は最後まで負けたくないんです。僕の姉さんを、 不治の病から救うために・・・」

そう呟き、ジンは決意に満ちた表情を浮かべる。例えそれが相手の願いを挫くことになっても、自分の願いを叶えたい。 そんな13歳の少年とは思えない強い決意が、表情だけでなく、その透き通った瞳にも表れていた。

その姿を見てか、無表情だったアキラの表情にも僅かながら変化が見られた。 何かに対して驚くような表情を一瞬だけ見せたアキラだったが、しかし、決意の表情に満ちたジンに何も話しかけず、 ふと無言のまま入口の方へと歩き出した。それに気づいたジンは、慌ててアキラに声を掛ける。

「あ、アキラさん?何処行くんですか?」

「試合だ。もう時間が来た」

「そうでしたか。・・・頑張ってくださいね、アキラさん」

「・・・そう言う暇があるなら、自分の願いが叶うように努力しろ」

無愛想にそう答えたアキラは、目の前にある入口を抜ける。その表情は、硬い鋼のように無表情に包まれていた。

 

 

 

 


大歓声と熱気に包まれたコロシアムの舞台。 スポットライトで明るく照らされているそこはもう騒がしい以外の言葉が浮かばない程の賑やかさに満ちており、 舞台にまだ選手が誰も上がっていないにも関わらず、観客達は既に興奮し始めていた。

そんな舞台の上に、アキラは姿を現していた。舞台の入り口から無表情のまま舞台の中央へと歩き進み、 視線の先に見える対戦相手が出てくるだろうもう1つの入り口を眺める。 奥の見えない漆黒の闇に包まれた入口を前に無表情なアキラはその表情を変えることはなく、 騒がしい観客席に対する萎えを心の中で膨らませるばかりだった。

しかし、入口から出てきた対戦相手に、アキラの表情は微かに驚きを見せた。

漆黒の闇に包まれた入口から姿を現したのは、白い服に身を包んだ、ジンと同じぐらいの年頃の少女。 体を動きやすくするためかやや露出度の高いその服が特徴的なその少女は、まだ子供であるにも関わらず、 その瞳に常人では計り知れない程の闘気を放っていた。だが、肌にピリピリと感じるそれにアキラは酷く驚くことも恐れ狂うこともなく、 ただただ無表情のままその少女に目を向けていた。

やがて、入口から出てきたその少女はアキラのいる舞台の中央までその足を動かし、アキラの目の前までその距離を縮める。そして、 強い闘気を見せるその少女を前に、アキラは鋭い視線を少女に向けた。

「トーナメント表を見てまさかとは思ったが、やはり別人ではなかったようだな。ここまで来たということは、目的は俺を止めるため・・・ か」

「・・・えぇ。本当はこんな所で止めたくはなかったけど・・・あの子のためにも止めなきゃならないの・・・・・・・アキラ兄さん」

そう呟いた少女は、闘気を放っている瞳から更に強い闘気を放ち、目の前にいるアキラにそれをぶつける。しかし、 アキラの鋼のように無表情な顔はその強烈な闘気を受けても変化することはなく、逆に少女を睨む目の鋭さが増すばかりだった。

互いに視線をぶつけていたその時、コロシアムに設けられたスピーカーからアナウンスが流れた。

『舞台に選手が出場いたしました。これより、オーシャンコロシアムマッチ準々決勝第1回戦、アキラ選手対カナ選手の試合を始めます』

スピーカーからの声がコロシアムに響き渡り、そのスピーカーから試合開始のゴングが鳴り響く。 その瞬間観客席からこれまで以上の大歓声が上がり、観客席のボルテージが急上昇する。

そんな酷く騒がしい空間の中、カナという名の少女はその闘気を損なわすことなくじっとアキラに視線を向け、アキラもまた、 カナに向けている鋭い視線を緩めることはなかった。互いに視線を向け続けている状態で、アキラは静かにその口を開く。

「・・・始まったな」

「アキラ兄さん・・・・・お願い、もう1度考え直して・・・!あなたが大蛇の涙を使ったら、皆が・・・!」

「俺から大切なものを奪ったあいつらには、それなりの罰を受ける義務がある。例え、 あいつの親友であるお前が俺の前に立ちはだかったとしても・・・・俺は、大蛇の涙を手に入れなければならない」

「・・・わかったよ、アキラ兄さん。今のあなたに、何を言っても無駄だって。だったら・・・・・あの子のためにも、絶対にここで・・・ あなたを止める!」

決意の込められた力強い声を上げると、カナは腰に設けられたボールホルダーからモンスターボールを3個取り出し、 それを自分の眼前に広がるコンクリートの地面に向けて投げる。地面と衝突したそれは勢いよく蓋を開き、 眩い光と共にモンスターボールに収められていたポケモンがその姿を現した。

モンスターボールから出てきたのは、ピジョット、ヨルノズク、オオスバメ。人と同じぐらい巨大な鳩と、 顔の大部分を占める程の眼を持った大きな梟、そして濃紺色の羽毛に包まれた燕のような姿の3匹のポケモンは鋭い目でアキラを睨み、 カナと同じく強烈な闘気を放つ。しかしそれを受けてもアキラは動じることは無く、目の前に現れたポケモンにただただ目を向けていた。

「昔、あいつと一緒に遊ばせていたポケモンか」

「えぇ。この子達は、あの子の気持ちをちゃんと受け止めてる私の大事なポケモン。だから、親しかったあなたが相手でも・・・・・ この子達は戦う意思を見せる」

そう言うと、カナは闘気を放っていた瞳をゆっくりと閉じ、同時に勢いよく右腕を上げる。高く上げた右手の掌を大きく開くと、 カナの目の前にいたピジョット、ヨルノズク、オオスバメの体から突如眩い光が発し始め、光はその体を見えなくする程に覆い尽くす。 やがて光に包まれた3匹は光の玉となって宙を舞い、1つはカナの背中、1つは右目、1つは右手に纏わりつき、カナの体を明るく照らす。

そして、カナは力強く、こう叫んだ。

「トランス!」

カナの声が轟いたその瞬間、背中、右目、右手に纏わりついた光がの玉から眩い光が放出した。 上半身全体を覆い隠す程の強烈な光に観客席からはどよめきが広がり、アキラもその光をじっと眺める。

そして、カナの上半身を覆い隠していた光がその輝きを失い、変化した姿をアキラの前に晒した。

高く上げているカナの右手にはピジョットの羽を模った装着型ボウガンが装着されており、 右目にはヨルノズクの目を模った片眼スコープが、そして背中にはオオスバメの翼を模った巨大なジェット噴射器が装備されている。 その姿は翼を生やしたクロスボウ・スナイパーのような、とてもジンと歳が変わらなそうな少女には見えない姿だった。

そんなカナはピジョットのボウガンを装着した右腕をアキラの方へ向け、右目に装着したヨルノズクの片眼スコープでアキラの睨む。 しかし、戦闘態勢を整えたカナを前にしても、アキラの表情に変化が起こることはなかった。

「・・・懐かしい姿だな」

「えぇ・・・。あの出来事が起きてから4年振りに、私はこの姿で戦うことになったから。でも、私はアキラ兄さんに負けない。絶対に・・ ・負けない!」

「威勢はいい。だが所詮はトランス。そんな幼稚園児でも出来るもので俺に勝とうなど、考えが甘い」

そう呟いたアキラはボールホルダーからモンスターボールを1つ取り出し、それをカナに見せつける。 堂々と見せつけられたそのモンスターボールに、カナはその中に納められているポケモンが何者であるかをすぐに察した。 それをカナの表情で悟ったアキラはそのモンスター地面に放り投げ、地面と衝突したそれは勢いよく蓋を開く。

そして、眩い光と共に、それは姿を現した。

現れたのは、ハガネール。巨大な頭に剣のように鋭い尻尾と、 その全身を包む鋼のように頑丈な皮膚を持つその巨大な鉄蛇は姿を現すや目の前にいるカナを鋼のように鋭い眼で睨み、 地響きを起こす程の咆哮を上げる。そのハガネールの威圧に、カナは若干表情を歪めさせ、どこか悲しい瞳を見せる。

「ハガネール・・・。やっぱり、あなたもアキラ兄さんと同じなのね・・・。あの子と遊んでたあの時のハガネールと、全然違う・・・」

「こいつも、そして俺自身も、皆1つの願いのために動いている。あいつらに・・・・・罰を与えるために」

そう答え、アキラはハガネールに向けて右手を伸ばし、大きく手を広げる。すると、ハガネールの巨体から眩い光が発し始め、 その光がハガネールの巨体を包み込んでいく。やがて掌ほどの光の玉となったそれはアキラの右手に吸い込まれるように浮遊し、 その手に纏わりつく。

光の玉が纏わりつく右手をアキラは高く上げると、その瞳をゆっくりと閉じ始める。そして、アキラはこう呟いた。

「・・・フュージョン」

目の前にいるカナですらやっと聞き取れるかのような声で呟いたアキラは、光の玉が纏わりつく右手をゆっくりと胸に近づけ、 光の玉を胸に押し当てる。胸の中に光の玉が浸透したその瞬間、アキラの体から眩い光が放たれた。

全身を覆い隠し、その姿を見えなくする程の強烈な光にどよめきが広がっていた客席から更にどよめきが広がり、 目の前にいるカナも心に嫌な予感を募らせ、それが表情にも表れ始める。それでもカナは目の前で輝く光を凝視し続け、 姿を変えて出てくるだろうアキラを待つ。

そして、光が輝きを失い、それは姿を現した。

鎧で身を固めたかの如く上半身全体を包み込む、鋼の皮膚。右手に出でし剣のように鋭いハガネールの尻尾と、 左手に出でし巨大なハガネールの頭部。そして、角を生やした兜の如く変形した頭部。下半身に変化がなく、上半身が変化したそれは、 第1回戦でヘルガー獣人と化したゴウキをいとも簡単に倒した、炎にも溶けない体を持つ「ハガネール獣人」となったアキラの姿だった。

ハガネールの頭部に変形した左手の威圧感と、その異様な姿を前にしての威圧感が同時に襲いかかり、カナは思わず1歩後ずさる。 そんなカナにアキラは角を生やした兜の如き頭部を成した目から殺気を放ち、気圧されているカナに更に追撃の威圧を掛けた。

「ンッ・・・!すごい・・・これが、アキラ兄さんの願いを叶えたい力・・・」

「俺は、願いを叶えるためならどんな姿になっても構わない。例え、それが周りにとって『邪』の存在となっても・・・だ」

「なら・・・・・私は、『邪』となったあなたを倒す!」

力強い言葉をカナが口にすると、右手に装着したピジョットのボウガンをアキラに向けたまま地面を強く蹴り、跳躍する。その瞬間、 背中に装備したオオスバメのジェット噴射器の噴射口からけたたましい炎が放出し、カナの体を勢いよく空へ飛ばした。

空を飛んだカナは背中から生えた翼で空を舞うかの如く空中を移動し、アキラの頭上に広がる上空まで飛翔する。 アキラの姿が小さく見える程の高さにいるカナだったが、しかし、 右目に装備したヨルノズクの片眼スコープで眼下を見るカナには小さく見えるはずのアキラの姿が拡大して見えていた。

アキラの姿がはっきりと見えているカナは、ピジョットのボウガンの標準をアキラの胸に合わせ、 ヨルノズクの片眼スコープを装備した右目でその胸を睨む。そして右手に力を込め、ピジョットのボウガンに装填された矢を発射した。 小さな銃声と共に発射された矢は弾丸のそれよりも速く突き進み、アキラの胸を貫かんとその鋼の体に襲いかかる。

だが、そんな行動をアキラは既に読んでいた。迫りかかる矢を前にアキラはハガネールの巨大な頭部と化した左手で体を覆い隠し、 閃光の如し勢いで襲いかかった矢を弾き飛ばした。虚しく防がれてしまった矢は地面に落ち、蒸発するかのように空間に消え去る。

カナの放った矢を防いだアキラは上空にいるカナを見上げ、角を生やした兜と化した頭部の目でカナを睨む。 オオスバメのジェット噴射器によって空を飛んでいる今のカナは到底攻撃が届かない高い位置におり、 カナ自身もそれが戦闘で有理な位置であることを知っていた。

しかし、アキラはその位置まで届く攻撃手段を持っていた。

アキラは体を覆い隠すように構えていた左手を振り上げ、その巨大なハガネールの頭部を上空にいるカナに向ける。そして、 ハガネールの頭部は大きな口を開き始める。

「ブレイク・ロックブラスト」

静かにそう呟くと、ハガネールの頭部と化した左手の大きく開いた口から、轟音と共に荒々しい岩が発射された。 砲弾の如し重さを持ちながら弾丸の如し速さで岩は空中を突き進み、上空にいるカナに襲いかかる。 とてつもない勢いで迫って来たそれをカナは横へ飛翔して避け、矢の装填されていないピジョットのボウガンを眼下にいるアキラに向けて構える。

すると、ピジョットのボウガンの銃口から一瞬光が発し、その光が消えた途端、ピジョットのボウガンの矢が装填されていた。 矢が装填されたのを確認すると、カナはヨルノズクのスコープでアキラの右足を捕え、そして右足目掛けてピジョットのボウガンを放つ。

閃光の如し勢いで迫って来た矢にアキラは大きな口を開いた左手を足元まで運び、その両足を覆い隠す。それと同時に左手に矢が直撃し、 弾き飛ばされた矢が地面に落ち蒸発するかの如く空間に消える。そしてアキラは上空にいるカナに再び攻撃を繰り出そうと左腕を振り上げ、 上空を見上げる。

だが、見上げた先にカナの姿はなかった。アキラは上空を見渡すが、カナの姿は何処にも見当たらない。

「はああぁぁ!!」

背後から発した気合いに満ちた声にアキラが気付き、角を生やした兜の如し頭部を背後に向ける。その時アキラの目が捕えたのは、 上空から急降下し、低空飛行しながら凄まじい勢いで迫り来るカナの姿だった。

低空飛行をしながら突進してくるカナを前にアキラは体の向きを変えて攻撃態勢を整えようとしたが、 それよりも速くカナがアキラの目前までその距離を縮める。接近したカナは軽やかな動きでアキラの右肩に足を乗せ、 角を生やした兜の如し頭部に矢の装填されたピジョットのボウガンを突きつける。

「零距離射撃(ゼロレンジショット)!!」

気合いの声を発したと同時にカナは右手に力を入れ、ピジョットのボウガンから矢を放つ。 射程の全くない零距離からの射撃によって矢には本来の数倍もの威力が加わり、重みの増した矢がアキラの頭部に突き刺さる。

だが、鋼の皮膚に包まれているアキラには威力の増した矢を受けてもその頭部を貫くことはなく、 頭部に先端が突き刺さっているだけだった。しかしそれでもアキラには痛みが伝わっており、 頭部に突き刺さった矢の痛みにアキラは一瞬苦い声を零す。それと同時にアキラはハガネールの尻尾と化している右手をカナ目掛けて振り払うが、 オオスバメのジェット噴射器で空を飛ぶカナは上空へと上昇してその攻撃を避け、アキラから再び距離を離した。

頭部に突き刺さった矢をアキラはハガネールの頭部と化した左手の大きな口で銜えて引き抜き地面に投げ捨て、カナのいる上空を見上げる。 アキラは左手から再び岩を発射して攻撃しようとしたが、 カナの背中に装備されたオオスバメのジェット噴射器の機動力によって避けられてしまい、自分の攻撃の隙を突いて攻撃されてしまうだろう。 かといって攻撃しなければ、こちらが防戦一方になってしまう。そうアキラは考えていた。

「・・・ややこしい奴だな」

ふとそんな事をぼやき、アキラは上空にいるカナにどう攻めたら良いかを考える。少しの間考えた後、アキラは1つの結論に辿り着いた。

――――相手が空を飛んでいるのなら、こっちも空を飛べばいい。

ハガネールに翼が生えているわけでもないため、それは不可能に近い。否、不可能なこと。だが、その不可能を可能にするポケモンを、 アキラは既に所持していた。

「少し早いが、出番だ」

そう呟くとアキラはハガネールの尻尾と化した右手をベルトのボールホルダーまで運び、その手でボールホルダーを軽く叩く。すると、 その衝撃でボールホルダーの中にあったモンスターボールの1つが勢いよく蓋を開き、 眩い光と共にその中に納められていたポケモンがアキラの横に姿を現した。

現れたのは、エアームド。鋼色に輝く皮膚と槍のように鋭い嘴、 そして刃のように鋭利な翼を持ったそのポケモンは大きく翼を広げて耳を貫くような甲高い鳴き声を上げ、上空にいるカナを睨みつける。 アキラが新たに呼び出したポケモンに上空にいたカナは驚きの表情を見せ、甲高い鳴き声を上げているエアームドを凝視する。

「エアームド・・・!まさか、あのエアームドと!」

カナはアキラがやろうとしていることを察し、その身に危機感を感じていた。 それを他所にアキラは横で鳴き声を上げているエアームドにハガネールの尻尾と化した右手を伸ばし、その先端をエアームドに向ける。

瞬間、エアームドの体から眩い光が発し始め、その光がエアームドの全身を包み込んだ。 やがて光で全身を覆い隠したエアームドは掌ほどの光の玉となって浮遊し、アキラの右手の先端に纏わりつく。

そして、光の纏わりついた右手を高く上げ、アキラはこう呟いた。

「・・・フュージョン」

上空にいるカナには聞き取れない、小さな囁きにも近い声でそう呟いたアキラは高く上げた右手を自分の胸に近づけ、 光を纏った右手の先端を鋼の皮膚に包まれた胸に押し当てる。その瞬間、アキラの体から眩い光が放たれた。

フュージョンしている体に更にフュージョンし始めたアキラに観客席からこれまで以上のどよめきが広がり、 上空にいるカナも想像していたことが的中し、その顔に「危機」の意を示した表情を浮かべる。 カナは光に全身を包み込まれたアキラを前に矢を放つことも出来ず、新たな姿となって出てくるだろうアキラを凝視する。

そして、光がその輝きを失い姿を現したアキラに、カナは驚愕した。

見た目こそは先程と変わらない、右手と左手にハガネールの特徴が見られる鋼の皮膚に包まれた体。しかし、 その背中から身を包み込んでしまいそうな程に巨大なエアームドの翼が生え、エアームドの体とそのまま融合したかの如く、 エアームドの頭部と体の形をした皮膚がその翼の根元に派生していた。その姿はまさに、翼を生やしたハガネール獣人そのものだった。

大きく姿が変わらず、しかし明らかに先程とは違う姿になったアキラに驚愕していたカナは、 姿を変えたアキラの前とは違う威圧感に気圧されていた。恐怖にも似たその圧力にカナの左手は微かに震え始め、 それに気づいたカナは慌てて左手を力強く握り締める。

「な、何・・・あのフュージョン・・・」

「・・・攻めてこないか。ならば、こちらから仕掛ける」

上空にいるカナを見てそう呟いたアキラは、背中から生えた巨大なエアームドの翼を広げ、その翼を力強く羽ばたかせる。 鋼で出来たその翼が一度羽ばたくだけでアキラの体は勢いよく宙を舞い、更に連続して羽ばたきその体は勢いよく上空へ飛翔した。

鋼の皮膚に包まれ重たいはずのアキラの体が自分よりも速く空を飛んでいることにカナは焦りを見せ、 接近を恐れたカナは逃げるように横に飛翔する。それに乗じてカナはアキラ目掛けてピジョットのボウガンを放ち、 矢が銃口から離れた瞬間に光と共に矢を生み出し、発射と間髪入れずにそれを装填して再び発射する。 それを何度も繰り返しカナはピジョットのボウガンから矢を連射し、迫りくるアキラに雨の如し数の矢を放った。

だが、その矢の雨をアキラはハガネールの巨大な頭部と化した左手で全身を覆い隠すことで防ぎ、上空へと飛翔する勢いを緩めない。 横に移動しながら矢を放つカナにアキラは矢を防ぎながら近づき、やがてその距離は目と鼻の先にまで縮まっていた。

「クッ・・・!こうなったら一気に下に降りて――――」

「遅い」

カナの声を制するかの如くアキラの呟きが発した瞬間、目の前まで接近していたアキラが力強く翼を羽ばたかせ、 一瞬にしてカナの真後ろまで回り込んだ。カナがそれに気づいた時には既にアキラは攻撃態勢を整えており、空中でその身を回転させる。

そして、体を回転させたことによって遠心力の乗った右手で、オオスバメのジェット噴射器が装備されたカナの背中を殴り飛ばした。

ハガネールの尻尾と化した右手はハンマーのように重く、更に遠心力が乗っていたためその重さは数倍にも跳ね上がっていた。 その凄まじい威力を持った右手によってオオスバメのジェット噴射器は砕け、カナの体は勢いよく地面へと吹き飛ばされた。 背中を殴られ悲鳴を上げながら落下するカナは背中から地面と衝突し、更にその勢いが止まらず体がバウンドする。

再び背中を地面と衝突させたカナは背中から全身へと伝わる激痛に苦しみの表情を浮かべ、その苦しみが顔を歪めさせる。 オオスバメのジェット噴射器の噴射口からまだ炎が出ていたため幾分墜落の衝撃を緩和出来ていたが、 それでも背骨から筋肉に痛みが響いていたのだ。

そんなカナは立ち上がろうと体を起こそうとした時、ふと上空にいるアキラの姿が目に入る。そしてその時、カナは愕然とした。

上空にいるアキラが見せていたのは、左手のハガネールの頭部が大きな口を開き、その口を地面に倒れているカナに向けている姿。 それはすなわち、倒れているカナに追い打ちを掛けようとしている姿だった。

「ブレイク・ロックブラスト」

そう呟き、アキラは左手から大砲の如し勢いで岩を連射する。間髪いれずに放たれた無数の岩は宛ら流星群の如く群れを成して突き進み、 地面に倒れるカナへと襲いかかる。カナは体を動かしその場から離れようとしたが、体中の痛みが筋肉を麻痺させていたため、 体が言う事を聞かない状態だった。体の痛みが邪魔をして動けない中、カナは迫りくる岩の雨に断末魔の叫び声を上げる。

そして、アキラの放った岩の雨は、地面に倒れるカナに降り注いだ。

地面と着弾した岩はコンクリートで出来ているそれをいとも簡単に吹き飛ばし、粉塵を巻き上がらせる。 断末魔の叫び声を上げるカナの姿は舞い上がる粉塵へと消え、その粉塵の中へと岩達は容赦なく降り注いでいく。 そんな光景に観客席からカナが助かっているか心配するどよめきが広がり、騒がしかった舞台に緊張が走る。

岩達が地面に降り注いでからしばらくして、立ち込めていた粉塵が空間の中に消える。そして舞台に現れたのは、地面に倒れ、 口から血を吐き荒々しく呼吸するカナの姿だった。

幸運にも降り注いだ岩に1つも直撃しなかったカナだったが、降り注ぐ岩はコンクリートの地面を吹き飛ばす程の威力。 当然カナの体にその衝撃は伝わり、直撃はしていなくともその身には凄まじい衝撃が痛みとなって襲い掛かっていた。 体中を駆け巡る激痛は内臓器官をズタズタに傷つけ、更なる痛みとなってカナを苦しめている。

そんなカナのすぐ近くに、翼を広げたアキラがゆっくりと着地した。トンッ、 と大きな音を立てずに地に足をつけたアキラを周りにいる観客は妙に恐れた表情で見ていたが、 コロシアムに設けられたスピーカーから発したアナウンスによって、それは一気に消え去った。

『カナ選手、ダウン。よって、準々決勝第1回戦の勝者はアキラ選手に決定致しました』

試合終了を意味するそのアナウンスが流れた途端、静まっていた観客席から大歓声が上がった。 倒れているカナに対するアキラの容赦ない攻撃に観客は心配そうにしていたが、命に別状がないならどうでもいい。そう観客は思っていた。

再び騒がしくなった観客席を他所に、アキラは血を吐いて倒れているカナに目を向ける。微かに開いた目でこちらを見ているようだが、 その息は酷く荒々しく、口元は自分の吐血で赤く彩られている。苦しそうではあるがまだ生きている、そう確信したアキラはカナに背を向け、 その場から立ち去ろうとする。

しかし、その時だった。

「待っ・・・て・・・」

背後から聞こえた酷く苦しそうな声にアキラは気づき、視線だけをカナの方へ向ける。その目が映したのは、 苦しい表情を浮かべる顔をこちらに向け、傷だらけの体を起こそうとするカナの姿だった。 激痛で言う事を聞かない体を動かそうとしているカナに、アキラは言葉を放つ。

「もう試合は終わった。大人しくそこで寝ていろ」

「ま・・・だ・・・動・・・ける・・・。ま・・・だ・・・戦え・・・る・・・」

「諦めろ。何度お前が俺に挑もうと、結果は同じだ」

「わ・・・た・・・しは・・・諦め・・・ない・・・。こ、この・・・命が・・・尽き・・・ても・・・・・あなたを・・・止める・・・! 」

「・・・その命、あの時尽きさせてやらなかっただけ、ありがたいと思うんだな」

そう言い残し、アキラはその場から立ち去った。その言葉に、カナはようやく理解した。 無数の岩が降り注いだあの場所で1つも岩に直撃しなかったのは、アキラがわざとカナを外して岩を撃っていたからだと。

全てを知ったカナはアキラに理由を聞こうと歩き去るアキラの背中を見る。しかし、 鋼の翼を生やしたその背中は既に声が届かない程までに、小さく小さく見えていた。

 

 

 

 


To be continued...

posted by 宮尾 at 23:41| Comment(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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